初めての戦闘

第8話

 ソフィアの学校生活が始まって半月程経った。


 俺が見る限り、ソフィアは優秀な方に入る生徒だ。

 真面目で優しく、勉学も出来る。

 魔法に関してはまだ制御が出来ていないので、相変わらずだが。


「ソフィアってさ、魔力の制御ってどうやってるの?」

「ん~、自分の中の魔力を魔法に合わせて出している感じだけど・・・。ココナは?」

「ココナはね、こうモヤーっとした自分をズガーンって感じに出してる感じかな」

「そ、そうなんだ」


 ココナの説明は俺でもよく分からない。

 因みに、ソフィアの魔力制御の説明は一般的に教えている通りのことだ。


 因みに2人はこの半月の間にお互いの名前を呼ぶぐらいに仲良くなっていた。


 ココナは魔法名を言っていないのに魔法が発動する節があるので、俺は近くにいる時は常に警戒をしている。


(『願望』みたいなギフトなら、自分の願いが何でも叶うだろうから違うし・・・わからない)


 原因はギフトなのだろうが、俺も詳細や発動条件がわからなかったりする。


「そういえばさ!今日の午後ってあれだよね!」

「あれって決闘方式の模擬戦のこと?」

「そうそう!」


 今は昼休みで、今年1年生の生徒は初の模擬戦だ。


 この学校は魔法犯罪を取り締まるレジスタンスに入るための教育機関だ。

 そのため、決闘方式で対人戦闘を慣れていく必要がある。

 模擬戦はそのための授業の一貫だ。


「楽しみだなぁ!」

「私は憂鬱だよ」


 はりきるココナに対して、ソフィアはため息をついた。


「なんで?」

「だって私、全然魔法が成長してないんだもん。絶対勝てないよぉ」


 確かにソフィアの魔力制御は要領を掴めていないらしく、まだまだ甘い。


「でもおもいっきりやれば勝てるって!」

「そうかなぁ・・・」


 やはり自信が無さげだ。


 でも確か、模擬戦は使い魔も一緒に戦えるはずだ。


「でもリアンも一緒に出るんでしょ?」

「うん・・・でもリアンは戦えないし」


 確かに俺が前に出たら一瞬でやられてしまうだろう。

 いや、学生相手ならば囮ぐらいにはなれるか?


「そういえばあれはどうなったの?」

「あれ?」

「ほら!朝起きたらパンツが濡れてるってやつ!」

「わわっ!大きな声で言わないで!」


 ソフィアは顔を赤くしてココナの口を塞ぐ。


 そういえば最近、朝の着替えの時にソフィアは自分のパンツを見ることが多かったな。


「っぷは!で、どうなったの?」


 ココナはソフィアの手をどかして改めて問いかける。


「ま、毎日じゃないけど、2日に1回ぐらい・・・かな」

「そうなんだ」


 ソフィアは頬を赤く染めながら小声で答える。


(2日に1回って俺がソフィアの寝ている時にやっているソフィアの魔力制御の練習と同じ間隔だな)


「原因はわからないの?」

「わかってたら困らないよぉ」


 2人はそうやってお喋りをしていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


「さ、コロシアムにいこ!」

「はぁ、嫌だなぁ」


 元気いっぱいのココナに肩を落とすソフィアという両極端な反応をする2人は、学校の敷地内にあるコロシアムに向かっていった。



 ☆     ☆     ☆



 コロシアムに到着すると、既に人がいっぱい集まっており、あちこちから話し声が聞こえてくる。


「あ!エントリーしている人はあっちだって!」

「はぁ・・・」


 因みにこの模擬戦はエントリー式だったりする。

 参加しない人は観戦者として戦い方を学ぶ。

 エントリーする人は実際に戦って戦い方を学ぶ。

 ソフィアは観戦しようとしていたのだが、ココナが勝手にエントリーをしてしまったのだ。

 それで仕方なく模擬戦に参加することになったのだ。


 ソフィア達は選手の控え室に入ると、ソフィアに視線が集まった。


「おい、あの弱い悪魔の子がいるぞ」

「あいつに当たれば確実に勝てるな」

「そうね。この前の魔法なんてアクアショットなのにただのおもちゃの水鉄砲みたいな魔法だったもの」


 ソフィアを見た途端にひそひそ話が聞こえてくる。


「・・・・・・・」

「あまり気にしちゃダメだよ」

「・・・うん」


 ソフィアが練習場で魔法を使う度にからかわれるところを散々見てきた。

 そして、その夜はいつも布団の中で泣いているところも。

 だから。


(今日はソフィアを勝たせてやる。これまでの練習通りに魔力制御をやれば、成長次第ではソフィアの魔法はなるはずだ)


 ただ、加減をしないと相手を殺しかけない。

 それだけは注意だ。


「それでは、名前を呼ばれた選手から入場してください。まずはココナ・ユースフィア選手!」

「わわ!初戦だ!」

「頑張ってね。ココナ」


 いきなりココナの出番のようだ。


「もう1人はエイブラム・アルバーン選手!」

「うげ、いきなり暴走女かよ」

「あははは!災難だな!」


 相手のアルバーン選手は心底嫌な顔をし、その友人はバカにしたように笑っていた。


(あれはわざと聞こえるように言ってるな)


 その会話を聞いたココナはというと。


「あははは!暴走女なんて呼ばれてる人がいるんだね」

「「お前だよ!!」」

「ココナなの!?」


 ココナは自分のことと思っていなかったようだ。

 バカにしていた男子生徒2人がココナにツッコミを入れる。

 そして、そのままコロシアムの試合会場へと歩いていった。


「あ、あははは・・・ココナ、頑張ってね」


 ソフィアは自分が巻き込まれないように、後ろに下がりながら応援をしていた。


「リアン、上の観客席へ見に行こう」

「にゃあ(おう)」


(さて、俺もココナの試合を見るとするか)


 そして、第1試合目が始まるのだった。



 ☆     ☆     ☆



 コロシアムの観戦席には殆どの生徒が押し掛けていた。


 この日の午後は授業はどの学年もなく、戦いを見るのが勉強ということで、試合を観戦しにきているのだ。


 中には生徒の家族や知人も混ざっている。


「す、すごいね。リアン」


 ソフィアは会場の熱気に少し押され気味だ。


 そんな中、試合が始まった。


 先手は相手のアルバーン選手のファイアボールだ。

 大きさも威力も1年生にしては練度は高い方だろう。


 そのファイアボールに対して、ココナはあたふたしながら何かを叫んだ。


 すると、ココナの目の前の地面から水の壁が噴き出した。


 アクアウォールだ。

 あれは水の壁を作る防御魔法だ。

 ファイアボールはアクアウォールに当たり掻き消されてしまう。


「え?あ!ちょっ、ちょっと!!」


 遠く離れているのにココナの声がここまで聞こえてきた。


 何事かと思い見てみると、高くまで上がったアクアウォールの水が、アルバーン選手に向けて倒れ始めたのだ。


「お、おい!!嘘だろ!?」


 アルバーン選手は大声でそう叫ぶと、巨大な波に飲み込まれてしまう。


「もういい!もういいよ!!」


 ココナが叫ぶと水は消えていき、ぴくぴくと動くアルバーン選手が地面に倒れていた。


『しょ、勝者!ココナ・ユースフィア選手!!』


 審判が叫ぶように宣言すると、会場は拍手と歓声に包み込まれた。


「い、一瞬だったね」

「にゃあ・・・」


 ココナのことがわかるかと思ったが、いつも通りな感じで、結局何もわからなかった。

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