第50話

「ココナはウィンドブーツを片足交互に起動してぴょんぴょんって跳ねる感じで、空から一気に攻めれないかなって考えてるんだけど出来るかな?」

「うーん、私はとてもじゃないけど真似出来そうにないから、出来るかとかは何とも言えないよ。でも、そんなことをしてくる相手は難しい・・・かな?」

「よし!明日朝早く起きて練習しよ!」


 ココナは相変わらずの下着姿のようなパジャマ姿で、少しわかりづらい説明をしてきた。

 答えるソフィアもいつものワンピースのパジャマを着て、ココナの質問に答えていた。


 因みにココナの言っている戦法、両手や両足のようにそれぞれ装着している魔法具ならば、上手く魔力制御を行えば、出来なくはないはずだ。


 昨日1回戦を突破したソフィアとココナは、その日の夕方に2回戦目があった。


 これも難なく勝つことが出来た2人は、明日の2日目に3回戦目を迎えることになる。


 3回戦目にもなると、相手も強くなってくる。

 そのため、お互いに何か秘策を作ろうという話しになり、ソフィアの部屋にココナが泊まりにきて、今に至る。


「ソフィアは秘策あるの?」

「あるにはあるけど・・・自信がない、かな」


 ソフィアには昨日、俺の書いた本の魔法を1つ教えた。

 1回だけ練習で使ったが、途中で失敗をしてしまったのだ。いや、身体がついてこれなかったのだ。

 ただ、これが使えれば、ソフィアの苦手なタイプの相手に多少対抗出来るようになる。


「あるならいいじゃん。それを使うのはいざって時だけなんだしさ」


 ココナは相変わらずの軽い感じで言ってくる。


「うん、そうだよね。もし使う場面になってもいいように、しっかりとココナの戦いを見るね」

「ん?よくわからないけど、次も勝つから見ててね」


 この後も他愛のない話をして、2人はそのまま眠りに就いた。



 ☆     ☆     ☆



 翌日、朝早くから町の外へ出て、軽い特訓を開始した。


 とは言っても、ココナは低空で何度もウィンドブーツで宙を蹴り、ジグザグに動いているだけで、ソフィアは何かあったときに治癒魔法を掛けるための保険のようなものだ。


 俺もソフィアの横でココナの動きを見ていた。

 始めた頃よりはだいぶ安定もしてきているのがわかる。


「はぁ、はぁ、はぁ、ど、どうかな?」

「うん、あれなら魔法も当てづらいと思うよ。・・・範囲系以外なら」


 確かにあれだけ動かれたら、普通の魔法では狙うのは難しい。範囲系なら威力は下がるが、当てることは容易いだろう。


「そっか!なら後は実戦するだけだね!」


 ココナは最後の範囲系という言葉が聞こえていなかったのか、にこにこしながら、そんな風に言った。


 そして、そんなココナは3回戦の相手による広範囲魔法の餌食となり、地に伏せていた。


「ココナ大丈夫かな?範囲系の魔法は避けづらいけど、威力は下がるし」


 ソフィアはこうなるとわかっていたような口振りで言った。

 まぁ、俺もそろそろこうなるのではと、考えていたが。


 3回戦になると、考えて魔法を使う人が殆どだ。

 近距離が主体の相手だと、近付けさせない工夫をする。

 逆に魔法主体の相手は魔力を練り上げる時間をあげないようにしたりする戦法を取ったりする。


 ココナはそこまで考えが及んでいなかったようだ。

 まぁ、まだココナはアリーナで伸びているが、広範囲魔法は範囲を拡げる分、そこまでの威力はないので、大きな怪我無く、無事ではあるだろう。


 だが、今回は不運にも転んだ拍子で気絶をしてしまったので、負けとなってしまった。


 ココナの試合運びは最初は優勢だったのだが、相手が範囲のある魔法に切り替えてから、戦況は一気に変わった。


 そして、そのままじり貧となって、先程負けてしまったのだ。


 結界、ココナは3回戦負けとなってしまう。


 ソフィアは医療室に運ばれるココナを見ながら、心の中で自分自身が治療出来ないことを謝る。

 そして、次の試合を観察することにする。


 自分が勝てば、次に当たる可能性が高い生徒だからだ。


 次に出てきたのは女子生徒と主席のアレイン・クリフォードだ。

 クリフォードは以前、ヘンリー・ヘイグとの一件で助けてもらったことがある生徒だ。


 剣を得意として、風属性の魔法を操る魔法剣士だ。

 この試合は武器の使用は刃を潰していれば大丈夫なので、クリフォードの剣も刃を潰して使用している。


「アースマイン!」


 女子生徒は地属性魔法のアースマインを使用する。


 アースマインは設置型の罠魔法だ。

 設置した上に乗ると、その地面が爆発するようになっている。


 クリフォードは相手に向かおうとしていた足を止める。


「エアロショット!」


 クリフォードは立ち止まってエアロショットを相手に撃ち出す。


「ストーンウォール!」


 女子生徒は定石のストーンウォールで、エアロショットを防ぐ。


「ロックブレード!」


 女子生徒はストーンウォールの影から、複数の石の剣を作り出し、クリフォードに向けて放った。


 クリフォードは剣で弾いたり避けたりして、その攻撃を見事に捌いていた。


 女子生徒の戦い方はクリフォードの得意とする位置を取らせない上手い戦い方だ。


 アースマインで地面に罠を置き、遠距離攻撃はストーンウォールで防ぐ。

 そして、その影から一方的に攻撃をする。


 それに対してクリフォードは、守りに回ってばかりいた。

 だが、クリフォードは余裕の笑みを浮かべている。


 女子生徒は相変わらずストーンウォールの影から攻撃を仕掛けている。


「雷電」


 クリフォードがそう呟くと、クリフォードの姿が一瞬で掻き消えた。


「サンダーショット」

「きゃっ!!」


 いつの間にか女子生徒の背後に回っていたクリフォードが雷の弾をゼロ距離で浴びせて、女子生徒を無力化した。


 そして、審判からクリフォードの勝利が告げられる。


(なんだ?今の動きは)


 今のは俺も見たことがない。


「あれってギフト?」


(そうか。あれがクリフォードのギフトの可能性があるな。素早く動くだけのギフトだとしても、あれは厄介そうだ)


 俺はソフィアの呟きで納得した。


 でも、最初から使わなかった理由がわからない。

 使いたくなかったか、使えなかったかのどちらだが。


「次!ソフィア・ミール」


 そして、ソフィアの3回戦目が始まろうとしていた。

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