第49話

 実技試験当日。


「ファイアランス!!」


 1人の男子生徒が相手に向かってファイアランスを放った。


「ストーンウォぐあっ!!」


 ストーンウォールで防ごうとした相手は間に合わずに、ファイアランスが直撃してしまう。


 そして、ファイアランスを受けた生徒は動かなくなり、呆気なく勝負が決まった。


「なんで避けようとしなかったのかな?」

「多分だけど、防ぐことを評価してもらおうと思ったんじゃないかな?負けても戦闘技術を評価されれば高得点いくみたい」

「なるほどなぁ」


 ソフィアとココナは自分達が割り振られた試験会場、コロシアムに来ていた。


 今は皆の目の前で次々と繰り広げられる試合を観客席から眺めていた。


 今回の試験はトーナメント制。

 1年生は32人らしいので、3回勝てば準決勝でベスト4には入る形だ。


「次、ココナ・ユースフィア!」

「あ、呼ばれた!」

「頑張ってね、ココナ」

「うん!」


 ココナは生き生きとコロシアムの会場に観客席から飛び降りていった。


 その光景を見た男子生徒から歓喜の声が上がる。


(普通にスカートで飛び降りたからパンツ丸見えだったぞ)


 男子生徒が喜んだのはそのためだ。


「もう、ココナったら」


 ソフィアも呆れていた。

 でもココナは気にしていないだろうな。

 あいつは下着は水着と同じような感覚でいるし。


 相手の生徒も呼ばれてコロシアムに出てきた。


 なんかぱっとしない男子生徒だ。

 っというか、ココナを見て震えているようにも見える。


「出たぞ。暴走女だ」

「俺らも避難した方がいいか?なんてな」


 そうか。

 ココナが皆の前で最後に戦ったのは、あの模擬試合の時以来だ。

 あの時はアクアウォールで相手の魔法を防ごうとして巨大な水の壁を作り出してしまった。さらに、そのままアクアウォールで発生した水の壁が相手に向かって倒れ、津波で呑み込むようにして倒したんだった。それは恐怖するわな。


「あの時のココナとは違うもん」


 ソフィアは呟くように言った。

 友達をバカにされて少し怒っているようだ。


 そして、試合が始まった。


「エアロショット!」


 ココナの相手は先手必勝と言わんばかりに、いきなり魔法を撃ってきた。


 ココナは身体強化を施して、サイドステップでそれを避ける。


「っ!?エアロハンマー!!」


 今度は不可視の風の壁が、ココナに向かって迫って来る。

 ココナは相手に近付こうとしていたのを止めて、高く跳躍してエアロハンマーを回避した。


 その際にまたパンツが丸見えになるが、ココナは気にせず、ウィンドブーツを発動させ空中で加速して、相手に一気に近付いた。


「なっ!?」


 いきなり目の前に来たココナに驚きを隠せない相手。


「てや!!」


 ココナはその隙に相手の鳩尾に掌底を食らわせる。


「ぐふっ」


 相手はそんな声を洩らして、その場に倒れた。


 ココナは見事に1回戦目に勝つことが出来た。


「うそだろ」

「魔法使わずに勝ったぞ」


 以前のココナは魔法の暴走で運良く勝ったように見えていたのだろうが、今回はしっかりとした実力で勝利を勝ち取ったのだ。


 これで周りからもココナは違う目で見られるだろう。


「いや、空中で加速したよな?ともしかして身体強化が暴走したんじゃないか?」

「それだ!そうに違いない!!」


 そういう反応をするか。

 あ、ソフィアが少し機嫌悪そうな顔をしている。


「次!ソフィア・ミール」


 ココナを出迎えようとして席を立つと、すぐにソフィアの名前が呼ばれた。


「リアン、行こっか」


 この試験も使い魔の使用は可となっている。

 なので、俺もソフィアの肩に乗って、スタンバイする。


「ソフィア、頑張ってね」

「うん、ココナもお疲れ様」


 試合会場の出入り口ですれ違い様にお互いに声を掛け合う2人。


 そして、ソフィアはコロシアムの会場に出た。


 周りからの反応は相変わらず『悪魔の子』と呼ばれたりしている一方で、『凄い魔法の使い手の女の子』等とも言われるようになっていた。


 たぶん、あのヘンリー・ヘイグとの決闘で、ソフィアの戦う様を見たからだろう。


 そんなソフィアの相手は男子生徒なのだが、男子生徒の脇に白き毛並みの大きな狼が控えていた。


「あれってシルバーウルフ?」

「にゃあ」


 俺はソフィアの質問に頷いて答える。


 シルバーウルフは体長2m近くある白い毛並みの狼の魔獣だ。

 主に雪国の方に生息している。

 狼としての戦闘能力の他に、氷の礫を飛ばす魔法のような能力を持つ。


「・・・リアン、少し協力してもらってもいい?」

「にゃあ」


 相手も使い魔を使うのならば、こちらも手伝いをするのは憚る理由はない。

 まぁ、俺は直接は戦わないが。


 そして、試合が始まった。


 始まると同時にシルバーウルフはソフィアを目掛けて走ってくる。

 魔法を使う前に潰そうという算段だろう。


「ファイアボール!」


 ソフィアはシルバーウルフ目掛けてファイアボールを放った。


 だが、シルバーウルフは横へ跳び、ファイアボールを避ける。


 ソフィアはシルバーウルフを目で追って対処しようとする。


「アクアショット!」


 それを見逃さずに相手はソフィアを狙って、アクアショットを放つ。


「エアロショット!ストーンブラスト!」

「なっ!?」


 ソフィアはアクアショットの方を見ないで、エアロショットで全ての水の弾を撃ち落とす。

 そして、続けざまに唱えたストーンブラストでシルバーウルフを石礫で攻撃した。


 その離れ技に相手は驚きを隠せない。

 観客の生徒達も2つ同時に魔力制御して、魔法を連続発動しているソフィアに驚きを隠せずに、ざわつき始める。


 実はエアロショットの方は俺が魔力制御していたのだ。

 それとは別に、ソフィア自身がストーンブラストの魔力制御をした。

 それをソフィアは魔法を唱えて発動しただけに過ぎない。

 まぁ、周りから見ればソフィアが同時に魔力制御したように見える訳だ。


 シルバーウルフは幾つか石の礫が当たるが、ソフィアに突っ込んで来ようとするのほ止まっていない。


「ん・・・トルネード!!」


 ソフィアは自分中心にトルネードを発生させ自分の周りに風の結界を作り出した。


 ソフィアに飛び掛かろうとしていたシルバーウルフは、突然現れた竜巻に巻き込まれ吹き飛ばされてしまう。


「くっ!アクアスピア!!」


 アクアスピアは水属性の中級魔法だ。

 アクアショットより威力が高く、一転突破するには手頃な魔法だ。


 だが、ソフィアが作り出した竜巻に触れると、水の槍は霧散して消えてしまう。


 そして、竜巻が消えた途端。


「アクアレイザー!!」


 竜巻の中で魔力制御をしていたアクアレイザーが一瞬で相手を撃ち抜いた。


 今回のアクアレイザーはソフィアの練習も兼ねている。

 なので、威力はかなり低く、何とか形になったって感じだ。

 相手は身体を貫かれることなく、吹き飛ばされ、そのまま気絶してしまう。


 以前、イブリスと戦った時のアクアレイザーは、皆を守るために魔力が暴走していたような感じなので、今のより威力が高くなっていた。

 なので、これが今のソフィアの本来のアクアレイザーの威力になる。


(魔力の練りと制御は良くなったけど、まだまだあまいな)


 俺は今のを見て、そう判断した。今後の課題も見つかった。


 ソフィアの勝ちと審判がコールすると、会場は歓声に沸いた。


 だが、ソフィアは退場せずに、怪我をさせてしまったシルバーウルフと相手をヒーリングで治癒してあげた。


「ごめんなさい、痛かったよね」


 ソフィアはシルバーウルフの頭を撫でてやると、嬉しそうにシルバーウルフは尻尾を振った。


 相手は戸惑っていたが、最終的には笑顔でお礼を言ってきた。

 ソフィアの優しい言葉と行動に見惚れたのか、慌ててそのまま立ち上がり、去ってしまった。


 こうして、ソフィアは無事に1回戦を勝つことが出来たのだった。

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