第66話
「カリーナちゃん、お姉さんのこと嫌いなのかい?」
「・・・うん。だってお姉様はわたくしのこと大嫌いだって」
薄いピンク色をした髪を揺らしながら10歳ぐらいの少女、カリーナは答える。
「わたくしが何かやるといつも怒るんだもん」
「それはカリーナちゃんのことが心配なだけじゃないかな?」
「違うもん」
カリーナは男性の言うことが分からなかった。
「どうしてアランさんには怒らないの?なんでわたくしだけに怒るの?」
「ははは、僕も怒られることはあるさ」
「そうなの?」
「ああ。お姉さんは僕のことを心配して怒ってくれるんだ」
「心配して怒る?」
「そうだよ。まぁ、お姉さんは少し厳しめな性格だから、少し堪えるけどね。さてと、僕はそろそろ行こうかな」
アランは立ち上がって、森の中へと歩いていった。
岬に取り残されたカリーナは頭を悩ませていた。
今の会話はこの時のカリーナには少し難しい話だったのだ。
カリーナには姉がいる。
だが、決して仲が良い姉妹とはいえなかった。
何故ならカリーナの姉はカリーナに対していつも厳しく当たっていたから。
「・・・お姉様が許してくれるはずがないよ」
カリーナはもっと幼い頃に言われたある言葉が頭の中で繰り返される。
『私のママを奪った人なんて妹なんかじゃない』
この言葉は何度も夢に出てきた。いや、今でも夢に出てくるぐらいだ。
「でも・・・わたくしが・・・・・・わたくしがお姉様からお母様を奪ったのは・・・本当なんだから」
☆ ☆ ☆
(お姉様・・・)
わたくしはアランの亡骸の近くに落ちていたペンダントを見ながら、昔を振り返っていた。
(なんでこれが、わたくしがプレゼントしたペンダントが落ちてますの?これはあの時、お姉様と一緒に・・・)
「ーナ・・・、カリーナっ!」
「っ!?」
気が付くと、ソフィアの顔が目の前にあり、わたくしは驚いてしまいました。
☆ ☆ ☆
「ーナ・・・、カリーナっ!」
「っ!?」
カリーナがびくりと身体を震わせて反応を示してくれた。
「大丈夫ですか?カリーナ、さっきから様子がおかしいですよ?」
「え、ええ。大丈夫ですわ」
カリーナはベッドに眠るように横たわるアランの死体を見てから様子がおかしかった。
「もしかしてアランさんのこと知っていたんですか?」
「え、ええ、まぁ」
今は屋敷の庭で辺りを調べているところだ。ソフィアと俺はカリーナの様子がおかしかったので、一緒に行動をしていたのだ。ココナは1人で範囲を広げて調べてくれている。
ココナなら1人で逃げることは出来るだろうしな。
「おーーーい」
遠くからココナの声が聞こえてきた。
「大変大変態!!」
「へ、変態?」
「違うよ!変態なの!!」
「ココナさん、落ち着いてくださいな」
ココナは落ち着くために深呼吸を始めた。そして、落ち着いたのか話し出す。
「シエルさんのところの皆がやられちゃったんだって!」
「「ええっ!?」」「にゃっ!?」
まさかの知らせに俺達は大きな声で驚いてしまう。
え、いや、嘘だろ!?
「シエルさんは無事なの!?」
「うん。岩影に隠れてやり過ごしたみたい」
シエルは無事だったか。
「相手は人の姿をしてるらしいんだけど、今はミレイが1人で追いかけてるって」
「人の姿・・・アンデッドではなくて?」
「ココナは見てないからわからないけど違うみたい」
人の姿をしていて、アンデッドではない。そして、レジスタンスの団体では相手にならない。ということは。
「ココナ、私を抱えて走れる?」
「う、うん。出来るよ」
「お願い!私を抱えて出来るだけ急いで町に戻って!」
「わ、わかった!」
「リアン!」
「にゃ!」
ソフィアに呼ばれ、ココナに抱き抱えられたソフィアの上に俺は乗った。
「わたくしも行きますわ!」
「危険ですよ。それでもいいんですか?」
あくまでも一般人であるカリーナをあれ相手に巻き込みたくはない。そう思っての言葉だったが。
「ええ。ソフィアが行くのならわたくしも共に行きますわ!それに、わたくし自身も行かなきゃいけない気がするのですわ」
カリーナの目は真剣だった。
「わかりました。ココナ、お願い!」
「りょーかい!!」
俺達は大急ぎて町に戻るのだった。
☆ ☆ ☆
「うわぁぁぁ!!」
「誰か!!誰かこの子を!!」
ルマルタの町は混乱状態に陥っていた。
町の3分の1程が燃え、煙が上がっている。逃げ惑う者や、破壊された建物の瓦礫近くで子供を助けて欲しいと泣き叫ぶ女性の姿もあった。
「撃て撃てぇ!!」
「奴をこれ以上好きにさせるなぁ!!」
その一方で、町に滞在していたレジスタンスの人達は、事の原因の黒い影を纏う人、イブリスを止めるために攻撃をし続けていた。
だが、幾ら魔法を放ってもイブリスは止まることがなかった。逆に同じような魔法で反撃され、レジスタンスの面々がやられていた。
そして、イブリスに触れられた者は
「下がりなさい」
レジスタンスの面々がイブリスを囲う中にそんな声が響き渡る。
すると、イブリスいきなり踵を返し、下がっていった。
その向かった場所には1人の黒いローブを深く被った人、スラヴァの姿があった。
「・・・ふむ、君は優秀ですねぇ」
スラヴァに対してはイブリスは従順に従っているように見える。
ということは、レジスタンスからしたら事の原因である謎の人型の生物をこの場に送った人物ということになる。
「奴だ!!奴を狙え!!」
誰かがスラヴァを敵と認識して叫んだ。
「守りなさい」
「・・・わかりました」
レジスタンスから多数の魔法が放たれた。それは2人だけを相手にするには過剰ともいえる数だ。
しかし、突如2人を守るように障壁が展開された。だが、レジスタンスの面々はこれだけの数の魔法なら崩せる。そう考え、攻撃の手を緩めなかった。
「やはりそれが貴方の『アギト』ですか」
「・・・・・・・」
攻撃の波が収まると、展開していた障壁が弾けるようにして、周りに拡散する。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
「腕がっ!!腕があぁぁぁ!!!」
「なにが、起こって・・・」
周りを囲んでいたレジスタンスに数多の魔法が襲い掛かったのだ。
「なるほど。吸収・展開する能力、『
スラヴァはにやりと笑い、周りに倒れているレジスタンス達を見下ろす。
「さて、ここにいる者の魔力も回収しなさい」
「・・・・・・わかりました」
イブリスはスラヴァの指示に従い、レジスタンスの人々に向けて長い髪を伸ばし、魔力を吸収していく。
「モニカ?モニカなのか?」
そこに1人の男性の声が響いた。
「・・・・・・父上」
モニカの、イブリスの視線は父であるその姿を目に止めた。
「殺りなさい」
「・・・・・・わかり、ました」
そして、スラヴァは止まるモニカに残酷な一言を掛けるのだった。
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