第22話

「はい、お疲れ様でした」


 翌日、ソフィアとココナはクエスト受付のセリカのところに朝一にやって来ていた。


 というのも、ジャネットの個室に行ったのだが、本人が居らず、代わりにメモ書きが残されていた。


 そこには『数日仕事で戻れなくなる』と書かれていたのだ。

 数日の間、空けることはレジスタンスの仕事ではよくあることなので、珍しいことではない。


 だが、ジャネットはメモ書きなんて普段は使わないのだ。


 前に俺がまだ人間だった頃に、メモ書きをして出掛けた際、帰ったら変に心配され、怒られたのだ。


「メモ書きは信用ならないから、顔を付き合わせて言って!」


 俺はそう言われたのだ。


 過去に何かあったのかもしれないが、俺はジャネットに対してはキチンと顔を合わせて報告することが多くなったのだ。


 そのジャネットが自らメモ書きを残した。


 ソフィアとココナはそのことを知らないので、平然としているが、俺は気が気でない。


「2人の報酬はこれね」

「あれ?なんか多くない?」

「ふふっ、ソフィアちゃんに感謝するのね」

「どういうこと?」

「えっと、実はね」


 ソフィアは昨日の帰り道で起こったことをココナに説明した。


「そんなことがあったんだ。ごめんね。何か押し付けたみたいになっちゃって」

「ううん、もし何かあったらオーナー・・・じゃなかった。ディケイル様が何とかしてくれていたみたいだし」


 ソフィアは苦笑いをしながら説明をする。


「あ、そうそう。これも報酬に渡してくれって頼まれたのよ」


 そう言ってセリカは袋を2つ取り出した。


「これは?」

「何かの服みたいよ」

「こ、これって!貰っていいの!」


 ココナは中身を見た瞬間に顔を輝かせた。

 そして、ココナが袋から取り出したのは、昨日まで着ていたウェイトレスの服だ。


「・・・・・・うぅ」


 ソフィアは袋を覗き込むなり、顔を赤くした。


(・・・・・・なるほどな)


 ソフィアの袋にも同じウェイトレスの服も入っていた。


「恥ずかしい」


 ソフィアの袋にはもう1つ、あるものが入っていた。


(いいカモフラージュを考えたな)


 ウェイトレスの服の中に、ソフィアが昨日忘れていったブラジャーも入っていたのだ。


 つまり、ディケイルに見られたというわけだ。


 ソフィアは耳まで顔を赤くして、袋に顔を埋めた。


「ソフィア、どうしたの?」

「・・・・・・なんでもない」


 とてもだが、そうは見えない。


 ココナとセリカは不思議そうな顔をして、ソフィアを眺めていた。



 ☆     ☆     ☆



(ソフィア・ミールか)


 ディケイルは学校で保管してある生徒の一覧からソフィアの名前を探す。


(・・・・・・出身地や経歴は特に目立ったところは無い)


 ディケイルはこの学校で判明したソフィアの情報も確認していく。


(そうか。『障壁貫通』のギフトの可能性が高いのか。だから昨日の)


 ソフィアは気が付いていなかったようだが、昨日の4人組の犯罪グループは2人が魔法障壁を展開していたのだ。


 なのに、ソフィアの魔法はそれを無視して、相手にダメージを与えていた。


 ディケイルはそれが気になっていたのだ。


(『障壁貫通』か。これだけでも十分な能力ではある。しかし、それだけではない。あの場で、あの状況での的確な魔法の選択。それも素晴らしかった)


 ディケイルはソフィアの魔法は相手を殺すのではなく、無力化する魔法の選択をしているように思えたのだ。


 なぜなら、『障壁貫通』という破格のギフトがあるのであれば、心臓とかに殺傷能力が少し高めの魔法で相手を殺すことも出来るのだから。


(それにクエストの方も僅か2ヶ月でCランクに昇格している)


 この学校に来てからのソフィアの成長は目まぐるしいところが多い。


 ディケイルが最初に聞いていたソフィアの情報は『弱い魔法しか使えない』『ギフトがない』の2つだった。

 なので、ソフィアには悪いが、あまり期待はしていなかったのだ。


 それが今ではどうだ。


 ギフトは『障壁貫通』という破格の能力。


 本人は相手を考慮し、多種多様の魔法の選択が出来るレベルにまでなっている。


「・・・これからどこまで成長するか楽しみだな」


 ディケイルはソフィアの将来のことを考えると、楽しみでしょうがなくなった。



 ☆     ☆     ☆



「今日はどうしよっか?練習?」

「ん~・・・練習するのもいいけど」


 ソフィアとココナはジャネットがいないということで、町の喫茶店に昼食を食べに来ていた。


「・・・やっぱり昨日のこと考えてるの?」

「うん。私も拉致されそうになったから、あの子とか気になっちゃって・・・」


 ソフィアとココナの視線の先には、この喫茶店で働いている少女の姿があった。


「でも昨日ソフィアがやっつけたんでしょ?」

「・・・うん」

「ならこの事件は解決だよね?」

「だといいんだけど」


 恐らくソフィアの懸念しているのは、あれで犯人が全員いたかどうかだろう。


 犯人が全員でなかったら、また拉致事件が発生してしまう。


「にゃあ」

「ん、これ欲しいの」


 俺はソフィアの気が紛れるように、今ソフィアが食べているサンドイッチをせがんだ。


「リアン、ココナのも食べない?」


 そこにココナも俺にサンドイッチの欠片を差し出してきた。


「・・・・・・・」

「なんで無視するのぉ!!」


 ココナは油断すると嫌ってほどモフモフしてくるのだ。

 だから俺は近付かないようにしている。


「・・・・・・・」


 いつもならソフィアもここで会話に混じってくることが多いのだが、今はぼーっとして、何処か遠くを眺めている。


「・・・ねぇ、ソフィア。まだ何かあるでしょ」


 ココナはソフィアがまだ何か隠していると踏んだようだ。


「・・・私ね。昨日犯人と向かい合った時、怖くて動けなかったの。レジスタンスを目指しているのに可笑しいよね」


 ソフィアは苦笑いをしながら心境を告げた。


(ソフィアは昨日初めて魔法犯罪の犯人と向き合ったのだ。それは無理はない)


 俺がそんなことを思っていると。


「そんなことないよ!」

「ココナ・・・」


 ココナは周りの目を気にすること無く、立ち上がってソフィアの言葉を否定した。


「そんなことない。だってソフィアは犯人を倒したもん!」

「でもリアンがいなかったら」

「リアンはソフィアの使い魔でしょ?パートナーでしょ?だったらおかしいところなんてどこにもないよ」

「・・・・・・・・」


(確かにココナの言うとおりだ。だけどここは・・・)


「お客様、申し訳ありませんが、もう少しお静かにお願い出来ますか?」

「「し、失礼しました」」


(ここは喫茶店だ。こうなるよな)


 ソフィアとココナは残りのサンドイッチを食べて、逃げるように店を後にした。



 ☆     ☆     ☆



「・・・ココナ、ありがとね」

「え?なにが?」

「私、変に弱気になってたかもしれない」


 ソフィアは犯人と面と向かい、恐怖してしまった。


 それが迷いとして出ていたのだ。


「ココナ、今から平原に行かない?」

「練習?」

「うん」

「もちろんいいよ。それじゃあ、早く行こっか!」

「え?は、走るの!?」


 ココナはいきなり走り出した。

 ソフィアと俺は慌ててココナを追い掛ける。


「ほら!はやく!!」

「わ、待って!私、運動は得意じゃ」


 ココナはソフィアの言葉を聞かずにどんどん先に行ってしまうのだった。

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