第21話

「お前達、帰り道には気を付けろ」

「「お疲れ様でした」」


 無事に仕事も終わり、ディケイルに見送られて店を後にする俺達。


「ソフィア、また明日ね」

「うん、お疲れ様」


 そして、ココナと別れ、2人で帰路に着く俺とソフィア。


 辺りは暗くなっており、人通りも少ない。


「・・・・・・にゃ」

「んっ・・・どうしたの?リアン」


 俺がいきなり尻尾を服の中に入れてきたので、疑問に思ったのだろう。

 だが、答えはすぐ目の前にやって来ていた。


「な、なんですか?あなた達は」


 4人の柄の悪そうな男がソフィアの行く道を塞ぐように立っていた。


「確かに素材は良さそうだな」

「だろ?これなら高く付くぜ」


 男達はソフィアを無視して、何か話し始めた。


「取り敢えずひん剥いてみるか」

「だな。エアロカッター!」

「っ!?」


 ソフィアはいきなりのことで対処出来ずにエアロカッターを喰らってしまう。


「・・・・・・え?」

「ははっ!流石!良い腕してんな!」


 エアロカッターは風の刃を飛ばす殺傷能力が高い魔法だ。

 しかし、ソフィアは痛みを感じていない。


 ソフィアが視線を落とすと、スカートが足元に落ちていた。


「可愛らしい下着だな」

「上は剥かないのか?」

「上は魔法だと難しいんっすよ」


 ソフィアはスカートを持ち上げ、隠しながら後退る。

 俺はソフィアの顔を見てみると、恐怖を感じているのか、少し震えている。

 目にもいつものような力強さはない。


「にゃあ!」

「っ!?り、リアン」


 俺はソフィアの目を見る。

 ソフィアも俺の目を見返してくる。


 そして、恐怖に彩られていた蒼と翠の瞳は、次第に力を取り戻してくる。


「おいおい、そんなに離れんなよ。それに隠したら見えねぇだろうが」


 1人の男が脅すように大声を出しながら、ソフィアに迫ってくる。


「・・・ん、エアロブラスト!」

「なっ!?」


 ソフィアは男に手を触れられそうになった時に魔法を唱えた。


 エアロブラストは近くに暴風を起こす魔法だ。

 本来なら掌から放つことが多いが、今回は相手に悟られぬように、ソフィアは自分の目の前に暴風を起こした。


 男はいきなりの魔法に対処出来ずに吹き飛ばされてしまい、壁に衝突をして気を失った。


「こ、この雌ガキが!!」

「ストーンウォール!」

「がはっ」


 仲間をやられたことに腹を立て、ソフィアに向かって来た男は、ソフィアのストーンウォールによる石の壁に阻まれ、自らの勢いで大きな音を発ててぶつかった。


 そして、2人目の男もその場に崩れてしまう。


「調子乗んなよ!!トルネード!!」


 トルネードは竜巻を作り出す上級魔法だ。

 ソフィアの目の前に大きな竜巻が現れ、徐々に迫ってくる。


「んっ・・・アイスコフィン!!」

「なっ!?」


 アイスコフィンは水属性に分類される魔法だが、難度は純粋な水属性の魔法より高い。

 理由は水属性の魔力だけでなく、風属性の魔力も併用して使用しているからだ。


 アイスコフィンは対象を凍らす魔法。


 ソフィアはトルネードで発生した竜巻自体を凍らせたのだ。


「ん・・・っ!、アイスクラッシュ!」

「ぐっ!」


 そして、その凍った竜巻を砕き、相手の男に向かって、雨のように降らせた。

 近くにいたもう1人の男も巻き沿いを喰らい、傷を負っていく。


 そして、氷の雨が収まる頃には、ソフィア以外、立っている者は誰もいなくなっていた。


「見事だ。ソフィア・ミール」

「え?オーナーさん」


 振り返るとディケイルが立っていた。


「よくトルネードに対する手段をすぐに思い付いたな」

「い、いえ」


 トルネードは風属性の中でも難しい魔法に入り、対処も難しい魔法であるのだ。


「本当は私がこいつらを仕留めようとしていたのだがな」

「え?この人達を知っているんですか?」

「無論だ。何故なら今回の依頼はこいつらを炙り出す囮のための依頼なのだからな」

「え、えぇぇ!?」「にゃっ!?」


 俺とソフィアはまさかの事実に驚いた。

 俺もただの変態親父の気まぐれと思っていたからな。


「最近、バイトの女の子が消えるという事件が相次いでいてな。流石に見て見ぬ振りはどうかと思ってな。私がこの作戦を思い付いたのだ」

「そ、それなら最初に言ってもらえれば」

「言ってしまうと、警戒してウェイトレスの仕事に支障が出るだろう?」

「そ、それはそうかもしれませんけど」


 確かに警戒ばかりしていたら、犯人に怪しまれてしまう。


「それに最初に確認したではないか。何か問題に巻き込まれても、自分で対処してもらうためだと」

「あ」

「そういうことだ。だが、本当はここまではやってもらう予定はなかったがな。それに良いものも見れた」

「良いもの?」

「いや、何でもない」


(このエロ親父め)


 誤魔化すように、ディケイルは伸びている男4人を見た。


「こいつらは預からさせてもらうぞ」

「は、はい!」

「それと今回の手柄を考慮して、報酬の方も上乗せしておこう。明日、セリカのところに行ってくれ」

「ありがとうございます」

「では機会があればまた会おう」


 ディケイルは片腕に2人ずつ担いで、暗闇に消えていった。


「・・・・・・・・・」


 流石に片腕2人ずつ持つ後ろ姿は少し異様な姿だった。


「リアン、ありがとね」

「にゃあ」

「それじゃあ、帰ろっか」

「にゃあ!」


 俺達も帰路に着くことにする。


「へぶっ」

「にゃ!?」


 だが、歩き出した途端に、ソフィアは顔から転んでしまう。

 ソフィアの手はスカートを離しており、足に絡み付いて、そのまま転倒してしまったのだ。


「いたたた・・・スカートのこと忘れてた。あれ?いつ手を離したんだろう?まさか・・・見られた?」


 ソフィアは起き上がって、思案顔したと思ったら顔を赤くした。


「ま、まぁ、でも、大丈夫・・・だよね?」


 ソフィアはスカートを押さえながら帰路に着いた。



 ☆     ☆     ☆



「さてと・・・・ん?あ、あれ?」


 ソフィアは部屋に入るなり、自分の胸を揉んで、慌て始めた。


「にゃ?」

「・・・ない。リアン!無いよ!」


 何が無いのか言ってくれないとこちらもわからない。


「私着け忘れた!?」


 ソフィアはおもむろに上着をはだけた。

 本来ならブラジャーがあるはずなのだが、何も着けてない。

 つまりノーブラだ。


「・・・・・・にゃあ」


 俺はいきなり視界に飛び込んできた胸を見てしまう。


「あ、明日取りに行った方がいいよね?で、でも見られたりしたら・・・~っ!!」


 ソフィアは今から取りに行こうか迷ったが、結局次の日に取りに行くことに決めた。


「う~・・・気になって眠れないよぉ」


 この日、ソフィアはいつもより長い夜を過ごすことになった。

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