第12話

 それからしばらくの間、俺達はウッドラビットを探して、森の中を探索をしているのだが。


「うぅ~・・・見つからないよ!!」

「いないね~」


 2人はあまり歩き慣れない森の探索で疲れが溜まってきていた。

 それに、ウッドラビットもまだ1匹も見つからない。


(・・・俺も集中して探してみるか)


 ウッドラビットは体が茶色で、体の模様も木と似ていたりするので、見逃している可能性もある。


(それに猫の方がこういった感覚が優れている。音と気配に感覚を集中させれば)


 俺はまだソフィアの肩に乗らせてもらっているので、周りの音や気配に集中ができる。


 とくん・・・とくん・・・とくん・・・


 それなのに何故かソフィアの心音が一番聞こえてくる。


(こ、これは取り敢えず意識しないで、周りの音に・・・っ!?)


「にゃあ」

「ん?どうしたの?」


 俺は気が付かれないように静かにソフィアの耳元で鳴いた。


「にゃ」

「ふぁっ!?」


 俺はソフィア首の後ろから服の中に尻尾を入れた。


「ちょっとリアン、やる時は舐めてって言ったよね」

「にゃう」


(いや、流石にやる度にキスをしろって嫌なんだけど)


「んっ」


 俺が魔力制御を行うと、ソフィアは少し艶声を出す。


「どうしたの?ソフィア」

「な、なんでもないよ」

「そう?顔が赤いような気がするけど」

「気のせい気のせい」

「ふーん・・・」

「そ、それより・・・ん、見つけたかもしれない」

「ほ、ほんと!?」

「静かに。今から魔法使うから」


 ソフィアは俺が魔力制御した魔法名を探る。

 といっても初歩的な魔法だからすぐにわかるはずだ。


「エアロショット」


 ソフィアは俺が魔力制御した魔法を唱えると、少し離れた場所にある木の根部分を空気の弾丸が貫いた。

 すると、木の根から血が噴き出してきた。


「木から血がっ!?」

「あんなところに隠れていたんだね」


 首筋を狙ったので、今の一撃で倒せたはずだ。


 ソフィアは自分の撃った魔法なのに、血が噴き出したところを見て驚いていた。

 ココナは納得して、死に絶えたウッドラビットに近付いていく。


「ソフィア、早く血抜きやろ」

「ち、ちぬき?」

「そそ!じゃないと毛皮が痛んじゃうからね」


 ココナは手慣れた感じでウッドラビットの血抜きをやっていく。


「て、手慣れてるんだね」

「実家では狩猟して暮らしてたからこれぐらいはね」

「へ、へぇー」


 ソフィアはあまり近付こうとせずに、血抜きが終わるのを待った。


「よし!終わり!次の行こ!!」


 ココナは持ってきていた大きめな革袋にウッドラビットを入れて言った。


「リアン、またよろしくね」

「にゃあ!」


 こうして、俺が探して、ソフィアが魔法で仕留めて(魔力制御は俺)、ココナが処理をするという役割になった。


 そして小一時間程で、ウッドラビットを5羽仕留めることに成功した。


 ただ、その度に俺はソフィアから、ちゃんと舐めるようにと軽く怒られていた。


 いや、だから出来ないって。



 ☆     ☆     ☆



「大漁だね!」

「う、うん。そうだね」


 先頭を歩くココナは凄く満足そうな顔だ。


 今回のクエストには十分な量ということで、馬車のある場所に戻る最中だ。

 今から戻るなら町には夕方前には到着するだろう。


「・・・ソフィア、さっきから歩き方おかしいけどどうしたの?」

「え?そ、そうかな?」

「うん、何か内腿すり合わせてるような感じがするし・・・トイレ?」

「違うよ!?な、なんでもないから気にしないで」

「そう?ならいいけど」


 俺は今、ソフィアの後ろから付いていくように歩いている。


(この匂いって・・・女の子のあの匂いか?っていうか俺が原因か?)


 猫になり鼻も良くなっているので、ソフィアの後ろから付いていくと、嫌でもその匂いを嗅いでしまう。


 それに、ソフィアの白いパンツも俺の位置からはちらちら見えているのだが、少しお漏らしをしたような跡も見えていた。


「うぅ、冷たい。次から替えのパンツ持ってこよう」


 そんなこんなで歩いていると、森が開けてきた。

 そして、馬車の方を見ると、グランと呼ばれていた御者の人達が数人、魔獣と応戦していた。


「ソフィア!あれ!」

「うん!助けに行こう!」

「にゃう!」


 俺もすぐにソフィアの肩に乗る。


 そして、2人は魔獣の方へと向かった。


「くそ!なんでこんなやつがいやがるんだ!」


 グランは大剣を持ち、他の御者の人達と一緒に2mを越える熊の魔獣グリズリーと応戦していた。


 実は御者は魔獣と戦うことがあるため、結構強かったりする。

 中には魔法も使う者もいるが、基本的には肉弾戦で戦う者が多い。


 だが、今回の相手グリズリーは強固な毛に地面も穿つことができる剛腕を持っている。


「リアン!」

「にゃあ!」


 ソフィアの掛け声のタイミングで俺は魔力制御を行う。


「んっ・・・えと・・・アクアショット!」


 ソフィアの撃ったアクアショットはグリズリーの顔に命中し、視界を潰すと共に後退りをさせた。


「大丈夫ですか!?」

「嬢ちゃん達か!危険だから下がってろ!学生の相手にはきつすぎる!!」


 確かにグリズリーは普通の学生が戦うにはきつい相手だ。


 だけど、ココナの魔法は威力が高いし、ソフィアに限っては俺が魔力制御すれば高威力高難度魔法も難なく撃てる。


「いや!戦うよ!!エアロショット!!」


 ココナが声を張り上げ気合いを入れて魔法を唱えた。


「・・・あれ?」


 だが、ウッドボアを倒した時みたいなエアロハンマーのような威力ではなく、エアロショットの弱体化したような魔法が撃ち出されただけだった。


 それではグリズリーには痒いぐらいのダメージしか与えられない。


「ココナ!下がって!!」

「くそ!!」


 唖然とするココナに向かってグリズリーが走り出したのだ。


 今から俺が魔力制御しても、ソフィアを挟む分、間に合わない。


「おらっ!!!」


 グランがココナの前に出て、大剣でグリズリーの一撃を受け止める。

 ココナはその隙に下がることができた。


「てめぇら!今だ!やれ!!」


 他の御者達はグランが押さえつけている内に攻撃する戦法を取った。


 しかし


「っ!?かってぇ!」

「グランさん!こいつ硬すぎだ!!」


 グリズリーの毛は硬く刃を通すことはなかった。


「ぐあっ!」


 グランはグリズリーに力負けして、吹き飛ばされてしまう。


「リアン!お願い!」

「にゃあ!!」


 グリズリーの意識はグランに向いている。

 それに、グランを警戒しているのか動きが遅い。

 今なら決められる。


 そう思い、俺はソフィアの魔力制御を行う。


「んんっ!!」


 ソフィアはビクッと身体を震わせた。

 それでも集中を途切らせることなく魔力の流れを感じようと頑張るソフィア。


「んあっ・・・た、タービュランス!!」


 ソフィアは魔法を唱えた。

 ソフィアの伸ばした右手に空気が渦巻くように纏い、グリズリーの頭を狙って一直線に空気の槍が放たれた。


 タービュランスは風属性の中の上ぐらいの魔法だ。

 一点に威力を集中させる魔法の中では高位の方に入る魔法でもある。

 学生の、それも1年生が使える魔法では決してない。


 空気の槍は見事にグリズリーの頭を穿ち、一瞬で絶命させる。


「・・・は?」


 目の前にいたグランはいきなりグリズリーの頭が吹っ飛ばすソフィアの魔法を見て、呆気に取られていた。

 それはココナ以外の者も同様だった。


「ふぅ、おじさん、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ。擦り傷しかねぇからよ。それにしても嬢ちゃん、強いんだな」

「え、えへへ」


 普段誉められることに経験がないのか、ソフィアは本当に嬉しそうににやけてしまう。


 その後、周りの御者からもソフィアを讃える称賛の声が上がった。


「・・・・・・・っち!」


 だが、馬車の中から事の一部始終を見ていたある男子生徒はつまらなそうに舌打ちをしていた。


 俺達は御者達に感謝されながら、フォルティスの町に向けて馬車で出発することにする。


 帰りの馬車ではココナは笑っていたが、なんで魔法が発動しなかったのか、気にしているようだった。


 ソフィアも座った時に変な声を出し、顔を真っ赤にして、両手でスカートの裾をずっと握りしめていた。


 俺は来るときみたいにソフィアの膝の上に乗ったのだが、撫でてはくれなかった。

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