第36話
「・・・・・・」
ソフィアがイブリスと戦った日から3日が経った。
ソフィアはあれからレジスタンス教育機関学校の医療室で寝たきりで、目を覚ましていない。
今俺はソフィアの看病してくれているクエストの受付嬢のセリカからご飯を貰いながら、ソフィアの側にいた。
セリカは猫の俺のことを気に入ったらしく、医療室にいる間は俺をよく構ってくれた。
「あなたのご主人様起きないねぇー」
セリカは少し幼い話し方で俺に話し掛ける。
俺がイブリスを倒した後、軽い怪我だけだったココナを起こして、助けを呼ぶために学校まで走ってもらった。
俺はその間、下着姿で倒れたままのソフィアの身を守るため、見張りをしていた。
ココナが連れてきたのはジャネットとディケイルだった。
ジャネットは上着をソフィアに掛け、学校の医療室にそのまま急行。
幸いなことに、治癒魔法を使えるレジスタンスのメンバーがいたので、すぐにソフィアの傷を治してもらった。
だが、ソフィアは血を流し過ぎたか、気力と体力を使い果たしたのか、3日経った今もまだ目覚めていない。
俺はソフィアに手を当て、体内の魔力の流れを見る。
(魔力の流れも昨日より安定はしている)
ソフィアはイブリス相手に1人で高難度魔法を使った。
いきなり自分が普段出来る魔力制御以上の制御をやった影響なのか、イブリスに身体を貫き続けられた影響なのか、最初に診たときの魔力の流れが滅茶苦茶だった。
実際はソフィアの魔力がイブリスに吸い取られていたのが原因なのだが、俺はこの時はまだ知らない。
とにかく俺はこの状態は良くないと考え、常にソフィアに触れられる位置にいて、魔力制御で正常な魔力の流れを保ち続けたのだ。
本来ならこんな作業は出来ないので、俺が自分が使い魔であることに感謝していた。
「・・・・・・・ん」
ガタ
ソフィアが小さく声を洩らす。
それに気が付いたセリカが椅子から立ち上がり、ソフィアの顔を覗いた。
「ソフィアちゃん、起きた?」
「・・・・・・・ここ・・は」
ソフィアは寝たままうっすらと目を開ける。
「目が覚めてよかった。ソフィアちゃん、何があったのか覚えてる?」
ソフィアぼやける頭を動かし、何があったのか思い出そうとする。
「ん・・・えっと・・・・・・イブリスっていう魔獣と戦って・・・っ!?リアンはっ!?」
「にゃう!?」
ソフィアはガバッと起き上がった。
ソフィアのお腹の上にいた俺は驚いて、飛び退いた。
「リアンっ!!無事だったんだね」
「にゃうっ!?」
ソフィアは俺を抱き締めてきた。
(ちょっ!く、苦しい!)
ソフィアは物凄い力で抱き締めてきていた。
「よかったぁ・・・ぐすっ、よかったよぉ・・・リアン・・生きてた」
ソフィアは俺を抱き締めながら泣き始めてしまった。
(・・・・・・苦しいけど、我慢するか)
ソフィアはしばらくの間、俺を抱き締めながら泣き続けた。
☆ ☆ ☆
「ミールさん、目が覚めたのね」
ソフィアが泣き止んでから少しすると、いつのまにかセリカがジャネットを連れてやって来ていた。
「ご心配をお掛けしました」
「本当よ。貴方が血だらけの状態で見つけた時は焦ったわ」
ジャネットはほっとした顔をしながら言う。
「あの、ココナは」
「ユースフィアさんは大丈夫よ。ミールさんが治癒魔法で治してくれたおかげでね」
「それならよかったです」
ソフィアはココナの無事を聞いて胸を撫で下ろした。
「あの、それでリアン様は?」
「え?リアンってその子じゃなくて?」
ジャネットは俺を指差しながら言う。
「いえ、リアン・ユーベル様です。リアン様が私を助けてくれたんです」
「ちょっ、ちょっと待って!リアンはまだ行方不明のままだし、目撃者もいないわよ?」
「え?で、でもあれはリアン様だったと思うのですが」
ソフィアは俺が人間に戻っている時の記憶があるようだ。
「ミールさんがあの化け物を倒したんじゃないの?」
「違います。あの化け物、イブリスを倒したのはリアン様です」
「セリカ、どういうこと?」
「わ、私に聞かれても」
2人はなんだか戸惑っているようだ。
「ソフィアちゃん、あなたの学生証に記録されている情報だと、そのイブリスって魔獣はあなたが討伐したことになっているの。それに、イブリスって魔獣はレジスタンスの記録にも無くて初めてなのに、学生証には記録されている。これはソフィアちゃんがそう認識したからだと思うけど、何でそう認識したのかもわからなくて」
セリカが焦った様子で一気に説明をしてくる。その表情は普段あまり見せない表情だ。
ソフィアはそれに一つ一つわかる範囲で説明をしていく。
イブリスはリアン・ユーベルが倒したこと。
イブリスという名前は黒いローブを着た男が呼んでいたこと等々。
「・・・・・・その男は恐らくスラヴァ・グソフね」
「スラヴァ・グソフ?」
「ええ、世界的に大きく手を伸ばしている犯罪組織『
ソフィアは犯罪組織だとは考えてはいたが、そこまで大きな犯罪組織とは考えていなかった。
この
「それにしてもリアンがミールさんを助けるなんて考えられないわね」
「確かリアン先輩はあまり女性に慣れていませんからね」
苦笑しながら話すジャネットとセリカ。
俺はそういう風に思わられていたのか。
「でもそうなると1つ不可解なことがあるわね」
「はい。ソフィアちゃんの学生証にはソフィアちゃんがイブリスを倒したことになってることね」
(それはたぶんソフィアの使い魔である俺が倒したからだろうけどな)
そのことを知らないジャネットとセリカは相談を始める。
「でも本当にあのリアン先輩がソフィアちゃんを助けるなんてまだ信じられませんよね」
「で、でもリアン様は私の肩の傷の止血してくれましたよ」
「え、リアンが?」
「はい」
「下着姿のミールさんを?」
「~~~~っっっ!?」
ソフィアは憧れの人、リアン・ユーベルに下着姿を見られていたことを思い出して恥ずかしくなってしまう。
「そういえば私下着姿で・・・しかもリアン様は・・・~~~~~~っ!?!?」
ソフィアは俺の裸も思い出したのか、顔を首まで赤くして布団に隠れてしまった。
「青春ね~」
(いや、ただのセクハラだろ)
俺はソフィアに巻き込まれる形で布団の中でもがきながら、ジャネットの言葉にツッコミを入れた。
そして、ジャネットとセリカはそのまま俺についての話を再開する。
そんな中、ソフィアはまだ布団の中に隠れていた。
俺は布団の中でソフィアと2人きりになる。ソフィアの優しくて甘い香りが鼻孔をくすぐる。
するとソフィアは突然、俺を顔の近くに抱き寄せた。
「リアン、あの時、守ってくれてありがとね。あなたと出会えてよかった」
ソフィアは布団の中でそう呟くのだった。
☆ ☆ ☆
「ヘンリー・ヘイグはやはり彼女に関心が行き過ぎてしまったのが裏目に出ましたか。魔力の収集も慣れていませんでしたし」
暗い森の中をスラヴァ・グソフは1人で歩いていた。先程から独り言で何かを呟いている。
「興奮状態だと制御出来ないのも問題ですねぇ。一層のこと興奮しない個体でも作りますか・・・」
スラヴァはそのまま歩き続け、森の中にある人影を見る。その人影はスラヴァを襲おうと迫ってくる。
「・・・・・・1つ試してみましょうか。彼が協力してくれるように仕向ければなんとかなりそうですし」
スラヴァは考えをまとめると、向かってくる人影に手を横に一閃薙ぎ払う。すると、人影の頭が地面にずり落ち、倒れる。
そして、スラヴァは頭が落ちた人影を無視して、そのままある場所を目指して森の中に消えていった。
スラヴァがいなくなった後、人影は起き上がり、頭を手で持ち上げ、元の位置になるように押さえながら、森の中を徘徊を始めるのだった。
☆ ☆ ☆
ソフィアが目を覚ました日の夜。
もう1日経過を見ようということになり、ソフィアは学校の医療室にもう1泊することになった。
もちろん俺も今まで通りに一緒に泊まることになる。
もう太陽が落ちてからそれなりの時間が経っており、深夜といえる時間になっていた。
ソフィアはベッドの上で静かに寝息を発てている。
俺はベッドから抜け出し、窓の外が見える場所にいた。
周囲は窓から満月が見えており、灯りがなくても十分に明るかった。
(スラヴァ・グソフか。奴が動き出したということは
俺は廃工場跡での奴の顔を思い出しながら、今後のことを考える。
(それにしても俺がこうなったタイミングでやってくるとはな。ジャネットが狙われたのも、俺が行方不明という噂を聞き付けたからだろうし)
フォルティスの町はレジスタンス教育機関学校があるのに、こちらの動向を探るためなのか、意外にも潜伏している犯罪組織は多いのだ。
俺はベッドに跳び乗り、ソフィアの側にいく。
(・・・・・・ソフィアがスラヴァ・グソフに見られた。それに
俺はソフィアの顔を見て、ある決心をする。
(ソフィアは守る。例えこんな猫の姿でも、ソフィアの力を借りなければ戦えなくても、俺に出来ることなら何でもしてやる)
俺はこの日、ソフィアを守ることを改めて決心した。俺があいつに、スラヴァに止めをあの時に刺していれば、ソフィアが巻き込まれることはなかったのだから。
俺はソフィアの寝息を子守唄にして、夢の中に落ちていった。
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