第58話

「嬢ちゃん達、ルマルタが見えてきたぞ」

「あれがルマルタ」

「大きいです」

「・・・・・・・うぷ」


 盗賊を捕まえた村を出発してから2日後、目的地であるルマルタが見えてきた。やはりここまで来ると暑さも増してくるのがわかる。


 ルマルタは冬場でもフォルティスの町より幾分暖かいのだ。


 そして、その気候を利用し、ルマルタはリゾート開発が進んでおり、今では結構大きな町となっている。

 町は海に面しているので、海水浴が楽しめるようになっている。さらには少し離れた場所には森が広がっている。


 俺が前に来たときはここまで大きな町ではなかったので、あれからも開発が進んでいるのだろう。


 馬車を走らせ、更に近付いていく。すると、なんだか美味しそうな匂いが漂ってきた。


「・・・・・・食べ物の匂いっ!!!」

「「「っ!?」」」


 干された布団状態だったココナが突然飛び起きて、馬車の窓から飛び降りた。


「ココナっ!!」

「おいっ!!」


 ソフィアとグランがココナを呼び止めたが、既にかなり先まで走っていっていて、聞こえないようだ。


「・・・行って、しまいましたね」

「うん。でもあの様子だと、食べ物屋さんに行けば会えると思うから大丈夫・・・かな?」


 ソフィアが呆れ顔で言った。

 それにしても酔ってダウンしていた奴がよく食べ物の匂いで復活するな。


 俺達はこのまま馬車でルマルタの町に入っていくのだった。



 ☆     ☆     ☆



 グランとは町の入り口にある馬車の停留所で別れた。

 ソフィア達がこのルマルタにいる間、ここで商売をするらしい。

 ソフィア達が帰る時に声を掛ければ、またフォルティスの町まで送ってくれるそうだ。


 ということで、俺とソフィア、ミレイは町に入ってから美味しそうな匂いを辿って、ルマルタの町に繰り出した。


 ルマルタは砂浜から内陸に向かって町は伸びている。なので、入り口は少し高台になっており、入り口辺りからだと町が見渡せる。

 町はレンガや白い壁で作られており、貝類等で装飾されていたりしていて、結構おしゃれだ。

 ここは建物も高いものが少なく、遠くまでよく見渡せる。


 目の前の大通りは砂浜まで伸びていて、脇に屋台がずらりと並んでいる。


 良い匂いの原因はこの屋台だ。ということは、この大通りを歩けばココナは見つかるだろう。


「ココナ、自分の荷物も持たないで行っちゃうんだから」

「・・・重い、です」


 ソフィアとミレイは自分の荷物の他にココナの荷物も分担して持っていた。


(俺が人間だったら手伝えたんだがな)


 俺はそんな2人の後ろから付いていっていた。


「どうです?ココナさん。この料理は」

「ふごくふぉいしぃよ。んくっ、でも奢ってもらっちゃっていいの?カリーナ」

「ええ。貴方をここで縛り付けていれば必ずソフィアにあえ・・・・ったあぁぁぁぁぁっ!!!」

「きゃあっ!?」


 ココナを見つけたと思ったら、なぜかカリーナと一緒だった。

 そして、カリーナはソフィアを見つけると、ソフィアに飛び付いてきた。


「あぁ~ この感触、匂い・・・はぁ・・・最高ですわ!!」

「お、お尻を揉まないでください!!」


 ソフィアはカリーナを手を振り払う。


「っは!!これは失礼しましたわ」


 そこで正気に戻ったのか、カリーナは謝ってきた。


「・・・・・・誰、ですか?」

「わたくしですか?わたくしはカリーナ・メルエム。旅をしてい」

「お、カリーナ様、お帰りになったのか」

「おぉ、カリーナ様じゃ。最近腰が悪くてのう。後で診てくれんか?」


 カリーナが自己紹介をしようとしたら、周りに人が集まってきた。


「カリーナってここの町の人なんですか?」

「なんだい。お前さん、そんなことも知らないのかい。カリーナ様はルマルタの町長の娘じゃよ」

「え?えぇっ!?」


 お婆さんからまさかの事実が語られた。


「もう!!そんなことどうでもいいですからいきますわよ!!」


 カリーナはソフィアの手を取り、路地へと駆け込んでいった。

 俺は慌てて追いかける。俺の後ろからはミレイが息を切らして小走りで追いかけてきていた。


(って!ココナが来てないぞ!!)


 ソフィア達はそれに気が付かずに、カリーナに引っ張られていく。


「こ、ここまでくれば大丈夫・・・ですわね」

「はぁ、はぁ、はぁ」

「も、もう歩けません」


 ソフィアとミレイは止まった途端に、その場に座り込んだ。


「あら?ココナさんを置いてきてしまいましたか。仕方ありませんわね」


 カリーナもココナがいないことに気が付いたようだ。

 すると、カリーナは親指と人差し指で輪っかを作り、大きく息を吸った。そして、指で作った輪っかを口にくわえる。


「「「っ!?」」」


 すると、物凄い大きな音が鳴り響いた。

 これは指笛だ。ってなんで指笛を吹いているんだ?


「っとう!!おまたせ!!」


 そして何故かココナが家の屋根から飛び降りてきた。


「・・・・・・え?ココナ?なんで?」


 ソフィアが訳が分からない顔をする。


「それはわたくしがちゃんとペッ・・・ココナさんの躾をしたからですわ」


(今ペットって言おうとしていなかったか?)


「カリーナが美味しい物くれるっていうからね」

「・・・餌付け?」


 最後のはミレイがぼそっと呟いた言葉だ。

 確かにその通りなんだが、ココナはそれでいいのか?


「カリーナがくれるお菓子とか美味しいんだ」


 ソフィアが俺と同じ事を思ったらしく聞いてみると、そういうことらしかった。


 まぁ、本人がいいならいいけど。


 そして、地元らしいカリーナの案内で宿泊する宿屋を探しに向かうのだった。



 ☆     ☆     ☆



「え?そんなに安くていいんですか?」

「はい。お嬢様の御友人ということならば構いません」


 カリーナに案内されてやってきたのは高級そうな宿屋だった。

 料金表も普通の宿屋と比べると数倍の違いがある。


「わたくしもここにソフィア達と滞在しますわ」

「畏まりました。御父上の方には私目が伝えておきましょう」

「よろしくお願いしますわ」


 こんな調子でトントン拍子で事が決まっていく。


 そして案内された部屋は2階にある4人部屋でお風呂も付いている大きな部屋だった。


「わぁ!すごいよ!!海が見える!!」


 ココナは大きな窓の方へと駆け寄る。

 そこからは広大な海が広がっていた。


「ねぇカリーナ。本当にここ、あんなに安い値段でいいの?」

「ええ、もちろんですわ。本当は無料でもいいのですけど、ソフィアの性格上、それは断れそうでしたから」


 カリーナの奴、あまりソフィアとはそう多く過ごしていないはずなのに、ソフィアの本質に近いところを見抜いているな。


「ねぇ!早く泳ぎに行こうよ!」


 ココナは既に水着に着替えていた。っていういつの間に着替えたんだ?


 ココナは白地に青のラインが入ったスポーティーな水着だ。

 まぁ、これならココナの激しい動きでも脱げづらいか。


「ま、待って!海は」

「待てない!!いってきまーすっ!!」

「え、あ、ちょっ、ココナ!?」


 あろうことか、ココナは窓を開けて2階から飛び降りて行った。

 目の前が海だといっても、下は砂浜が広がっている。普通なら怪我をしてしまう。

 まぁ、身体強化をすれば大丈夫だろうが。


「ココナ!!海は魔法生物で拐われるよ!!」

「「・・・・・・え?」」


 ソフィアの言葉にカリーナとミレイはきょとんとした顔をする。

 そういえば海に対しての誤解はしたままだったな。


「ソフィア、海は魔法生物ではありませんわよ?」

「え、そうなの?」

「・・・ごめん、なさい。言葉足らずでした」


 ソフィアは2人から改めて海の説明を受けるのだった。


 その後、ソフィア達は水着とタオルを用意して、部屋を出る。この宿屋前に備え付けられている更衣室で水着に着替えるようだ。


 さて、皆が遊んでいる間、猫の俺は何をしようかな。この姿で海に入るのは流石に怖いしな。

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