第2章 繋がる想いと光の使い手

正体がいきなりバレた!?新たな関係の始まり

第37話

「大掃除をします!!」


 もう1日、学校の医療室で静養を取ったソフィアは自宅に戻ってからの一言目がこれだった。


 部屋の中は4日間放置されただけなのに、埃が少し溜まっていたのだ。


 ソフィアは毎日ちょっとずつ掃除をするタイプの人間なので、大掃除をしないと気が済まなくなったのだろう。


 といっても、俺はただの猫で掃除を手伝うことなんて出来ないから、いつも邪魔にならないように、隅で寝ている。だから今回もいつものように、隅で寝ていようと思う。


「リアン、ちょっと来て」

「にゃ?」


 俺はソフィアに呼ばれてソフィアの足元に行くと、俺の前足と尻尾に少し湿った布を巻かれた。


「リアンはこれで狭いところとか、ベッドの下とか、高い所の掃除をお願いね」

「・・・・・・にゃう」


 どうやら今日は猫も掃除をさせられるそうだ。まぁ、やれるだけやるけど。



 ☆     ☆     ☆



「こんなもんかな」


 ソフィアは綺麗になった部屋を見て、満足そうに頷いた。


「っくしゅん」


 俺は自らに付いた埃が鼻をくすぐり、くしゃみをしてしまった。埃が溜まりやすい場所に入っていたので、身体も埃っぽくなってしまっているのだ。


「リアンもありがとね。それじゃあ一緒にお風呂入ろっか。埃だらけだしね」

「にゃっ!?」


 掃除のせいで、昼間からソフィアと一緒にお風呂に入ることになってしまった。


 一応毎日、夜ソフィアと風呂に入ってはいるが、あれは苦行でもあるのだ。


 俺はソフィアの裸を少しは見たことがあるが、いつも心を無にして、出来るだけ見ないようにと、意識しないようにとしているのだ。


 目を瞑っていれば、ソフィアが身体を洗ってくれ、そのまま湯船に入らせてくれる。

 その間は常に心を無にしないと、いろいろと耐えられなくなりそうなのだ。考えても見てくれ、年頃の女の子が無警戒で一糸纏わない姿のまま俺の身体を洗って、抱っこして湯船に浸かるんだぞ。苦行以外なんでもない。


「ほら、行くよ」


 ソフィアは俺を抱き上げて、そのまま風呂場へと直行する。


 俺を風呂場に閉じ込め、ソフィアが服を脱いで入ってくる。

 その間、俺は入り口に背中を向けて瞑想状態に入る。

 これもいつものことだ。


 だが、ここでいつもと違うことが起きた。


「あれ?リアン、それってこの前の怪我?」


 俺の後ろ足の付け根辺りにはイブリスに貫かれた際の傷跡が少しだけ残っていたのだ。痛みもないからきにしていなかったのだ。


「もう、ちゃんと言ってくれれば治すのに」


 ソフィアは床に座り、俺と向かい合うように足の上に乗せる。目の前にはソフィアの胸が隠されることなく晒される。やばいやばい、目を瞑らないと。


「・・・ヒーリング」


 ソフィアの手から優しい光が漏れる。

 その優しい光は俺の傷を癒していくのがわかる。


「リアン、これでもうだいじょう・・・・・ぶっ!?」

「どうしたんだ?ソフィア・・・・あれ?」


 変な声をあげたソフィアに対して、俺はいきなり話せるようになったことに疑問を持った。


「りりりりりりリアンさまぁ!?」


 ソフィアは器用に座ったまま後ろの壁まで後退る。


 って、そんな足を拡げたら見えちゃってるから。おっぱいも丸見えだから。


 俺は自分の身体を見下ろすと、人間に戻っていた。

 そして、当然のように男のあれもソフィアの目の前に晒されていた。


「~~~っ!?!?どどどどどういうことおぉ!?!?」


 顔を真っ赤にしたソフィアの声が昼間の風呂場に響き渡った。



 ☆     ☆     ☆



「・・・・・・なぁ」

「なんですか」


 声が反響する中、俺はソフィアに問い掛ける。


「どうして俺達は裸のまま一緒に風呂に入ってんだ?」

「・・・不公平だからです」


 ソフィアは呟くような声で言った。


「不公平って何がだ?」

「リアン様は・・・猫の姿で私の裸をずっっっっっと見てきたじゃないですか」

「それは不可抗力というか・・・」

「言い訳は聞きたくありません」


 今は狭い浴槽に2人で入っている。

 ソフィアは俺の足の間に座り込んでいるため、俺のあれはソフィアのお尻に当たってるわけでなんだか・・・って、頭が沸き立ちそうだ。


 ソフィアも顔を常に真っ赤にしていて、いろいろと耐えているように見える。

 だけど、俺を逃がさないようにと、俺の腕を自らの前に回し、自らの胸に押し当てるように掴んでいた。


 猫の時はソフィアの方が大きかったから感じなかったが、ソフィアの身体は俺の腕の中にすっぽりと収まってしまう程小さかった。というか、裸の女の子を抱いている形だよな・・・これって。胸もお尻も柔らかく、ずっと触れていたいぐらいだ。


「それで?リアン様はどうして猫なんかに?」


 そんな葛藤をしていると、ソフィアが話し掛けてきた。


「変身魔法を開発して使ってみたら戻れなくなった」


 俺は隠していた訳ではないので、事実を簡単に述べる。


「なるほど。それで女の子の、しかも教え子になる予定だった女の子の私生活に潜り込もうと画策をしたんですね」

「してねぇよ」


 とんだ濡れ衣だ。顔を真っ赤にしているが、ソフィアの機嫌はまだ悪いままだ。いつもの優しい声ではない。


「戻る魔法はないのですか?」

「あるにはある。が、動物だと発音が出来なくてな」

「では、その魔法を私が使うことは出来なかったのですか?」

「自分に掛ける用に魔法を開発していたから、外部の人間が使っても効果はない」

「そう・・・だったんですか」


 その方法は考えていたことだが、同じ効果がある魔法でも、自分と他人では魔力制御が違うのだ。

 それに開発したばかりの変身魔法なので、自分用しか作ってなかったのだ。それに細かな魔力制御が必要だから、難しかったりする。


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


 何かいろいろと話さないとと考えるのだが、言葉が出てこない。

 それにさっきから鼓動が煩いぐらいに鳴っている。

 意識すると、ソフィアの鼓動も伝わってくるように感じる。


(そういえば俺って女性とこういう関係になったことってなかったな)


 レジスタンスの仕事が忙しくて、そういった関係も持たなかったし、研究するときも、出来るだけ研究に時間を取りたい。って俺は考えていたのだ。近くにいた女性というとジャネットとセリカぐらいだろうか。


「・・・リアン様は」

「ん?」

「リアン様はどうして私と使い魔契約したんですか?」


 ソフィアは頬を染めながら振り返り、小さな声で聞いてくる。


 俺は目を閉じて、出会った頃を思い出す。


「・・・ほっとけなかったんだと思う」

「・・・・・・・」


 ソフィアは黙って俺の言葉の続きを待つ。


「ソフィアが行き倒れてた猫になった俺を助けてくれて感謝をした。そして、自分が猫になっていると気が付いた時、最初は人間に戻れないことを悟って、どうやって生きていくか迷っていた。でも、ソフィアの事情を少し知って、力になってやりたくなったんだ。ほら、最初に友達になってほしいって言ってきたろ?」

「・・・・・・はい」


 ソフィアは静かに頷いた。


「まぁ、その後はいきなり風呂に入れられたりして焦ったけど、ソフィアがその・・・愚痴を溢したろ?それにソフィアは猫の俺に対しても優しく接してくれたろ?そんな優しい良い娘なら、俺も出来れば力になってやりたいって思ったんだ」

「そう・・・なんですか」


 ソフィアは少しだけ嬉しそうな声で返事をした。


 ソフィアは最初に会った頃、初級魔法ですら満足に使えなかった。オッドアイのことがあって、少し対人恐怖症っぽいところもあったからな。


「・・・リアン様はまだ私の使い魔なんですか?」

「たぶんな。この姿もどうして戻ったかも分からん。イブリスを倒した時も人間の姿に戻ったが、その後すぐに猫に戻ったしな」

「そう、だったんですね・・・って戻っちゃうんですか!?」

「ん、ああ。今回も戻ると思うぞ」

「か、解除の魔法!今っ!!今唱えなきゃっ!!」


 ソフィアは俺の上であたふたと慌て始める。いろいろと刺激してきて大変なんだが、本人は気付いていないようだ。

 ソフィアの言いたいことも解る。だが、それは叶わなかったりする。何故なら


「落ち着けソフィア。今俺は魔法が『解除』された状態だ。『解除された魔法』を『解除』することは出来ない」

「そ、そんな・・・」


 俺はソフィアを後ろから抱き締めるような形で押さえながら説明をする。

 ソフィアは俺の説明を聞いて泣きそうな顔になる。


(・・・俺の問題なのにここまで親身になってくれるなんてな)


 これもソフィアの優しさからなのだろうか。心が温かくなってくる。


「それより俺のこと、リアンって呼び捨てでも構わないぞ。ずっとそう呼ばれてたしな」

「で、でもリアン様は目上の人ですし」

「そんなの気にすんな。俺はソフィアの使い魔だろ」

「・・・わかりました、リアン様。じゃなかった。リアン」


 そして、また沈黙が降りる。ソフィアが身動ぎをすると、ソフィアに掴まれている俺の腕が胸に当たりふよんと形を変える。


「リアン様・・・リアンは好きな女性はいるんですか?」

「・・・・は?」


 いきなりの質問に俺は戸惑ってしまう。


「ですから・・・その、お付き合いしている方とかいないのかな・・・と」


 ソフィアは照れながら聞いてくる。

 最後の方は声が小さくて、上手く聞き取れない。


「ももももしいないのであれば・・・その、お互いの裸見たわけですし、私と・・・いえっ!!何でもありましぇんっ!!!」


 ソフィアは顔を真っ赤にして、湯船に顔を浸ける。

 お湯をブクブクと泡を発てる音が風呂場に響き渡る。


「あのさ。裸を見てきたことは謝るが、それで付き合うって違うような気がすんだが」


 流石に黙ったままでいるのもあれなので、考えたことを伝える。


「そ、それだけじゃないです。リアン様は2回も私の命を助けて頂きました。いえ、もっとたくさん助けてくれました」


 ソフィアは緊張しているのか、また様付けに戻っている。


「いや、そこまでは」

「いいえっ!昔、リアン様が私の命を救ってくれたから、今私はここにいるんです!リアン様が私の使い魔に契約をされてからは私、リアン様に頼りっきりで。この前の戦いでもリアン様は身を挺して私を守ってくれました。私がもうダメかもと思った時も助けてくれました!」


 ソフィアは想いをぶつけるように言葉を吐き出す。

 そして、勢いに乗ったのか、ソフィアはこちらに振り向いて、俺の両手を握り、目をしっかりと見つめてきた。

 もちろん身体を隠すなんてことはしていない。いつもなら目を瞑って視線を逸らすところだが、ソフィアの真剣なオッドアイの瞳を見て、逸らすことは出来なかった。


「そんな人が幼い頃の私を助けてくれたリアン様と。ずっと憧れていた・・・ずっと目標にしているリアン様と同じ人物だったんです!私が何かお返ししなければならないくらいたくさんたくさん助けてくれたんです!」

「そ、それと好きとか嫌いは別なんじゃ」


 俺は好きか嫌いかでいうと、ソフィアのことは好きだ。

 一生懸命で優しく、魅力的な女性だと思っている。

 こんな魔法で失敗して、猫になる俺には勿体無いぐらいに。


「好きになっちゃったんです!私はもうリアン様のことを好きに・・・ってリアン様っ!?」


 そんなこんな話をしていると、俺の身体が光に包まれ始める。


「時間切れか」

「リアン様!?リアン様は私のこと」

「好き・・・なのかもな」

「じゃっ、じゃあっ!」

「でも今はソフィアの使い魔だからな」

「そ、それは・・・・・・」

「だからさ・・・・・・・にゃう」


 俺は言葉の途中で猫に戻ってしまった。


「・・・リアン様、いえ、リアン」


 ソフィアは猫の身体に戻った俺を抱き締める。


「私、リアンを人間に戻す方法を一緒に探します。そして、返事を聞かせて貰いますから」

「にゃう」


 俺はソフィアの腕の中で頷く。

 すると、自然にソフィアの胸に顔を埋める形になった。


「そ、それとですね。これからもお風呂は一緒に入りますけど、あまりこちらを見ないようにしてくださいね。汚いまま一緒のベッドで眠れませんから。後、着替えの時は・・・」


 ソフィアは顔を赤くしたまま、新たな決まり事をしていく。


 決まり事をするということは、ソフィアは俺と使い魔としても今後付き合っていってくれるということだ。こんな女の子の裸を隠れ見てきた俺を許してくれるそうだ。


 それに、一緒に俺を人間に戻す方法も探してくれるとも。


 それなら俺はこれから先もソフィアのフォローを頑張らなければならない。


 だけど、胸の谷間に挟まれる形で聞かされるのは、精神的にきついからやめてほしい。俺、男なんだぞ?


 因みにそのことに気が付いた時、ソフィアは盛大な悲鳴を上げることになるのだった。

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