第25話

「今日も先生いなかったね」

「うん。でもまだ3日目だし、どこか遠くの任務に行ってるかもしれないし」

「そうだけどさー。でもやっぱり寂しいよね」

「うん、そうだよね」


 ジャネットの置き手紙から3日が経ったが、まだ帰ってきていなかった。


 何人かの先生や生徒に聞いても、ジャネットを見ていないらしい。


「ソフィア・ミール!!」


 廊下を歩いていると、ソフィアの名前をフルネームで呼んできた人物がいた。


「あなたは・・・ヘンリー・ヘイグ君でしたか?」


 ソフィアのことを呼んだ男子生徒は、模擬戦の時にソフィアと戦ったヘンリー・ヘイグだった。


「決闘を申し込む!!」

「け、決闘!?」


 決闘は生徒同士で実力を高め合う一環で、学校側でも認められてはいる。


(でも普通はもっと静かに申し込むもんだけどな)


 何故なら、決闘を申し込んで無様な負け方をしたら恥だからだ。


 それなのに、ヘイグは廊下で他の生徒もいる前で、ソフィアに決闘を申し込んだのだ。


「今日の放課後、コロシアムに来い!」


 ヘイグはそう言い残して、足早に去っていった。


「どうするの?ソフィア」

「返事してないし、やるやらない関係無しにコロシアムには行こうかな」

「本当にソフィアは良い子だよね」


 この決闘の噂はたちまち学校内に広がっていくのだった。



 ☆     ☆     ☆



「・・・・・・・・・」


 ジャネットは1人でフォルティスの町の廃屋となった工場に来ていた。


「ここね。目撃証言があったのは」


 ジャネットはいつでも魔法を放てる準備をしながら、ゆっくりと歩み始める。


「貴方から来てくれるとは嬉しいですねぇ」

「・・・・・・やっぱり貴方だったのね。スラヴァ・グソフ」


 黒いローブの男、スラヴァは機械音を鳴らしながら、人間の手ではない左手を顔の前に持ってきた。


「この腕を焼かれた苦痛。貴方に返しに来ました」

「焼き殺すつもりだったはずなのに、その程度で済んだのよ。有り難く思いなさい」

「そうでしたか」


 ジャネットの周りから次々とロックゴーレムが現れる。


「よくもまぁ、これだけのロックゴーレムを集めたわね」

「貴方を相手にするんです。当然でしょう」


 スラヴァが手を上げると、ロックゴーレム達が一気にジャネットに迫り始める。


「でもこれだけのロックゴーレムでどうにか出来るとでも?チェインボム!!」


 ジャネットが回転しながら魔法を唱えると、周囲に爆発が連続で起き始める。


 それだけで、ジャネットに近付こうとしたロックゴーレムは崩れさってしまう。


「ええ。これだけいれば十分です」

「っ!?これは!!」


 チェインボムで破壊されたロックゴーレムは、まだ壊れていないロックゴーレムに吸収されていく。


「魔獣の操作だけでなく、こんなこともやっているなんてね」


 欠片を集めたロックゴーレムは数倍の大きさになってしまった。


「フレアバースト!!」


 ジャネットは全力全開のフレアバーストを放つ。


 フレアバーストによる大爆発は巨大化したロックゴーレムを一気に崩れさせる。


「無駄ですよ」

「なっ!?」


 崩れたはずのロックゴーレムはすぐに元の大きさに戻る。


「ロックゴーレムは核を中心に動く魔獣です。なので、核さえ壊せばロックゴーレムは倒せる。しかし、貴方の魔法は核を破壊していますが、本当の核を破壊していない」

「・・・・・・・なら、全てを粉々に吹き飛ばすまで!!エクスプロージョン!!!」


 今のジャネットが使える最強の魔法。

 対象を物理的に破壊出来る最強の爆発魔法。


 エクスプロージョンは工場跡地をロックゴーレムごと吹き飛ばし、岩どころか塵に近い形まで粉砕した。


「ふぅ、巻き込まれそうになりましたよ」

「な・・・んで」

「さぁ?何ででしょうか」


 ロックゴーレムは塵となった。

 ジャネットはスラヴァも巻き込むつもりでエクスプロージョンを撃った。


 なのにジャネットの身体の自由を奪っている小石や砂の集まりはなんだ。

 スラヴァも無傷でいるのは何でだ。


「さて、貴方をいつも助けてくれたリアン・ユーベルは行方不明。身体の自由はもう利かない。私に傷を付けることも出来ない」

「うっ!」


 締め付けてくる砂や小石が身体にめり込んでくる。


「貴方には私が経験した痛みと地獄を存分に味わって貰いましょうか」

「・・・・・・」


 ジャネットは今出来ることを考えるが、何も解決策は出てこない。

 本当にこのままではスラヴァの好きにされてしまう。


「あ、そうそう。貴方の受け持つ大事な生徒ですが・・・」

「っ!!」


 ジャネットは嫌な予感がした。


「私の新たな部下がちょっかいを出そうとしていましたよ」

「あああぁぁぁぁああ!!!」


 ジャネットは自分の中で魔力を爆発させる。

 これは身体に負荷が相当掛かるため、奥の手の中の奥の手だ。


「これが『炎の竜姫』・・・ですか」


 ジャネットの衣服は灰となり、身体には紅蓮の炎を纏わせていた。


「塵となりなさい!ドラゴンフレア!!」


 ジャネットの纏う紅蓮の炎が竜の形になり、辺りを焼いていく。


「これは・・・流石にきついですか」


 先程まで小石や砂になっても動いていたロックゴーレムは停止していた。


「では私はこの辺りで消えるしましょうか。厄介な者も近付いて来てるようですし」

「逃がさないわ!!」


 ジャネットは腕をスラヴァの方に伸ばすと、炎がスラヴァを呑み込んだ。


「・・・・・・逃げられちゃった・・・か」


 ジャネットの炎の跡は焼け焦げた地面だけしかなかった。

 まともに当たれば塵も残さない自信はあるが、手応えはなかった。


 そして、ジャネットはその場に崩れ落ちた。


 炎は消え、裸になってしまうが、身体を隠す気力も体力もない。


「でも・・・いかなきゃ」


 自分の初めての教え子が危ない。


「あの子達は・・・守らないと・・・」


 ジャネットは身体が傷付くのも厭わず、身体を引き摺るようして、前に進む。


「ジャネット!!」


 そこにあの男の声が響く。


「おそ・・・いわよ」

「なんでこんなことになっているんだ」


 その男はディケイルだ。

 ディケイルは上着をジャネットに掛け、ヒーリングを使い始める。


「はぁ、はぁ、あの子達が危ない」

「今は君の身体だ!あれを使ったんだろ!!」


 ディケイルはジャネットが使った邪法ともいえる魔法のことを知っている。

 そして、使わないように釘を差した魔法でもあった。


「それでも・・・行かなきゃ!」

「・・・・・・私も同行するぞ。何処に行くんだ」

「今の時間は・・・たぶん学校のはず」

「なんだと!?まさか・・・君の言うあの子達とは・・・狙われているのはソフィア・ミールとココナ・ユースフィアか!」


 ディケイルはジャネットを無理矢理背負い、学校に向かって走り出した。


「勝手に裸の女性を背負うとかあり得ないわよ・・・」

「今は我慢しろ!」


 ジャネットは文句を言っているが、内心は感謝しているのであった。

 自分の教え子ではないのに、ディケイルがここまでは必死になるのは珍しいから。


(ミールさん、ユースフィアさん、どうか無事でいて)


 ジャネットはそう願いつつ、ディケイルの背中に身体を預けた。

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