第10話
「くそっ!くそっ!くそっ!くそぉっ!!」
模擬戦での試合が終わり、治療を受け、試合の結果を聞いた後、ヘンリー・ヘイグはフォルティスの町の廃屋が多くある区画に来ていた。
ここはかつて工場があった場所だったが、ある事件をきっかけに工場は潰れ、使われなくなってしまったのだ。
普段は立ち入り禁止にされているが、入ろうと思えば、誰でも入れるようになっていた。
ヘンリー・ヘイグはこの場所で今日負けてしまったことに腹を立て、工場の頑丈な壁に魔法を撃ち付けて憂さ晴らしをしていた。
「良い感情・・・いえ、良い魔法ですね」
誰もいないはずの場所に知らない声が響いた。
「誰だ?おめぇ」
ヘンリー・ヘイグは誰もいないはずの工場の奥から来た黒いローブを着た男に警戒をする。
「いえ、本日の模擬戦も見ていましたが、貴方の魔法は大変優れていると見受けまして」
「っは!今俺は機嫌が悪い。八つ当たりにされるのが嫌ならとっとと失せろ」
模擬戦で負けたところを見られていたと考えると、再び怒りが混み上がってくる。
「私が貴方を強く出来る。といってもですか?」
「・・・・・・どういうことだ?」
「それは我々の組織に入ってくれたら、教えましょう。どうですか?」
「・・・・・・・本当に強くなれるのか?」
「ええ。それはお約束致しましょう」
「・・・・・・・わかった。なら入ってやる」
「そうですか。それならこちらに来て下さい。今から案内しますので」
「案内?」
「ええ。我々『
遠くのコロシアムからはまだ大きな歓声が響いていた。
☆ ☆ ☆
ソフィアと俺は模擬戦の最終試合を見ようと、ココナと一緒に観客席にいた。
「ミールさん」
「あ、ジャネット先生」
そこにジャネットがやってきた。
「ミールさん、魔法ちゃんと使えてたじゃない。凄かったわ」
「あ、ありがとうございます」
「それに最後のあれは高難度の魔法よね?いつの間にあんなのまで」
「それは・・・」
ソフィアは正直に言おうか悩んでしまう。
(ま、使い魔の俺がやったと言っても信じてはもらえないだろうがな)
「ミールさんは勉強は出来るから覚えていたのかしら?」
「は、はい!そんなところです」
確かに勉強で覚えていた魔法だったので、それで頷くことにする。
「流石ね。これからも一緒頑張りましょ」
「は、はい!」
ソフィアは嬉しそうに笑った。
「あら?ミールさん、スカートの端のところ焦げてない?」
「え?あ、本当ですね」
ソフィアは自分が見やすいようにスカートの裾を持ち上げてしまう。
「ミールさん!見えちゃうから!」
「あっ!」
ソフィアは顔を赤くして、慌ててスカートの裾を下ろした。
「た、たぶん、試合の時にファイアボールが掠めたので、その時になったんだと思います」
「そう・・・なのね。でも・・・」
ジャネットは思案顔をする。
(確か制服には簡易ではあるけど、対物理と対魔法の魔法障壁が組み込まれているはずよね?ファイアボールが掠めたぐらいなら防ぐはずなんだげど・・・)
ジャネットの考えていることは俺にもわかる。
俺も試合後に気付いてから気になっていることだ。
「ねぇ、ココナは?」
「貴方はまだまだよ。あれは完全暴走してたじゃない。下手をしたら相手は死んでいたわ」
「で、でも加減は出来たし」
「あれは紐の付いていない暴れ馬を一瞬だけ大人しくさせたようなものよ」
「そ、そんなぁ」
手厳しいジャネットの言葉に落胆するココナ。
「こ、ココナも頑張ってたよ!うん!」
「・・・・・・・そうだよね!よーし!まだまだガンバるぞ!!」
ソフィアの言葉でいきなり元気になるココナは、雄叫びのような大きな声をあげると、そのまま何処かへと走り去って行った。
「ミールさん、あまりユースフィアさんを調子付けないようにしてくれないかしら。あの子は興奮すると魔法が暴発する恐れがあるから」
「そんなこと・・・」
ソフィアが否定しようとしたら、遠くで何かが爆発するような音がした。
(僅かだけどココナの声もする。何かやらかしたな)
「・・・えと、ジャネット先生、ごめんなさい」
「今後は気を付けてね。私はユースフィアさんの様子を見に行ってくるわね」
ジャネットはそう言うと離れていこうとするが、振り返り一言声を掛けてきた。
「あ、そうそう。今日はもう帰宅してもいいからね」
「わかりました」
そう言い残すと、音がした方に小走りで向かっていった。
「じゃあリアン。この試合を見たら帰ろっか」
「にゃあ」
最終試合はまぁ少しは出来るレベルの試合だった。
☆ ☆ ☆
「リアン」
「にゃ?」
今は家のお風呂だ。
ソフィアと俺の鳴き声が風呂場に反響する。
「リアンって魔力制御出来るの?」
こくん
俺は頷いて答える。
「でもなんで私の魔力も制御できるの?」
「にゃあ?」
それを説明するのは、言葉が話せない今の俺だと難しい。
だから取り敢えず『わからない』という意味を込めて鳴いておいた。
「そうだよね・・・。でもなんでかな?リアンが魔力制御してくれた時、変な感じになったの」
「にゃ?」
「ん~と・・・ね」
ソフィアはいきなり顔を赤らめる。
「気持ちい・・・じゃない・・くすぐったいっていうか・・・そう!くすぐったかったの!!」
ソフィアは自分に言い聞かすように大声をあげる。
「だ、だからね。今度からは合図?みたいのが欲しいの。その・・・心の準備が必要なの。わかるかな?」
「にゃあ」
俺は一応頷きながら答える。
(だけど、猫の俺がどうやってその合図とやらをすればいいんだ?鳴けばいいのか?)
俺はどうやって合図をするか考えていると、ソフィアが提案してきた。
「そうだ!私の顔や手とか足とか、どこでもいいからリアンが私の身体を舐めてくれればそれを合図ってことにするよ」
「にゃあ・・・にゃっ!?(なるほ・・・なんだと!?)」
(つまり俺が魔力制御する度にソフィアの身体の何処かにキスをしろということか!?)
「じゃあリアン。これからはそれでよろしくね」
「にゃにゃにゃにゃあ!(よろしくじゃない!)」
ソフィアは俺の気も知らないで、可愛く笑いかけてきた。
「それじゃあそろそろ出よっか」
「にゃ!?(ちょっ!?)」
いつもソフィアが浴槽から出る時はそっぽを向くようにしているのだが、今はまだソフィアの目の前で向き合ったままだ。
「あ、ちょっ!?んんぅ!」
俺が慌てて向きを変えようとしたのがまずかったのか、俺はバランスを崩し、ソフィアの胸の先端にしゃぶり付くような体勢になってしまう。
「もう、今は舐めないでいいよ。リアン」
「・・・・・・・にゃあ」
俺はソフィアに捕まり、抱き抱えられるように風呂場を一緒に出る。
「舐めるのは魔力制御をしてくれる時にお願いね」
「にゃにゃにゃ!?(決定なのか!?)」
俺の意思とは関係無く、決まってしまった。
(もしこれで人間に戻れた時、俺はどうしたらいいんだ?バレたら今の状況も不味いというのに)
俺の後ろでは何も知らないソフィアが、パンツを穿くところだった。
(・・・・・・どうすんだ?これ)
パンツ一枚の姿のソフィアに身体を拭かれながら、俺は今後のことを考えていた。
こうして、俺はソフィアの魔力制御を行う時は、ソフィアの身体の何処かにキスをすることになってしまうのだった。
いや、まだやるとは決定してないよな、うん。
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