第11話
「ソフィア。これはどうかな?」
「それは少し冒険し過ぎのような気がするよ」
「そうかな?これぐらい冒険した方が刺激が強いと思ったんだけど」
ソフィアの反対意見に不服そうなココナ。
「ん~、初めてなんだから近くにしない?ほら、これ報酬もいいし」
俺達は学内にあるクエスト板と呼ばれるクエストを受注する場所に来ていた。
ここでは学生証を使い、クエストを受注することが出来る。
クエストには難易度が設定されており、一番低いEランクからAランクのクエストが存在する。
公にはされていないが、Aランクの上にSランクがあったりもする。
ソフィアとココナは今回初めてのクエストということで、一番下のEランクしか受けることしか出来ない。
それでも一般人からすれば、無理難題なクエストの内容が多い。
「確かに近いね。これなら半日あればいけるかな?」
「ううん。この途中のフォルティス平原は馬車が通ってるみたいだから、フォルティスの森までは30分もあれば着くみたいだよ」
ソフィア達が受けようとしているクエストはフォルティスの森に住むウッドラビットと呼ばれる危険度の低い魔獣の持つ毛皮の納品だ。
フォルティスの森は町から東に行った場所にある。
フォルティスの森は町から平原を挟んで、北側から東側を迂回して南側まで広がる広大な森だ。
なので、フォルティスの町は広大な森に囲まれた場所にあると言ってもいい。
森の中は街道も幾つか伸びているが、未開の場所もまだある。
因みに、ウッドラビットは危険度が低いといっても、こちらから攻撃すれば襲ってくる魔獣である。
それに奴らは体は小さいが、驚異的な跳躍力とそれを可能にしている脚力を生かした蹴りは強い。
(ま、ウッドラビットは隠れるのが上手いから、報酬も高めなんだけどな)
ウッドラビットは警戒心が強く、草木に擬態するため、近場の場所でもクエストの報酬は高くなるのだ。
「じゃあ、これにしよっか」
「そうだね」
そんなこと露知らずにソフィアとココナは依頼書をカウンターに持っていき、クエスト手続きをする。
これは他のパーティーと同じクエストを受けないようにするためだ。
学生証は魔法技術が組み込まれているので、クエストの内容も受付をすれば自動的に記述されていく。
他にも倒した魔獣の種類や数も自動的に記録されるという優れものだ。
そして、そのデータを基に受けられるクエストのランクが設定されるようになっているのだ。
受付を終えたソフィア達は町の入り口に向かう。
そこには幾つか馬車が待機しており、色々な人達が利用していた。
その中に
「あれじゃない?」
「ん~・・・みたいだね」
目的の場所に行く馬車の集団を見つけた。
「おう、嬢ちゃん達、森に行くのかい?」
「はい。お願い出来ますか?」
「制服ってことは学生さんか。見ない顔だし初めてみたいだからタダで乗せてやるよ」
「本当ですか!」
「ありかとう!おじさん!」
「おうよ!さぁ!乗ってくれ!」
御者のおじさんに促され、ソフィア達は馬車に乗り込む。
俺はソフィアに抱っこされて一緒に乗らされる。
そして、椅子に座ると、俺はソフィアの膝の上に乗せられた。
「移動中は立たないようにな」
「「はーい」」
返事をすると、馬車はゆっくりと動き出した。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
移動中、俺はソフィアの膝の上で眠たくなってしまい、目を閉じる。
ソフィアの太腿は暖かいしいい匂いがする。
それにソフィアが喉を優しく撫でてくれるのが気持ち良い。
眠るには持ってこいの場所なのだ。
それにしても、さっきから2人の会話が無いな。
ソフィアはともかく、ココナはいつも煩いくらいに元気なのだが。
「ココナ、大丈夫?」
「・・・・・・ダメかも」
俺は目を開けてココナを見てみると、気持ち悪そうにしていた。
(酔ったのか?)
「ココナ、外の景色を見た方がいいって聞いたことあるよ」
「・・・うん、そーする」
ココナは馬車に付いている小窓から頭を出した。
(おい、パンツ見えてるぞ)
「あ、頭を出すのは危ないよ?それにスカートなんだから、前に乗り出したらパンツが見えちゃうよ?」
「・・・・・・・ぐぅ」
「え、寝ちゃったの?」
(気持ち悪かったんじゃないのか?)
ココナは結局、フォルティスの森に到着するまでその体勢だった。
☆ ☆ ☆
「回復回復!!」
「うぅ、お尻痛い」
寝て元気になったココナと、俺を膝の上に乗せていて動けなかったソフィアで、見事に明暗が別れた。
「嬢ちゃん達、暗くなる前には町に戻るからそのつもりでいてくれ。俺はここで待ってるからよ」
「はい、ありがとうございます」
他にも馬車が来ており、俺達を送ってくれた御者のおじさんは団欒している他の御者達の集まりへと歩いていった。
「お!グランさん!可愛い子乗せてきたなぁ、おい」
「羨ましいぜ」
「まぁな。礼儀も正しくて良い嬢ちゃん達だ」
「ウチなんか不機嫌そうな男子学生2人だぞ」
「そいつはご苦労なこったな」
御者はそのまま話の方へと入っていった。
「ソフィア、行こっか」
「あまり早く行かないでよ」
「任せてって!」
「不安だなぁ」
俺もソフィアは全く同じ感想を持った。
「あ、それと火属性の魔法は使わないでよ。森林火災になるから」
「わかってるって」
「ほんとかなぁ」
そして、そのまま俺はソフィアの後ろに付きながら、森の中を歩く。
「む!何かあそこで動いた!ファイア」
「ストップ!!」
ソフィアは慌ててココナの口を押さえた。ココナのやつ、注意した初っぱなから火属性魔法を使おうとしたぞ。
「何すんの!」
「火属性は使わないの!」
「・・・・・・そうだった。ごめん」
「もう・・・」
ソフィアは呆れながらも、ココナが見つけた動いたという方向に注意を向ける。
「・・・何もいなそうだけど?」
「あれ?さっき動いたと思ったんだけど」
「っ!?にゃあ!!」
「リアン?」
俺は持ち前の猫の鋭敏な感覚で、左方向から何かの気配が近付いてくるのを察知した。
ソフィアは俺が鳴いて警戒している方向に注視する。
数秒後、ガサガサと草木が擦れる音が聞こえ始める。
「ココナ!」
「うん!」
ソフィアとココナはいつでも魔法を撃てるように構えた。
俺もソフィアの肩に飛び乗った。
「っ!エアロショット!」
ココナが相手の姿も見えていないのに、エアロショットを唱えた。
次の瞬間、茂みからウッドボアという猪の魔獣が突進してきた。
だが、ウッドボアはこちらに来る前に、風の壁に叩き付けられたように、草木を分けながら飛ばされていった。
「えっと、エアロショットなの?」
「にゃう(違う)」
「ココナ流エアロショットだよ」
(いや、どう見てもエアロショットではない。威力や範囲を見るとエアロハンマーの魔法に近い気がするぞ)
俺は今の魔法をそう分析した。
(それにしても、ココナのギフトは何なんだ?魔法の昇華?いや、魔法を唱えなくても発動する時もあるから違うか。俺のギフト『暴走』と近いような気がする)
「ちょ、ちょっと、リアン」
俺はココナを見て考え事をしてると、ソフィアがくすくすと笑いながら呼んできた。
「にゃ?」
「ふふっ、そこはくすぐったいよぉ」
俺は考え事をしている内に尻尾がソフィアの首筋辺りをふらつかせていたようだ。
「にゃう」
俺は尻尾を首筋から離し、別の場所に持っていく。
「・・・・・・いいなぁ」
そんな俺達をココナは羨ましそうに見ているのだった。
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