第6話

 俺達はジャネットの案内で練習場に来ていた。


 既に今日入った新入生達も魔法の実演を行っているようで、数人ずつ自分の魔法を皆に見せていた。


「ファイアボール!」


 1人の男子生徒は魔法を唱えて、手の先から50cm程の火球を、10m程離れて置かれている的を狙い、撃ち出した。


 火球は的に掠めるように通り過ぎ、軌道を少し変えて、後ろの建物の壁に衝突し、小さな爆発を起こした。


「あれ?壁が・・・」


 ソフィアが声を洩らす。


 的は掠めただけだが、一部が焦げていた。

 それに対し、直撃した壁は焦げ跡一つ残っていなかった。


「この建物・・・いえ、正確にはこの学校全体の建物の壁には対物理・対魔法障壁が常に張り巡らされているのよ。なので、あのように魔法が直撃しても傷一つ付けることは出来ないわ」


 ジャネットがソフィア達に説明をした。


(ジャネットはその障壁もろとも俺の部屋を半壊させたがな)


 俺は嫌みのように心の中で思った。


 この学校に掛けられている障壁はある程度までの威力なら防ぐことが出来る。

 しかし、許容以上の威力では破壊されてしまう。

 ま、許容と言っても高難度の魔法ぐらいの威力を出せないと、障壁は破られることはない。なので、生徒が破壊するなんてことは滅多にない。


「おい見ろよ。悪魔の子だ」

「うわ、まだいたのか」


 心無い新入生達がソフィアに聞こえるように噂をする。


「うぅ・・・」

「ミールさん、あんなの気にしないでいいのよ。それでは最初はユースフィアさんから実演してもらうわ。あの的を得意な魔法で狙って。破壊しても構わないから」

「わかりました!えっと・・・」


 ココナは元気に返事をして、的を見る。


「あの的を破壊・・・い、いきます!ファイアボール!」


 先程の男子生徒と同じファイアボールを唱えるココナ。

 しかし、ココナの手からは火球は出てこない。


「あはは!やっぱり悪魔の子と一緒に連れていかれた奴だから、魔法も下手なんだな!」


 ココナの失敗の魔法を見ていた男子生徒の1人は嘲笑していた。


「・・・・・・あ、まず」

「あ?・・・っ!?」


 ココナが声を漏らすと同時に、的を中心に大爆発を起こした。


(凄いな。今のはジャネットが俺の部屋を壊したときに使った高難度魔法の一つ、フレアバーストだ。ジャネットより威力は劣るが、学生が使える魔法ではない)


「・・・・・・・・」

「先生、ごめんなさい。少し壁が焦げてしまったみたいで」


 ココナは壁を焦がしたことを謝った。

 隣では先程、ココナのことをバカにしていた生徒が唖然として立っていた。

 周りを見てみると、他の生徒も同様のようだ。


「い、いえ、大丈夫よ。それよりファイアボールはどうしたのかしら?」

「それが・・・その」

「あ、なるほど。もしかしてこれが」

「えと・・・はい。お察しの通りです」


(そうか。これがココナのギフトの影響の1つなんだな。何のギフトかはわからないが)


「わかったわ。今後の課題の一つとして、この制御をしていくことにしましょう。私も何かわかったら教えるから」

「よろしくお願いします」


 確かにこれはしっかりと制御しないと、色々と大変そうだ。


「それでは次はミールさん、お願いします」

「は、はい。リアン、少し離れててね」


 ソフィアは俺にそう言うと、的を狙うように手を伸ばす。


「すぅー・・・はぁー・・・・」


 ソフィアは深呼吸をして、心を落ち着かせているようだ。

 そして、魔力の制御を始める。


(お風呂でも思っていたけど、かなりの魔力量だ)


 本来は他人の身体の内側の魔力を感じることなんて出来ない。

 だが、使い魔契約をしたことと、お風呂での肌の密着により、俺はソフィアの体内で練られる魔力の量が多少離れていてもわかるようになっていた。


「ファイアボール!」


 すると、拳と同じぐらいの小さな火球が的を目掛けて、ひょろひょろと飛んで行った。


(練った魔力と出力した魔力の量が違いすぎる。やはりあれが原因か)


 初めて見たソフィアの魔法は、俺の目には歪に見えた。

 というより、魔力の制御がしっかり出来ていない。


 魔力の制御は人によって感覚が違うため、教えることは難しい。

 普通は使っている内に自然と上達するものだ。


 だが、ソフィアの場合は魔力気管が特殊過ぎて、理解出来ていないまま制御をやってしまっているのだ。


 その結果があの弱い魔法だ。


「ふ、ふはははは!悪魔の子は魔法も出来ねぇんだな!」

「くくく、さっきのやつと違いすぎんだろ!」


 周りから笑いが起きている中、ソフィアの放った火球は的を外れ、練習場の壁に当たり、壁を


「うぅ・・・」


 ソフィアは皆から指を差して笑われ、涙目になっていた。


「・・・ミールさん、周りの声は・・ってどこに行くの!」


 ジャネットがソフィアに気にしないでように言っている最中に突然走り出した。

 俺はソフィアの後をすぐに追い始める。


「あ、逃げやがった!」

「あははは!」


 からかって遊んでいる男子生徒はソフィアの後ろ姿にもバカにするような声を投げ掛けていた。


「もう。ユースフィアさん、ちょっと」

「ココナも探すよ」

「え?」

「先生はミールさんを探しに行くんでしょ?それならココナも手伝う」

「・・・・・・わかったわ。一緒にお願いするわ」

「ジャネット先生」


 ココナとジャネットがソフィアを探しに行こうとすると、先生らしき人が声を掛けてきた。


「なんでしょうか?」

「うちのクラスの生徒がすみません」

「・・・それなら、最初から止めに入ったら良かったのではないでしょうか。ユースフィアさん、行きますよ」

「はい!」


 ココナとユースフィアもすぐにソフィアのことを探し始めたのだった。


 それでも、悪魔の子と言う声と笑い声は、練習場の中をしばらくの間、響き続けた。

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