第5話
「さて、ここがこれからの貴方達2人の教室の代わりになる部屋よ」
講堂での騒ぎの後、ジャネットに連れられて来られたのは、本館の端の方にあるジャネットに与えられた個室だった。
「あの・・・ここにリアン・ユーベル様がいるのですか?」
「え?いないわよ」
ジャネットは抱えていたココナを備え付けのソファーに寝かせながら答える。
「え?でも私はリアン・ユーベル様の・・・」
「ええ。知っているわ。っと立ったままというのもあれね。そこに座ってくれるかしら」
「は、はい。おいで、リアン」
ジャネットは説明するためにソフィアを椅子に座らせる。
そして、黒猫の俺を当たり前のように膝の上に乗せる。
「リアン?リアンってその子の名前?」
「は、はい」
「ふーん・・・、あの失踪したリアンと違って可愛い顔してるわね」
「失踪っ!?」
まぁ、俺はここにいるからな。それに人間の俺は可愛くなくて悪かったな。
「失踪ってどういうことですか!?」
ソフィアは驚いて立ち上がってしまう。
俺は咄嗟に床に着地をして、難を逃れた。
「文字通りの意味よ。数日前に私がリアンの研究室に行った時にはもういなかったわ」
「そ、そんな・・・」
ソフィアはがっくりと肩を落として、力が抜けたように椅子に座り直す。
「一応リアンの補佐をやっていた身としては、あの引きこもりがこんなに長時間研究室を出ることはないはずなんだけど」
(引きこもりで悪かったな。実際そうだったけども)
「では私はどうしたら・・・」
ソフィアは今後のことを考えて不安になる。
ソフィアは最強と云われる魔法使いリアン・ユーベルに憧れ、魔法を教わりたくてここに来たのだから。
「それは大丈夫よ。私が貴方達の専任教師になることになったから」
「え!ジャネット様、いえ、ジャネット先生がですか!?」
「ま、リアンの代わりにね。それに学長から貴方達2人のことも聞いているわ。望んでいた先生ではないかもしれないけど、頑張るから宜しくしてもらうと助かるわ」
「は、はい!よろしくお願いします」
「ん、ん~・・・」
挨拶をしていると、ココナが目を覚ました。
上体を起こし、俺を見てきた。
「ユースフィアさん、目が覚めましたか?」
「・・・・・・・・」
ジャネットがココナに声を掛けるも、ココナの視線は俺に向き続けた。
(なんだ?この子。俺をずっと見ているような・・・)
「ユースフィアさん?」
「・・・・・こだ」
「え?」
「ねこさんだー!!」
「にゃう!?」
ジャネットの声が聞こえていないのか、返事をせずにココナが机の下で待機していた俺に飛び付いてきた。
「あ」
ソフィアの驚く声が聞こえた気がしたが、俺はそれどころではない。
「すごい!本物!」
「にゃ、にゃう!!」
「あ!待て!!」
俺は何とか抜け出す。そして、両手を拡げて待っていたソフィアの胸に飛び込んだ。
なんかこのココナって子の俊敏性からは猫でも逃げれない気がしたのだ。
「う~・・・ねこさん」
嫌われたと思ったのか、ココナって子は悲しそうな顔をする。
「ご、ごめんなさい。この子は私の使い魔なので」
「使い魔ですって?」
ソフィアが説明すると、ジャネットが使い魔って単語に食い付いてきた。
ジャネットは手元にある資料をパラパラと捲り、目を通し始めた。
「ミールさん、事前の資料では使い魔はいないとのことみたいだけど」
「え、あ、はい。この子は数日前に契約したばかりなので」
「数日前・・・」
ジャネットは静かに驚いていた。
(資料によるとミールさんがこのフォルティスの町に到着したのは1週間程前。使い魔契約は相手からの信頼を得ないと出来ないはず。そんな短い期間で信頼を得て契約出来たっていうの?)
「・・・わかりました。では校内では使い魔を出来る限り離さないように。問題が起きる場合もあるから」
「わかりました」
ってことはソフィアから離れるなってことか。
1人で自分の研究室に向かうのは危険ってことか。
ちょっと厄介だな。
「わかった?リアン。私から離れちゃ駄目だからね」
「にゃう」
「へぇ、結構聞き分けがいいのね。その子」
ソフィアの言葉に頷く俺を見て、感心するジャネット。
「ユースフィアさん、もし体調が大丈夫なら、初めに貴方達2人の実力を知りたいから、練習場で魔法を見せてほしいのだけれど大丈夫かしら?」
「・・・・・・ねこさん」
「ユースフィアさん?」
「へ?あ、はい!大丈夫!!です!!」
慌てて元気良く返事をするココナ。
「ミールさんも大丈夫ですか?」
「は、はい、大丈夫です」
ソフィアは魔法を見せてほしいと言われ、緊張し始める。
(確か全属性使えるけど、全部が弱いって言ってたっけな)
俺はお風呂で話したことを思い出しつつ、ソフィアの緊張している理由に当たりを付けた。
因みにあれ以来、お風呂には毎日のようにソフィアと一緒に入っている。
というか、ソフィアが俺とお風呂で話すことを気に入ったようだ。
俺は話せないから頷くしかないが、ソフィアの何気ない話を聞かされるようになっていた。
もちろん、出来る限りはソフィアの裸を見ないようにはしている。
それに、ソフィアがなぜ弱い魔法しか使えないのか、何回も直接肌を重ねることで、なんとなくだが、予想が出来ていた。
(それにソフィアのおっぱいは本当にふかふかしてて気持ちいいし・・・って、これは魔法と関係ないか)
俺は今も背中に当たっているソフィアの胸から意識を逸らす。
その後、俺達はジャネットの案内で、練習場に向かうのだった。
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