第47話

「コ、ココナ、ここって・・・」


 ソフィアは俺をぎゅっと抱き締めながら聞く。


「墓場だね。相当古そうな」

「だ、だよね」


 俺達はユニオンデッドの通って来た跡を辿っていたら、森の開けた場所に出た。

 そこには辺り一面に墓碑が立っていたのだ。


 ソフィアは先行するココナにびくびくしながら付いていく。


「昼間だからそこまで怖くないでしょ?」

「こ、怖いよぉ。今にでもそこから何か出てきそうな」


 ソフィアは1つのお墓を見ながら言う。


 ボコ


「きゃああああぁぁぁ!!!」


 本当に出てきやがった。


「てや!」


 ココナは光を纏った蹴りで、墓下から出てきたアンデットを一蹴する。


「倒したよ」

「うぅ・・・お家に帰りたいよぉ。もういやぁ~」


 ソフィアはその場でしゃがみこんでしまう。

 というか、そろそろ抱き締める腕を緩めてほしい。

 苦しくなってきた。


「ん~、ここがアンデットの発生原因の場所なのかな。あちこちに穴が空いてるし」


 辺りの墓には何かが出てきた穴がそこら中に空いていた。


「帰ろうよぉ。ここが原因でいいよぉ」

「うーん、他に周りには無さそうだし、アンデットも収まったしいいのかな」


 ココナは辺りを見て、そう判断する。


 確かにここには墓場以外に何も無い。

 周りも森で囲まれており、道も無いことを考えると、相当古い墓場なんだろう。

 だけど、アンデットになった原因がわからない。

 何かしらのきっかけがないと、アンデットにはならないと思う。

 じゃないと、他の墓場もアンデットで溢れてしまう。

 それよりやばい。

 そろそろ離してくれないと意識が。


「ソフィア、リアンが死にそうだよ」

「うぅ・・・え?きゃあああ!?リアーンっ!!!」


 ぐったりする俺をソフィアは慌てて解放してくれた。

 危なかった、もうちょい遅かったら俺も墓に入っていたかもしれない。


「とりあえず戻ろっか。ここの報告をすればいいんじゃないかな?」

「う、うん。他に何も無さそうだし、早く帰ろ!」


 ソフィアは1人で逃げるように墓場を後にした。俺とココナはそれを追いかけるようにして、その場を立ち去った。



 ☆     ☆     ☆



 俺達はカリーナとグランと無事に合流した。すると、そこには見慣れない女性がいて、カリーナに介護されていた。どうやらアンデッドから逃げて、隠れていたらしい。アンデッドいなくなった後に森をさまよい、俺達の乗ってきた馬車を発見して助けを求めてきたらしい。


 怪我もしていたので、カリーナが治癒魔法で治していたら、丁度俺達が帰ってきたということだ。


 たぶん俺がここに来た時に聞いた叫び声は彼女のものだろう。


 そして、助けた女性と共に、無事にフォルティスの町まで帰ってくることが出来たのだった。


 俺達はグランに女性のことを任せて別れた。そして、カリーナと共にクエストの受付嬢のセリカの所にやってきていた。


「お疲れ様でした。アンデッドの討伐の確認をしましたので、報酬を渡しますね」

「ありがとうございます」


 セリカはソフィアとココナの学生証に記録されている討伐記録から読み取って、その分の報酬を渡す。


「カリーナさんもありがとうございました。これが報酬となります」

「こ、こんなに頂いてよろしいのですか?」

「はい。アンデッドは討伐出来る方が少ないので、少し多めになるんです」


 予想より多く出されたお金にカリーナは戸惑いながらも受け取った。


「念のため、この後もソフィアちゃん達からの報告にあった場所を調べますので、数日の間はまたアンデッドが出るかもしれません。そうなった時にはまた連絡させてもらいますので」

「わかりました」


 俺達は報酬を受け取った後、そのまま建物の外へ出た。


 すでに日は暮れてきており、辺りをオレンジ色に染めている。


「ソフィアとココナさんはこの後どうするんですの?」

「うーん、ココナは帰って休もうかと思ってるけど」

「私もそうですね」


 特に予定はないので、いつも通りに帰って夕飯食べて風呂入って寝るだけだ。


「そ、その、お二人に時間があるのなら、この後一緒にお食事でもと思ったのですが」

「あ!いいね!いこういこう!!ソフィアもいいよね?」

「うん!大丈夫だよ」

「そ、そうですか。そうですのね!」


 緊張していたカリーナの顔が笑顔になった。

 カリーナはもしかすると、こういったことの経験があまりないのかもしれない。

 変わり者でもあるし。


「それならさ!あそこ行こうよ!あそこ!」

「あそこってどこですの?」

「美味しい喫茶店があるんです。喫茶プラリアっていって、夜もレストランみたいな形でやってるんですよ」


 喫茶プラリアは以前、紅茶とケーキが美味しかったあの店だ。

 俺もあそこの料理は美味しかったので気に入っている。


「喫茶店と仰いましたね?その・・・ケーキとかもあるのでしょうか?」

「あるよ!すっごく美味しいよ!」

「そ、それならそこでお願いします」


 カリーナはにやける顔を我慢するような感じで言った。


「じゃあ行きましょうか」


 俺達は喫茶プラリアを目指して歩き始めた。


 そして、もう少しで到着するといえところで、ソフィアが路地の方を見て立ち止まった。

 俺もソフィアが見ている方を向くと、1人の女性が静かに泣いていた。


「ソフィア、どうしたの?」

「う、うん、ちょっとカリーナと一緒に先に行っててもらってもいい?」

「う、うん、わかった」


 流石に泣いている女性に大人数で押し掛けるのも悪いと考えたのだろう。


 ココナとカリーナには先に行かせ、俺と一緒にソフィアが泣いている女性に近付いた。

 髪は少しぼさぼさしているが、薄ピンク色の長い髪をしている。なんとなくだが、カリーナに似ているような気がする。


「あの、何かあったんですか?」


 ソフィアが優しく声を掛ける。

 だが、女性は俯いて涙を流しているだけだった。


「あの」

「・・・・止め・・て」

「え?」


 女性は泣きながらにしては聞き取りづらい声で何かを言った。


(止めてって言ったのか?何を・・・)


 その後もソフィアが声を掛けるが、女性は「止めて」と呟くだけだった。


「ソフィアー!まだー?」


 喫茶プラリアの入り口からココナが叫んで呼んできた。


「もうちょっと待ってー!」


 ソフィアは一度ココナの方を向いて、返事をした。

 そして、女性の方を振り返る。


「失礼しました・・・ってあれ?」


 だが、そこには女性の姿はなかった。

 この先の路地は行き止まりだし、通りに出たのなら、ココナの方を向いていても視界には入るはずだ。


「リアン、女の人はどこに行ったの?」

「・・・・・・・」


 俺はその質問に答えることが出来なかった。


 さっきの女性は俺の目の前で透き通るようにして消えていったのだから。

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