第45話

「ソフィアちゃん、ココナちゃん、今回のクエストはBランク相当に当たると考えられています。ディケイル様の推薦ということで、今回は特例で受注する形になりました。とまぁ、事務的なことはここまでにして、気を付けるのよ。無事に帰ってくることを祈ってるわ」

「はい」

「頑張る!」


 ソフィア達はセリカから正式にクエストの依頼として、アンデッドの討伐を受けることになった。


「今回は一般人であるあなたにも報酬は用意させて頂きます。どうか御協力の方、宜しくお願いします」

「任せてくださいな。ソフィアには指一本触れさせはしませんわ」


 今回は協力してくれるカリーナも一緒だ。


 これで光属性の攻撃魔法を扱える者が2人になる。

 これならあのアンデッドの大群でも、対応の幅は広がるだろう。


「行くよ、リアン」


 俺はソフィアの肩に乗り、学校を出発する。


 ソフィア、ココナ、カリーナの面々は町の入り口に向かう。


「おう、待ってたぜ」


 入り口にはグランが待っていてくれた。

 今回も森まではグランが送り届けてくれることになっている。


「またよろしく頼むな」

「こちらこそよろしくお願いします」


 こうして俺達は、アンデッドが大量に出現している森に向けて出発することになった。



 ☆     ☆     ☆



「上手くいかない」


 薄暗い部屋で男が呟いた。


 男の視線の先には、横たわった人間だったものが、呻き声をあげて起き上がった。


 そして、ふらふらしながら部屋を出ていってしまう。


「こんなんじゃ駄目だ!!」

「ひっ!」


 男は近くにいた女性の方に見ていた本を投げつけた。

 女性は手錠で壁に繋がれている。

 格好もみずほらしく、薄い布のようなものしか身に付けていない。


「・・・次はお前だ」

「い、いや」

「お前は俺が買った物だ。拒否権はない」

「いやあぁぁぁ!!」


 女性が叫んでも誰も助けには来ない。


 そして、男の手が女性の心臓部に突き刺さる。

 すると、不気味な黒い靄が女性を包み込んだ。


「今度こそ・・・今度こそは・・・・」


 そして、女性は人間ではなくなった。


「・・・だめだ。また失敗だっ!!」


 男はまた失敗を嘆きながら、次の実験台とする人間を連れてくるのだった。


 その間に女性だったモノはふらふらとしながら、その場を立ち去っていった。



 ☆     ☆     ☆



(・・・ん?なんだ?)


 俺は馬車で移動中、何か呻き声のようなものを聞こえた。

 しかし、ものすごく小さい声だったので、かなりの距離はあるだろう。

 俺は顔を上げて、声らしきものが聞こえた方に顔を向ける。


「どうしたの?リアン」


 俺がいきなり動いたものだから、ソフィアが聞いてきた。


 何か聞こえたことを伝えようにも、話すことが出来ない俺には伝える手段がない。たぶんアンデッドだと思うけど。


「おい!出てきたぞ」


 御者のグランからそんな声が上がる。

 俺の気のせいではなかったようで、予定より早くアンデッドが現れたら。


「わかりました。行こう、リアン」

「にゃあ」

「ではわたくしも行きますわ」

「ココナも行くよ!実戦したいし!」


 ココナもジャネットからあるものを託されていた。


 3人で外に出ると、森の木々の間という間からアンデッドが次々と現れてきていた。


「光よ、数多なる」

「フォトンレイ!」

「早いですわ!?」


 カリーナが詠唱している間に攻撃を開始してしまうソフィア。


(そりゃあ詠唱してりゃ遅くなるわな)


「わ、わたくしも・・・フォトンレイ!」


 2人のフォトンレイは扇状に拡がり、多くのアンデッドを撃ち抜いた。


 だが、木々の影にいるアンデッドには届かない。


 そこに身体強化をしたココナが白く光る脚でアンデッドに回し蹴りを放った。

 その威力でアンデッドは身体が上下に別れ、吹き飛んでいく。


 本来なら再生するはずなのだが、アンデッドは再生せずに塵となって消えていく。


「これなら戦える!」


 ココナは木々の隙間を縫って、次々とアンデッドを葬っていく。


 だが、次第にココナの脚を纏っていた白い光が弱まっていく。


「っと、そろそろ危ないかも」


 ココナは距離を取り、ソフィア達の方へと下がる。


「ソフィア!お願い!」

「え!?もう無くなったの?」


 ソフィアはカリーナと一緒にフォトンレイで馬車に近付くアンデッドを倒していた最中だ。


「カリーナ、少しこちらもお願いします」

「わかりましたわ!」


 ソフィアはココナの脚に装着しているブレスレット型の魔法具に光の魔力を注ぎ込む。


 今回ココナが装着しているブレスレットの魔法具には魔石が装飾のように付いており、リングには模様のようなものが描かれている。

 ソフィアがその魔石に光の魔力を存分に注ぎ込んでいるのだ。


 使用方法はウィンドブーツと同じで、魔力を流し込めば起動する。


 ただ、ココナのギフトの影響で、魔法具の持つ上限一杯に魔力を解放してしまうため、光の魔力の減りが早く、効率が悪いのだ。


「・・・うん、終わったよ」

「ありがと!それじゃあ、また行ってくる!」

「あ、ココナ!」


 ココナはそのままアンデッドの中へと突っ込んでいった。


「ココナさんは落ち着きがありませんわね。援護するこちらの身になってほしいものですわ」


 カリーナはココナに当たらないように魔法の方向を調整しながら言う。


「ごめんなさい」

「ソフィアが謝ることはないですわ。それより今は手伝ってくださいな」

「はい!」


 ソフィアもすぐにアンデッドの殲滅を開始する。


 それから数分間で、アンデッドは恐らく100体以上は討伐することが出来た。もう途中から数えてないので、本当の数は分からない。


「こっちも大丈夫そうだよ」

「はぁ・・・はぁ・・・こ、これで終わりかしら?」

「ちょっと待ってください。サーチ」


 ソフィアから魔力の波が静かに広がっていく。

 たぶんこれは使い魔契約している俺だからソフィアの魔力をそう感じるのだろう。


「・・・あれ?少し離れた所にいるみたいです」

「まだいますの!?わ、わたくしは・・・その・・・・・・」


 カリーナは魔力があまり残っていないのだろう。

 最後の方は魔法を使うのつらそうだったし。


「カリーナはおじさんの護衛しながら休んでてください。感知した1ヶ所しかアンデッドの反応がないので、ここは平気なはずです」

「そうしな。アンデッド以外の他の魔獣だったら俺がなんとかしてやるからよ」

「そ、それではよろしくお願いしますわ」


 魔力が少なくなってきているのに、無茶なお願いは出来ない。

 それにしても、やはりソフィアの魔力量は半端なく多いな。

 俺が光の魔力を抽出を続けていたが、まったく減衰を感じない。


「ココナは大丈夫?」

「もちのろん!早く行こ!」


 ココナは相変わらず元気なようだ。


「気を付けてくださいまし」

「気ぃ付けてな」


 ソフィアとココナはグランとカリーナに見送られて、森の奥へと入っていった。

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