閑話 2

 私は自分の目が大嫌いだ。

 周りの皆は同じ瞳の色をしているのに、私の瞳は片目でそれぞれ違うから。

 オッドアイというらしいが、この目のせいで私は・・・。



「あの・・・仲間に入れてくれない?」


 私は勇気を出して同い年ぐらいの10歳ぐらいの子供に声を掛ける。


「悪魔の子が来たぞー!!」

「呪われる前に逃げろー!!」


 だけど、そんな言葉と共に皆は走り去ってしまった。そして、私の周りから誰もいなくなった。遠くからは大人達から奇異な目で見られているのがわかる。


「・・・・・・・・ぐすっ」


 いつものこととはいえ、私の目には涙が溢れてくる。私はただみんなと遊びたいだけなのに。私はただ、みんなとお話ししたいだけなのに。


「お母様・・・お父様・・・・なんでソフィアは悪魔の子なの?」


 もうこの世にいない両親に質問を投げ掛ける。

 それに答えてくれる人は誰もいないのはわかっているが、それでも聞いてしまう。


 私はとぼとぼと、お世話になっている親戚のミール家の家に帰る。


「・・・・・・・ただいま戻りました」

「お帰り、ソフィア」


 中に入ると優しそうな女性が私を迎えてくれる。


 彼女の名前はレニア・ミール。私のお母様の妹だ。年は30半ばぐらいで、私を引き取ってくれた人だ。


「どうしたんだ?ソフィア。また何か言われたのか?」


 そして、今度は優しそうな男性の声が聞こえてくる。


 彼はデリック・ミール。レニアおばさんの夫だ。


 私はこの夫婦2人と一緒に、小さな村の小さな家で3人で暮らしている。

 この2人に子供はいない。どうやら子宝に恵まれなかったそうだ。


 だから、私のことを本当の子供のように接してくれた。

 そのおかげであの時の恐怖や絶望は、4年経った今では幾分和らいだ。


「・・・・・・ううん。大丈夫」

「「・・・・・・・」」


 だから、お世話になっているこの2人には心配を掛けたくないという気持ちが優先してしまい、いつもの通りに我慢をする。


「・・・・・・そうか。何かあったら何でも言うんだぞ」

「・・・・・・うん」


 そして私は、自室に入ってベッドに身を投げ出して、1人で泣き始めた。



 ☆     ☆     ☆



「・・・・・また苛められたのかな」

「・・・そうね。あの様子だとそうなんじゃないかしら」


 ソフィアが居なくなった後、レニアとデリックが話し始めた。


「ねぇあなた。ソフィアと一緒に別の町や村に引っ越した方があの子のためじゃないかしら?」

「・・・いや、多分ソフィアの目を見たら、大体の人は怖れる。そしてそこからまた苛めが始まる。そんな事をあの子に何回も体験させたくはないんだ」


 ソフィアはオッドアイだ。オッドアイは昔から悪魔の目とも云われ、恐れられてきた。


「だけどソフィアは決して怖くなんてないわ。あの子はとても優しいし、周りにも気を配れる。それに目だって、よく見るととても綺麗なのよ」

「それはわかっている。だから私達だけでもソフィアの味方でいなければならない」


 実はソフィアを引き取ってから、レニアとデリックも苦労をしていた。

 子供を養うというのもそうだが、悪魔の子を引き取った・・・連れてきた者として、元々住んでいたこの村でも虐げられるようになったのだ。


 デリックの働き口は何とかなってはいるが、周りからの反応はあまり良いとは言えない。


「レニア、あの事をソフィアに話してもいいかな?」


 デリックはレニアにそう質問をする。

 レニアは目を閉じて考える。そして、少し間を置いてから目を開けて答える。


「ええ。あの子も10歳になった。まだ子供とはいえ、色々なことを理解できる歳。お願いしてもいいかしら」

「もちろんだ。少しソフィアと話してくるよ」

「お願いね。あなた」


 デリックは腰を浮かして、ソフィアの部屋へと向かった。



 ☆     ☆     ☆



「ソフィア、入るぞ」

「・・・・・・・はい」


 私は目を擦り、涙を拭く。最近デリックおじさんは私の部屋に入る時に、断りを入れるようになった。

 たぶん、私が女の子だからだとは思うけど、気を使ってくれることは嬉しい。


「・・・泣いていたんだな」

「・・・・・・・ううん」


 先程まで泣いていたから目は赤くなっているはずだから、ばれているのはわかっている。それでも私は心配を掛けないようにと、否定をした。


「ソフィア、お前に話がある」

「・・・・・・なに?」


 私は涙を堪えながらおじさんの声に耳を傾ける。


「ソフィア、お前の目のことだ」

「・・・・・・・・」


 その言葉を聞いて、私は俯きになってしまう。もしかしておじさんまで私のことを・・・。でも、それは私の考え過ぎだった。


「お前の目はな。ご先祖様譲りのものなんだぞ?」

「・・・ご先祖・・さま?」

「ああ、そうだ。君の母君から聞いたことはないかい?フルーリエの国が作られた話」

「・・・・・・ある」


 それは私が小さな頃に聞いた話だ。


 かつてフルーリエという国がまだなかった頃。


 ある若い夫婦が何処からかやってきて、どんな理由があったか知らないが、誰も来そうにもない荒野で生活することを決めた。

 奥さんである女性は荒野を一晩で不思議な力で緑や水、花を辺り一面に咲き誇らせた。

 そう。奥さんの女性はとてつもなく強大な力を持つ魔法使いだったのだ。


 そして、そこで夫婦のみでの生活をしていると、周りから人が集まり、やがて村になった。

 花や木、水が豊かということで、その村はフルーリエの村と名付けられた。


 そして、夫婦は最初にいた者として指導者になった。

 夫の方も不思議な力があったそうだが、詳しいことはわからない。


 そして、その夫婦の子供、そしてまた子供へと世代が引き継がれていくうちに、次々と人は集まっていき、やがて1つの国となりフルーリエの国が誕生した。

 そして、その夫婦こそフルーリエ公国の王族の先祖にあたるというものだ。


「その話にはな、もう少し続きの話があるんだ」

「もう続きの・・・話?」

「ああ。その最初の夫婦の子供、いや、その子孫は必ず女の子しか産まれて来なかったこと。そして、極希に最初の夫婦の強大な力を引き継いだオッドアイの子供が産まれることだ」

「オッドアイの・・・こども。それって」

「ああ。お前のことだよ。ソフィア」


 おじさんは優しく頭を撫でてくれながら微笑んだ。


 私は自分には何も力がないと考えていた。この目はただ呪われた目だと思っていた。

 だけど、この目が偉大なご先祖様の力を引き継いだ証というのであれば話は違ってくる。


「お前が望むなら魔法を教えよう。私はこれでも一時レジスタンスで働いていたことがあるからね」

「魔法・・・」


 魔法を使うには適正がいる。魔法具は使ったことはあるが、自分で1から発動する魔法は使ったことがない。

 それに正直、まだ私に力があるかは分からない。

 だけど・・・だけどもし力があるのなら・・・・・・。


「私・・・リアン・ユーベル様みたいになりたい」

「リアン・ユーベルって、最近レジスタンスの中でも最強クラスの使い手と呼ばれる若い魔法使いのか?」

「うん」


 この時のおじさんの顔はとても驚いていた。それもそうだろう。いきなり目指すには雲を掴むような目標なのだから。でも、これが私に出来た初めての目標。私はこの目標のためにこれから頑張っていくつもりだ。


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」


 しばらくの間、私とおじさんは目を見続けた。


「・・・・・・・わかった。だけど、かなりきつい修行になるぞ?いいのか?」

「うん!よろしくお願いします、お義父さん」

「っ!?」


 私は初めておじさんのことをお義父さんと呼んだ。

 お義父さんは嬉しかったのか、身体をぶるっと震わせ、目頭に涙を溜めていた。


「・・・よし!早速やってみるか!」

「お願いします!」


 お義父さんは袖で涙を拭き取り、気合いを入れるように大きな声で言った。私もそれに負けないように力強く返事をする。



 こうして、私の魔法の修行が始まった。



 私はリアン様にこの命を救われた。あんなに多くの魔獣がいる中から私を助けてくれた。

 あの時は怖くて、リアン様にしがみつくのがやっとだったけど、そんなに凄いご先祖様の力を引き継いでいるならばいつかは・・・いつかきっと・・・リアン様のように・・・・・・。

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