第三話 夕食にはナポリタンを
テーマ:コピペ・恐怖のナポリタン
夕食にはナポリタンを 1
「うーん、うーん」
放課後、
「どうした松任谷、便秘か」
「
「ネットで昔からあるコピペだろ。答えは出ない、で決着したんじゃなかったか。俺はあんまり好きじゃないが、リドル・ストーリーってやつはこの世にたくさんあるぜよ」
「そりゃそうだけどよ、なんか悔しいじゃん。なんとかオチをつけようと考えてたんだ」
「そんなところが広まった要因なんだろうな」
「そういうお前はさ、この話の解釈を考えたことあるのか?」
「あるよ」
「あるんかい」
「どうせ証明
「ちょうどいい、俺が納得できるか語ってみろよ」
「メンドクサイなー、なんで今頃そんなこと聞くんだよ。明日にしろ」
「やっぱりできないんだろー。やーいやーい」
「小学生か!! じゃあ、まず全文を引用してみるぞ」
* *
ある日、私は森に迷ってしまった。
夜になりお腹も減ってきた。
そんな中、一軒のお店を見つけた。
「ここはとあるレストラン」
変な名前の店だ。
私は人気メニューの「ナポリタン」を注文する。
数分後、ナポリタンがくる。私は食べる。
・・・なんか変だ。しょっぱい。変にしょっぱい。頭が痛い。
私は苦情を言った。
店長:「すいません作り直します。御代も結構です。」
数分後、ナポリタンがくる。私は食べる。今度は平気みたいだ。
私は店をでる。
しばらくして、私は気づいてしまった・・・
ここはとあるレストラン・・・
人気メニューは・・・ナポリタン・・・
* *
「さて、この話の要点を整理してみよう。
①『ここはとあるレストラン』という奇妙な名前の理由。
②最初に出てきた料理は何故しょっぱかったのか。
③最後に『私』が気づいたのは何か。
の三点に絞れるな」
「うん、まあ異論はない」
「森の中、まあ日本で森といえばほとんど山の中と同義だが――」
「ちょっと待て。どうして日本だとわかるんだ。外国の話かもしれないじゃないか」
「ナポリタンが人気メニューだからさ。パスタを汁気を飛ばすまで炒めるのは日本くらいのもんだよ。そこに迷い込んで一件のレストランを見つける。この筋立てはある有名な話を想起させるよな?」
「宮沢賢治の『注文の多い料理店』だな。そんなのはとっくに指摘されているぞ」
「うん、だからさ。結論から言ってしまうと、この話は『注文の多い料理店の後日譚』なんじゃないかってこと」
「ほう。まず聞こうか」
「①の理由。『注文の多い料理店』では山猫たちは死んだとか殺されたとかいう記述はないんだ。言葉までしゃべる、ほとんど妖怪レベルの山猫たちだからな。逃げ延びた可能性が高い。失敗を苦い経験として、もう一回くらいチャレンジしていても不思議じゃない」
「まあ――あり得るな」
「ただ、紳士の二人も逃がしてしまっているわけで――山猫軒という名前はもう使えないだろう。大いに吹聴されているのは間違いないから、看板を見ただけでピンと来て逃げられてしまう。名前を変える必要があったんだ」
「普通の名前で良かったのに」
「『ここはとあるレストラン』とすれば、後日話題に出たとしても話し手が名前をぼかしているのだろう、と聞き手は思うわな」
「カモフラージュみたいな感じか」
「そういうこと」
「逆に『そういう変な名前の店がある』って話題になるような気もするが」
「……。で、前回は手口がいかにも稚拙すぎた」
「スルーしやがった。まあ、あの手口は間抜けなやり方だと子分にもぼやかれるほどだったからな。塩やクリームを自分で塗らせたりしちゃ――アホでも気づく」
「お前にアホといわれちゃ立つ瀬も座る瀬もなかろうが――そういうことだ」
「どういうことだよ」
「新しい手口を考えたんだよ。もっとおいしく食べる方法を」
「……わからん」
「料理でもローストチキンとかは鶏の中に詰め物をするだろ? クリームを塗るのさえ面倒くさがる山猫たちだ、獲物が自分で詰め物をしてくれれば楽だ――そう思ったんじゃないか。そしてそれが③につながってくる」
「③の『私』が気づいたことというのは――」
「自分が『注文の多い料理店』と同じく料理として食べられる運命だということさ。今回は人間に化けたり、割と手の込んだことをしてる。店を出たら知らないうちにまた店内にいたとか、そんな感じじゃないのかな。前回と違って助けはこなかったようだし」
「『人気メニューはナポリタン』ってのは、山猫たちにとっての人気メニューってことか!」
「詰め物を何にするかでだいぶもめたんじゃないか? 知らんけど。俺は帰るぞ」
俺はカバンをかついで松任谷に言った。
「まて相楽、まだ②が解決してないぞ。なんであんなにしょっぱい料理を出す必要があったんだ?」
「なあ、考えてもみろ。お前は肉を料理するとき――下味もつけずに焼くのかよ?」
終
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