閑話

閑話 1

「ちょっとリアン先輩っ!!」

「んだよ」


 俺が魔法の研究をしていると、まだレジスタンスに入って半年ぐらいのジャネット・コルネリアが部屋に訪れ、すぐに怒声を上げた。


「んだよっじゃないわよ!なんなのよ!この部屋はっ!!」

「部屋ぁ?」


 俺は部屋を見渡す。


 そこには俺が使った魔法実験道具や専門的な本、そして、俺の服や下着が脱ぎ散らかされていた。


「・・・至っていつも通りだが?」


 そう。この状態はいつも通りだ。特には問題はない。


「失礼しまーす。ってなんなんですか!?この部屋はっ!!」


 そこにもう1人の来客、こちらもレジスタンスに入ってから半年のセリカ・ベリーニだ。

 この2人は友人同士らしく、よく一緒にいるのを見かける。


「セリカ、この部屋汚すぎだよね?」

「う、うん。私も初めて来たけど、予想以上に汚いね」

「いきなり来て酷い言いようだな。セリカ」


 俺はジト目でセリカを見て言った。


「ごごごめんなさいっ!リアン先輩っ!!次からはいない時に言いますっ!!」

「おい」


 本人の目の前で言わなければいいと思っているのか?それってただの陰口のような気がするんだが。


「それより何の用だ?仕事を持ってきたというのであれば帰ってくれよ」


 俺は手をヒラヒラとさせて、再び研究に戻ろうとする。


「なんでですか!?あのリアン先輩ならそこまで否定的じゃなかったでしょっ!!」


 確かにジャネットの言う通り、2年ぐらい前まではそうだった。

 だけど、ある事実を知ってからは研究することが人助けになることに気が付いた。いや、誰かが研究しないと助けられないことに気が付いたのだ。


「そうですよ、リアン先輩。私がわざわざ仕事持ってきたんですから」


 セリカはそう言いながら、手元にある書類を見せてくる。

 そういえばセリカは受付嬢の仕事を覚えている最中だったな。


「今の俺の仕事はこれだ。他の仕事はいらん」


 俺はそう言って断るが、この2人はなかなか部屋を出ていこうとしない。


「セリカ、そっち持って」

「うん、わかった」

「お、おい」


 あろうことか、ジャネットとセリカは俺の両腕を掴み、引っ張ってくる。その際にジャネットの豊満な胸とセリカの普通の大きさの胸が俺の腕で形を変える。が、2人は俺を動かすのに夢中で気が付いていないようだ。


「ほら!せめて部屋を片付ける時間ぐらい外出してきてください!」

「この依頼は難しくないですから!」


 だが、男の俺に力で勝てるはずはなく、せいぜい椅子から立たせるのがやっとだ。


「・・・エアロ」

「「っ!?」」


 俺は一言そう呟くと、俺を中心に突風が起きた。本当はそよ風程度を起こす基本魔法なのだが、俺のギフト『暴走』の影響で突風になってしまうのだ。

 そして2人はスカートだ。スカートが突風でおもいっきり捲り上がり、赤と白の下着がそれぞれ露になる。


 2人は隠すために手を離してスカートを押さえた。そして2人は顔を赤くして俺を睨んでくる。


「これが嫌なら出ていってくれ」


 俺はそんなことに興味はない。2人が手を離した隙に椅子に座り、作業を開始する。


「・・・行きましょう」

「・・・うん」


 2人は不貞腐ふてくされてそのまま退室していった。


「ふぅ、やっと静かになった」


 1人になった俺は近くに積んである本を手に取る。


「・・・・・・・無属性魔法はどの属性でもなく、生命エネルギーのようなもの・・・か」


 読んでいるのは無属性魔法に関した本だ。無属性魔法の本は少なく、今のような例えもまばらだったりする。


 俺が読んだことのある本で違う例をあげると、各属性に変換する前の魔力の状態だとか、無属性魔法なんてものは無くて、何かしらの属性に当てはまる魔法だと謳う本もあった。


 この本に書かれている内容は俺に近い思考のため、結構重宝していたりする。


(魔法堕ちディベイトは魔力が飽和した状態になり、そこから行き場のない魔力により生物的に変化して起こるもののはず。なら、同じ魔力を使っている魔法での生物的変化も可能なはず。これが出来れば魔法堕ちディベイトした人間を助けることだって)


 俺は再び思考の海に身を委ねる。


 そして、読み進めているとある小難しい古代言語が出てくる。


「なんだこれ?・・・・・・精霊の愛娘?・・・・精霊に愛され、全ての魔法を扱える者・・・・。リ・・・・ルイ・・なんて書いてあるかわからん」


 殆どの部分の字が掠れていて、読むことが出来なかった。


「愛・・・精霊と・・・・を作った。名を・・・・・エの・・・・・ああ!!読めねぇんだよ!!」


 俺はここで本を投げ出した。

 今の時代の文字ではないし、更には掠れているから全然読めない。


「でもなんで無属性のことの本に精霊の愛娘とかの話が出てくるんだ?」


 昔は分からないが、今では精霊の愛娘とは全ての属性の魔法を使える女性の例えでもある。

 それに精霊は昔にいたとされているが、今では確認している者はいない。

 なので、全ての属性を扱える女性を精霊の愛娘と呼ぶようになったとか。


(ま、せいぜい多くても4つか5つの属性が限度と言われているしな)


 属性には火、水、地、風、光、闇、無の7種類があるが、後半の3個が特殊な属性に入る。

 光と闇はお互いに珍しい属性であると同時に共存することが出来ない属性と言われている。それに無はあるかどうかわからないと言われている。


 そんなことを考えつつも本を読み進めていく。


 そこでふと、あることを思い出す。


(そういやもう7年になるのか。フルーリエが滅んでから・・・。あの子供は元気にやっているのだろうか)


 俺が研究を始めることになった最初のきっかけとなった事件。子供を助けた時にがむしゃらに戦った謎の人型の魔獣。後に魔法堕ちディベイトした人間だとわかった魔獣。


「・・・・・・・・・」

「失礼する」


 そこにディケイルのおっさんがやってきた。


「・・・んだよ」

「極秘任務だ」

「っち、わーったよ。内容を教えろ」


 こうして俺はこの場所を提供してくれている条件として突き出された極秘任務を、いつも通りにこなしていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る