第七話 メリーさんのひつじ
テーマ:『メリーさんのひつじ』について雑談
第七話 1
「『メリーさんのひつじ』って歌があるじゃろ? メリーさんのひつじ、ひつじ、ひつじってやつ」
「あるからなんだ?」
「英語の歌詞と日本語の歌詞、ニュアンスが違うんだよな。しかも英語の歌詞が割とバラバラ。なんでだろう」
「有名な子供向けの歌だから、歌詞が丸くなっていくのは当たり前だろう。グリム童話とディズニーを比べて文句言ってもしようがないだろ」
「うーむ」
「『メリーさん』が実在した人物だってのは知ってるか?」
「は? 架空の人物じゃないのかよ」
「この歌って、Mary Elizabeth Sawyerが実際に学校に子羊を連れて来たっていう事件がもとになってて、上級生がそのことをテーマにして詩に書いた。数年後に著名な女性詩人が『子供たちの詩』という本を出したんだが、そこに何故かその詩が入っていて、しかも改変してあったんだ。パクリってのはいつの時代もあるんだな。出版時はオリジナルの詩を書いた上級生は亡くなっていて、文句も言えなかったらしい」
「えらい早死にしたな」
「17歳だったそうだよ」
「天才は早死にするっていうしな。俺も気をつけないと」
「お前は気にする必要ないだろ。ただ、それもバイアスの一つだとは思うが」
「うるせえよ。その子羊事件の時ってメリーさんはいくつだったんだ?」
「9歳か10歳」
「メリーちゃんじゃないか。日本語詞でメリーちゃんが泣いて終わるってのは後味悪いよな」
「英語詩では先生が追い払ったけど外でじっと待ってたらしいな。それで生徒たちが、なんであの子羊はメリーちゃんのことがあんなに好きなんだろう? って騒いでいたら先生が、みんなも判ってると思うけどメリーちゃんもあの子羊が大好きだからだよ、って言って終わる」
「何それ。エモいじゃん」
「俺もこっちが好きだな。wikipediaに出てる歌詞は5番以降が違うんだけど、スタンダードはこっちじゃないかなと思う。長いからといって3番でスパッと切る場合もあるし、よくわからんね」
「羊も子供だったんだよな」
「題が“Mary Had a Little Lamb”だからな。生後一年以内なのは確実、まあ2,3ヶ月だろうね。この子羊がメリーちゃんを大好きになるのにはちゃんとした理由があるんだ」
「え? 聞きたい」
「メリーちゃんの父親は農場をやってて、メリーちゃんはその手伝いをしてた。ある日、生まれたばかりの病弱な子羊を見つけた。産んだ羊もその子には関心がなく、メリーちゃんの父親は経験からその子がすぐに死んでしまうだろうと考えた。しかしメリーちゃんは一生懸命看病したんだな」
「ふーん」
「父親の予想に反して子羊は元気になった。飼うことを父親に許してもらい、自分でミルクを与えて世話をした。歩き回れるようになったときは、メリーちゃんが呼ぶとどこにでもついて行くようになった、と」
「ええ話や」
「4歳の時に家族で飼ってた牛に角で突かれて死ぬんだけどな。子供も3頭作ったそうだし、まあ普通じゃね?」
「そういう背景を考えると、メリーちゃんは芯の強い性格に思えるな。先生に怒られたくらいで泣かないんじゃないか」
「訳詞の人は背景までは知らなかっただろうから。ネットのおかげで色々な情報が手に入る時代さ」
「いいのか悪いのか」
「使い方だよ。見方を変えれば、個人の外部記憶でもあるわけだ。昔SFで見た世界がここにあるんだぞ。ワクワクしないか?」
「イカレSF野郎め」
「さて、帰るか」
* 資料 *
Wikipedia メリーさんのひつじ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%E3
%81%95%E3%82%93%E3%81%AE%E3%81%B2%E3%81%A4%E3%81%98
The True Story Behind “Mary Had a Little Lamb”
https://modernfarmer.com/2017/12/true-story-behind-mary-little-lamb/
メリーさんの羊:実際の出来事から生まれたアメリカの童謡
https://www.worldfolksong.com/kids/song/mary.htm
Uta-net:メリーさんのひつじ
https://www.uta-net.com/song/13969/
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