第26話
ジャネットが戦っている同時刻、学校では放課後になり、ソフィアとココナはコロシアムに向かっていた。
「ソフィア、試合するの?」
「うーん、断るつもりだったんだけど、なんかやらないといけない空気になっているような気がして」
コロシアムには、噂が広がり観客と思われる生徒が多く集まってきていたのだ。
「おい、悪魔の子が来たぞ」
「戦ったら呪われるらしいぞ」
「前みたいに偶然で勝つつもりか?」
「クエストも頑張ってるらしいけど、Eランクのしょうもない依頼だって噂だぜ」
ソフィアがCランクに上がったという事実は、限られた人しか知らない。
いや、未だに信じられずにいるのだ。
普段の魔法の練習を練習場でやるときは俺が魔力制御をしていないので、まだ基本的な魔法を使えるレベルに到達しているかどうかってぐらいなのだ。
「ソフィア、言わせてていいの?」
「うん、言っても私の目の色は変わらないし、その・・・言われ慣れてるから」
蒼と翠の瞳は少し悲しそうに見える。こんなことに言われ慣れているはずがないのに。
「ココナは好きだよ。ソフィアの目は綺麗だもん」
ココナは素なのか、あっさりとそんなことを言った。
「っ!?・・・ありがと」
ソフィアは目を一瞬見開いた後、優しく微笑んだ。
そんな会話をしながら、ソフィアは試合場の前室に到着する。
「来たか」
入ると既にヘイグが待ち受けていた。
「もちろん受けるよな?この状況で逃げたりしたら、お前はずっと臆病者の烙印を押されるぞ」
「・・・・・・・・受けます」
ソフィアは決意するように、深呼吸をしてから返答した。
「では今回は私が審判を務めさせて頂きます」
すると、1人の男性教員と見られる人が出てきた。
(確かこいつはレジスタンスの)
俺もあまり関わったことがないから知らないが、良い噂を聞かないレジスタンスの1人のはずだ。
「初めまして、レジーノ・ノバルです。教職を担当しているレジスタンスのメンバーです」
「初めまして、今日はよろしくお願いします」
「ええ、出来る限り平等な審判をさせて頂きます」
ソフィアは相手が教師ということもあり、丁寧に挨拶をする。
「それでは試合の方に参りましょうか」
ココナとはここで別れ、ソフィアは対戦相手のヘイグと審判のレジーノの3人で会場に入っていった。
☆ ☆ ☆
「それでは、これより決闘を始めさせて頂きます。ルールは相手を戦闘不能にするか、どちらかが降参した時点で勝敗を決めるものとします」
レジーノがソフィアとヘイグの中心に立ち、試合の説明をする。
「それでは始め!!」
レジーノが宣言し、一気に跳躍して、コロシアムの端まで下がった。
(流石はレジスタンスの現役だけはあるな)
俺はソフィアの肩に乗りながら、そんなことを考えていると。
「ファイアランス!!」
「っ!!」
開始直後、いきなりファイアランスを放って来たヘイグ。
ソフィアは以前とは違い、しっかりと魔法を見て、余裕のある回避をする。
「バカめ!グレイブ!!」
ソフィアの避けた先の足元からグレイブによる石の槍が地面から生えてくる。
俺は即座に魔力制御を行う。
「ん、エアロブラスト!!」
ソフィアは跳躍しながらエアロブラストを唱える。
「あう!」
ソフィアはエアロブラストの暴風で自分が吹き飛ばされる要領でグレイブを回避し、安全な地面に着地・・・いや、尻餅を着いた。
(・・・誰かの指南でも受けたのか?以前と比べて強すぎる)
「ファイアボール!」
ソフィアは起き上がり、俺の魔力制御ではなく、自分でファイアボールを放った。
ソフィアはファイアボールは普通の大きさまで撃てるぐらいには成長している。
「そんなもん届かねぇよ!ファイアランス!!」
明らかにファイアランスの方が威力も速度も上だ。
だが、ファイアボールを貫くはずのファイアランスは掻き消されるように消え、ヘイグに向かってファイアボールが飛んでいった。
「なっ!」
ヘイグは咄嗟にサイドステップでファイアボールを避ける。
俺もこれにはさすがに驚いた。明らかにソフィアのファイアボールの方が威力が弱かったからだ。なのに、ソフィアのファイアボールが撃ち勝ったのだ。
そんなことを考えていると、ヘイグが次の魔法を放とうとしていた。
「くそ!これならどうだ!!ロックブレード!!」
ロックブレードは地属性の魔法で、複数の石の剣を出現させ、相手に飛ばす魔法だ。
「んっ・・・えと、グラビティ!!」
ソフィアの魔法も地属性だ。
といっても、ソフィアの魔法は重力を操作する魔法だ。
石の剣は重力に勝てず、ソフィアに届かないまま、地に落ちる。
『うぉおおぉぉぉぉ!!!』
1年生同士の決闘とは思えない魔法の撃ち合いに、コロシアムは大歓声に包まれる。
「なになに!?あの2人って1年生だよね!」
「今のってグラビティだよな。高難度魔法の」
「相手のロックブレードもあれだけの数を出せてるんだ。結構な実力だぞ」
観客からもお互いを称賛するような声が上がり始める。
「お前!練習の時は実力を隠してるんだろ!!卑怯者!!」
「ち、ちがっ!あれは隠してなんか」
ソフィアの言うことは正しいが、高難度の魔法は『実は使い魔の猫がやっているんです』と言っても、誰も信じないだろう。
「うるさい!!これならどうだ!!ロックゴーレム召喚!!」
「えっ!?」「にゃっ!?」
ヘイグが叫んでいうと、辺りの地面からロックゴーレムが多数出現してくる。
(召喚魔法だと!あれは成功例は少ないはず。例え召喚出来ても命令を聞かないはずだ!)
「ロックゴーレム共!あいつを叩き潰せ!!」
「り、リアン」
「にゃあ・・・」
多数のロックゴーレムに囲まれそうになり、涙目で見てくるソフィア。
ロックゴーレムは何故かヘイグの言うことを聞いて、こちらに歩いてくる。
ヘイグは気味の悪い笑みを浮かべながら高々と話しだす。
「どうだ!俺の力は!!そうだな。裸になって許しを乞えば止めてやってもいいぞ?」
「そ、そんなの出来るわけ」
「にゃあ!!」
「リアン・・・んんぅっ」
(今のは俺も流石に許せない発言だ。俺の教え子のソフィアにこの場で脱げだと?この程度の雑兵で)
ソフィアの周りに視認出来る程の魔力の渦が舞い上がる。
それには、観客も含め絶句して見ている。
「んっ!ちょっと、り、リアン!こ、これはっ!!」
「にゃあ!!」
俺は我慢しろの意味を込めて鳴く。
ソフィアは膝がガクガクと震え出す。
「にゃあ!!」
「んあっ!んんっふぇっフェイタルバレット!!」
ソフィアが魔法を唱えると、漆黒の親指程の大きさの漆黒の弾がソフィアの頭上に現れた魔法陣からものすごい速度で、複数発射された。
漆黒の弾は的確に全てのロックゴーレムに吸い込まれるように貫いていった。
しかし、小さな穴は空けたが、 それ以外何も起こらない。
「は、ははっ!見せかけの魔法か!行け!ロックゴーレムよ!!」
しかし、ロックゴーレムは微動たりもしない。
「お、おい!どうした!!行け!!」
「はぁ・・・はぁ・・・無駄ですよ」
「なんだと!!」
ソフィアは息切れしながら、ヘイグに向かい無駄だと言った。
(ソフィアもよくこの魔法を覚えてくれたもんだ)
俺はソフィアが使えると信じてはいたが、こんなに早く魔法名が出てくるとは思っていなかった。
「フェイタルバレットは死を呼ぶ呪いの弾です。受けた者は何者であれ、例え無機物で動く物は死に落ちます」
「そ、そんな魔法聞いたことはないぞ!!」
「それはそうですよ。これはリアン・ユーベル様が作った魔法の一つですから」
「リアン・・・ユーベルだと」
そうなのだ。
これは俺が人間の時に作った闇属性の攻撃魔法だ。
何故ソフィアが知っているかというと、ジャネットが俺の部屋を片付けた際に、俺が書き記した魔法の本がジャネットの個室に保管してあったからだ。
ソフィアはそこで俺の本を読んだので、この魔法を知っていたのだ。
俺もそれを知っていたから、この魔法の魔力制御を行ったのだ。
「まだ1つここにあります。あなたが受けますか?」
「ぐっ・・・」
ソフィアは1つだけ手元に漆黒の弾を控えさせていた。
(・・・俺の制御に割り込んだのか?)
俺はロックゴーレム全てにロックオンして、全て撃ち放つように魔力制御を行ったはずだ。
なのに、ソフィアはそこから僅かに自ら魔力制御をして、手元に1つ残るようにしてたのだ。
ヘイグはここで降参してくれると思ったのだが、現実はそう甘くはなかった。
「まだだ・・・まだっ!?」
ヘイグがいきなり苦悶の表情を浮かべる。なにやらヘイグの二の腕辺りが不気味に光始めている。
「やれやれ、ここまでのようです」
そう言ってきたのは、審判をしているレジーノだ。
「ヘンリー・ヘイグ。君の役目は終わりです」
レジーノがそう言うと、ヘンリー・ヘイグの身体から黒い魔力が溢れてくるのだった。
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