第46話

「はあぁぁ!!」


 ココナは森の奥から現れたアンデッドに白い光を纏った蹴りで、鎮圧をしていく。


「シャイニングスピア!!」


 ソフィアもココナの死角からやってくるアンデッドに魔法で援護射撃をする。

 複数現れた時は2回3回と連続でシャイニングスピアを撃っている。


「にゃあ」

「向こうね」


 俺はアンデッドがやってくる方向をソフィアの光属性の魔力抽出を手伝いながら教える。


 ソフィアは1人でもシャイニングスピアを扱えるのだが、今回のように連続で発動する場合は、俺がソフィアの魔力器官から膨大な全属性の魔力から光属性の魔力だけを抽出することで、ソフィアは光属性の魔力の制御だけに集中出来る。

 そうすることで、普通なら難しい連続での魔法発動を可能とさせているのだ。


 俺がソフィアの魔力制御を全てやってもいいのだが、それだとソフィアの負担が掛かる。

 それに、光属性の魔法は俺が使えなかったから、基本的にソフィアと同じ魔法しか知らないのだ。同じ魔法の魔力制御を2人でやると、何かしらの影響が出る可能性がある。


(ん?影響が出る可能性か・・・)


 俺はそんなことを考えながら、アンデッドの出てくる方向を耳を立てて探る。


(ん?音が今までより大きい?)


 俺は耳を澄ませる。


 近くではソフィアとココナが戦っているので音は多いが、集中すれば音の種類は絞り込める。


「っ!?にゃにゃあ!!」

「え?っ!?ココナ、戻って!!!」


 俺の警告に気付いたソフィアはココナに戻るように指示する。


「う、うん!今もどっ!?」


 ソフィアが返事をした瞬間、森の木々をへし折りながら何かが飛んできた。

 ココナはそれに当たり吹き飛ばされ、木に衝突して止まった。


「あ・・・・ぐ・・・な、なに・・・が」

「・・・・・木?」


 飛んできた物は根っこから引き抜かれた木だった。

 ココナは目の前にある木を退かして、ふらつきながらも立ち上がった。

 身体強化をしていたおかげで、なんとか助かったのだろう。


「・・・リアン、あれってアンデッドなの?」

「にゃあ」


 俺はソフィアの質問に頷いて答える。


 くそ、やっかいなアンデッドが出てきやがったな。


 今まで出てきたアンデッドは大きく見ても2mは越えない人型のアンデッドだった。

 だが、森の奥から木々をへし折りながらやってくるアンデッドは人間の姿をほとんどしていない。

 いや、人間の手足ではあるのはわかるのだが、何本も腕や足が絡み合って、巨大な1つのアンデッドと化していた。


 確かユニオンデッドと呼ばれている複数のアンデッドを吸収した変異個体だ。


「んっ!?す、ストーンウォール!」


 ソフィアは突然俺がした魔力制御を理解してくれた。


 ソフィアの唱えたストーンウォールで石壁は、ユニオンデッドの腹から発射された丸太を防いで、亀裂が入る。


 ユニオンデッドは身体が大きく、動きもかなり遅い。

 まだ距離はあるので、遠くから魔法で迎撃出来れば問題はない。

 だが。


「フォトンレイ!」


 ソフィアはココナに近付こうとしているアンデッドに気が付き排除する。


「リアン、いくよ!」

「にゃあ!」

「シャイニングスピア!!」


 ソフィアはユニオンデッドが近付く前にシャイニングスピアを発動させる。


 シャイニングスピアは木々の間を縫い、ユニオンデッドの足に命中する。

 そして、一部が破壊されたことで、自らの重みに耐えきれず、そのまま崩れ落ちた。

 だが、まだ気持ち悪い音を立てながら、立ち上がろうとする。


「ココナ、大丈夫?」

「な、なんとか」

「ヒーリング」


 ソフィアはココナに治癒魔法を掛けてやる。

 幸い大きな怪我は無く、すぐに動けるようになった。


「あれってアンデッドなの?」

「みたい。光属性が効いたし」


 ソフィアとココナはユニオンデッドに向き合う。


 ユニオンデッドは先程、ソフィアにやられた部位はそのままにして、のそのそと遅い動きで木々を破壊しながらこちらに向かってきている。


「ね、ねぇ、吸収してない?」

「・・・してるっぽいね」


 ユニオンデッドは途中にいる普通のアンデッドを巨碗で掴み取り、自らの体に埋め込んでいく。

 そして、ソフィアにやられた場所を補強している。いや、それ以上に成長していっている。


「とっととやった方が良さそうだね」

「うん。それなら・・・フォトンレイ!」


 ココナが前に出る前に、ソフィアは放射状に拡がるフォトンレイで周りのアンデッドもろとも攻撃を仕掛ける。


 そこにココナが一気に崩れ落ちるアンデッドの間を縫って、ユニオンデッドの頭上に跳び上がった。


「せいっ!!」


 ココナはユニオンデッドの脳天に白く光輝く踵落としをお見舞いする。


 踵落としは、そのままユニオンデッドの脳天から地上まで軌跡を描いた。


「うわっ!?気持ち悪っ!?」


 お前が自分でやったのに何言ってんだ。


 ユニオンデッドは体が真ん中で引き裂かれ、色々と中身を出しながら倒れた。


「ココナっ!どいて!!フォトンレイ!!」


 ソフィアは少し近付き、追撃のフォトンレイを浴びせる。


 アンデッドは死ぬとき塵となるのだが、ユニオンデッドは塵となっていなかったのだ。


 なので、ソフィアは止めとばかりにフォトンレイで追撃をしたのだ。


 そして、ユニオンデッドは穴だらけになり、塵となって消えていった。


「えっと、向こうから来たよね」

「わかりやすいね」


 ユニオンデッドが通って来た道は木や草が薙ぎ倒されている。


 俺達はその跡を辿って、更に森の奥へと歩いて行った。



 ☆     ☆     ☆



「探しましたよ。こちらにいたんですね」

「スラヴァか。珍しい」


 スラヴァはある本を抱えながら、ある屋敷にやってきていた。


「貴方に教えておこうと思いまして」

「教える?何をだ?」

「これです」


 男はスラヴァから本を受け取り、中身を読んでみる。


 時間が経つにつれ、男の表情は歓喜を表すようになり、興奮してくる。


「これを使えばあいつを」

「ええ、それとこれも使えば更に確率は上がりますよ」


 スラヴァはそう言って小さな宝石のような物を男に渡した。

 そして、ふと近くにいる鎖に繋がったままの女性に目を向ける。


「そういえば、貴方のせいで大変なことになっているらしいですよ」

「だろうな。地下の倉庫に入りきれないからな。その分は森に放置している」

「ま、それが原因で貴方がやられないことを祈りますよ」


 スラヴァはそう言い残すと、すぐにどこかに行ってしまう。


「僕がやられる?ふざけたことを。それよりこれは・・・ふむ、アンデッドではないが似たようなことが書かれているが・・・」


 男はそのまま本に没頭してしまうのだった。



 スラヴァは屋敷から出て、辺りにいるアンデッドを見る。


「まったく、相変わらず醜いですね。イブリスの方が良い。まぁ、これも昔私が教えた技術ですか」


 スラヴァはそう言いながら森の中へと歩いていく。


「イブリスのことといい、アンデッドといい、何でレジスタンスはこの実験資料を隠し持っているのやら。私みたいに有効活用しなければ意味はないというのに」


 その呟きは誰にも聞こえることはなかった。

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