魔月境の襲撃、繋がる運命

第23話

「お、嬢ちゃん達。ちょい久しぶりだな」

「ご無沙汰してます」

「こんにちわ!」


 今日俺達はあるクエストを受けて、以前お世話になった馬車の御者をしているグランのところにやってきていた。


「今日は何処か行くのかい?」

「はい。というより、これはおじさんからの依頼ですよ」

「俺からの依頼?っておいおい!嬢ちゃん達がやってくれるのか!?」

「そうだよ。だから来たんだよ」


 グランさんは驚いているようだ。


 ま、それもそのはずだ。


 だって、今回のターゲットは。


「俺が依頼出したのって、ロックバードの討伐だぞ!あれはCランク以上だって言われて」

「私達、Cランクですよ?」

「でも嬢ちゃん達1年生だよな?・・・・・・・え、マジか?」

「マジマジ」


 グランはまさかのことに固まってしまうのだった。


 Cランクからは通常のレジスタンスのクエストと同列の仕事といわれている。

 学年が上がるごとに昇格するので、Cランクというと、3年生が受け持つクエストだ。

 ソフィア達は1年生なので、本来はEランクのはずなのだが、功績によりソフィアとココナはCランクに昇格している。

 学校内でもあまり知られていないのに、グランが知るわけがない。


「い、いや、でも嬢ちゃん達には」

「大丈夫です。ちゃんと受付けで大丈夫だって言われましたから」

「だ、だけどよ」

「ほら!早く行こうよ!」


 ココナはグランを無理矢理馬車の方に押していく。


「い、いいんだな?」

「いいよ」

「お願いします」

「わ、わかった」


 グランは納得しきれていない顔で馬車を走らせ始める。


「・・・ところでココナ」

「ん?なに?」

「馬車は大丈夫なの?」

「・・・・・・・・大丈夫じゃないかも」


 ココナはいきなり顔を青くし、馬車の窓から顔を出した。


(そういえば、ココナって乗り物に弱かったな)


 馬車はそんなココナの状況を知らないまま、小一時間程走らせるのだった。


「長い・・・・・・長過ぎだよぉ・・・」


 馬車の中では、ココナの悲痛な声が響き続けた。



 ☆     ☆     ☆



「着いたぞ」


 グランが連れてきた場所は平原と荒れ地の間の辺りだった。


「ここから先はエラルド荒野といって、乾燥地帯になってるんだ」

「へぇ~、詳しいんですね」

「こんな仕事やってりゃな。それよりそっちの嬢ちゃんは大丈夫か?」


 グランは馬車の車輪に寄り掛かるようにして休憩をしているココナを見て言った。


「・・・もう少し休ませて」

「まだ駄目そうだな」

「みたいですね」


 そんな話をしている間、俺は辺りを警戒していた。


(なんだ?何かおかしい)


 俺はこの荒野を訪れたことがある。

 だが、その時と何かが違う。


「この辺りに何か生物とかいないんですか?」

「いや、いつもなら生物がいるぞ。だが、ロックバードが現れてからは補食されて数が減っているんだ」


(そうか。生物の気配がしないんだ)


 ロックバードは大きな鳥の魔獣で、高所を好む。

 なので、本来は荒野みたいな高い場所が無いところには、あまり出没しないのだ。


「ロックバードがよく見られるのってこの辺りなんですよね?」

「まぁな。でも、向こうの方が目撃者が多いな」


 グランが指差す方向は道が無く、徒歩でしか行けなそうだ。


「おじさんはどうします?」

「今回は馬車だけここに置いて、馬と一緒に付いてくぜ。1人の時に襲われたら不味いからな」

「え?馬車は大丈夫なんです?」

「ま、今回は取られる物はねぇし、大丈夫だろ」

「もうへいきー」


 ソフィアがグランと話していると、ココナか回復したらしく、こちらにやってきた。


「本当に大丈夫?」

「うん・・・少し動いた方がいいかも」


 そういうことで、ゆっくりと出発することにした。



 ☆     ☆     ☆



「ねぇねぇ!あれって食べれるんだよ!」


 5分ぐらい歩いていたら、ココナは完全回復して、元気になっていた。


「・・・・・・・・」

「ココナ、少しなら持って帰れるよ。小さな袋も持ってるし」


 ココナの状態の起伏が激しいことに慣れているソフィアは普通に会話をしているが、グランは呆然として、その姿を見ていた。


「もう平気なのか?」

「え?うん!元気も元気だよ」


 ココナはその場でぴょんぴょんと跳ねて、元気であることをアピールする。


「それにしてもロックバードいないね」


 ついでに言うなら、生物らしい姿も見ていない。


「他の場所に行っちゃったのかな?早くこれを試したいのに」


 ココナはいつもと違う靴を身につけている。


 それはウィンドブーツと呼ばれる魔法が付与された魔法具の靴だ。


 魔法具はそのままの意味で、魔法が込められた道具のことを指す。


 因みに、一般的に魔法具は飲み水や料理等、生活の中で使われている。


 話を戻そう。

 ウィンドブーツは身体強化をする要領で靴に魔力を通すと、宙を蹴ることが出来るようになる。


 一見、空中を歩けるように聞こえるが、そう便利な物ではない。


 発動は一瞬で1秒もないので、その場に待機することはできない。


 再発動も2秒程必要なので、連続発動も出来ない。


 なので、普通に使っても1回宙で蹴ることが出来るだけで、あまり使用用途はない。


「クァァァァ!!」

「き、来やがった!」


 遠くからロックバードと思われる鳴き声がした。


「リアン!」

「にゃあ!」

「おじさん、隠れててね。ソフィア!ココナは前に行くよ!」

「うん、気を付けてね!」


 実はココナは戦闘スタイルを変えている。


 ロックバードがこちらに気が付き、高度を下げながら突っ込んで来る。

 恐らく、脚の鉤爪で攻撃をしようとしているのだろう。


「させないよ!!っとう!」


 ココナは身体強化をして、3m程跳躍して、ロックバードの目の前に躍り出る。

 ロックバードは2mはあるというのに、ココナは恐れていない。


(ココナはこういうところが強いな)


 俺はココナを心の中で称賛する。


 そして、ロックバードがココナに攻撃をしようと狙いを定めた時。


「ここっ!!」


 ココナはウィンドブーツを発動させて宙を蹴り、ロックバードの頭上に身体を持っていく。


「はぁっ!!」


 そして、宙返りをしてロックバードの頭に踵落としを食らわせた。


 ココナはそのまま華麗に地面に着地する。


 ロックバードは落とせはしなかったが、軽い脳震盪を起こしたのか、空をふらふらと飛んでいる。


 これがココナの新しい戦闘スタイルの近接の空中機動だ。


 以前はギフトの影響で、魔法を唱えても一撃で倒せなかったら、逃げるしかなかった。


 それはまずいということで、ココナは自分のギフトについて、ソフィアと共に勉強した。


 そうしたら、ギフトにルールのような物があることに気が付いた。


 1つ目は知っての通り、魔法を唱えると、全ての魔力を使用してしまう。


 2つ目は魔法具のように魔力使用量の上限がある物は上限までしか使用しない。


 3つ目は身体強化を意識してやれば、魔力を全て使用するのとがないこと。


 以上のことから、ココナはソフィアの魔法の練習と一緒に近接戦闘の練習をしていたのだ。


 ウィンドブーツの扱いもその時に練習したものだ。


「ソフィア!」

「うん!リアン、お願いね」

「にゃあ!」


 俺は空を見て、ふらついているロックバードを倒す魔法をソフィアの魔力を使い構築する。


「んっ・・・た、タービュランス!!」


 風の槍がソフィアの手から解き放たれ、ロックバードの胴体を貫いた。


 ロックバードはそのまま地面に頭から落ちた。

 そして、そのまま動かなくなる。


「ソフィア!やったね!」

「うん!ココナが動きを遅くしてくれたお陰だよ。怖くなかったの?」

「怖かったよ。でも、これからはこのスタイルで行くって決めたからね」


 ソフィアとココナはお互いを称賛し合っている。


「・・・・はは、ま、マジか。こんな数秒で倒しちまうんなんて」


 馬を守るために下がっていたグランは、きゃっきゃっと喜んでいるソフィアとココナを見て、呆然としていた。

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