第一話 4

「それは――さすがに冗談だよな?」

「まさか。十分に本気だぜ」

 俺は昼休みに調べたことを話した。

「LLエレクトリックは画期的な新商品を発表する予定だった。犯人の目的はその情報だ。平たく言えば、産業スパイだな」

「なんでそれがバラバラにつながるんだ」

「そう急ぐな、順番に話すから。犯人はバイトか派遣という形で工場の内部に入り込んだ。最初からそれが目的だったのか、内部に入れるから話を持ちかけられたのか、それはわからないが」

「犯人が社員という可能性は?」

「なくはないけど、すぐに会社を辞めれば目立つし、残っててもスパイ行為が発覚したら裁判沙汰になるぞ。今の監視カメラは小さくなっていて、一見してわからないほどだし。割に合うかな?」

「ふーむ」

「しかし、バイトや派遣の立場では肝心の情報管理室に入ることができない。近くをうろうろしているところを工場長に見つかった」

「お前こんなところで何してるんだ、ってことになるよな」

「口論になって、思いがけず殺してしまった」

「――ん? ちょっと待て、まだだぞ」

「その時点において、犯人に〈魔〉が差した。!」

「おいおい」

「異常な状況に思考が硬直するんだな。まあ殺人犯の思考なんて知りようがないが」

「お前何人か殺してるんじゃないだろうな」

「今のところ殺したいのは一人だけだが」

「その時は刑務所に差し入れに行ってやるから、感謝しろよ」

 ――本当に気づいてないのか、ただとぼけてるだけなのか、わからないんだよなー。

 と俺は思った。

「まあ近くの誰も来ないような部屋で死体をバラバラに解体した。それはつまり、死体を部屋に運び込むのに不自然にならないためなんだよ。ダンボールかプラスチックの箱に詰めて、工場なら必ずある手押し台車で運べば怪しまれないだろ?」

「殺人はともかく、解体の現場が別にあるっていうのか? それこそ血が大量に出るから隠しようがないだろう。無理があるぞ」

「だから――血が出ないよう、

「!?」

「汚れは最小限で済む。情報管理室まで手押し台車に死体を乗せて運び、部屋に入った犯人はその中身を床にぶちまけた。そして新商品の情報を盗んで逃げる――というわけだ。物を盗むわけじゃないから盗まれたかどうか判断がつきにくい。しかもバラバラ死体っていうとんでもなく目を引くものがあるからな。気がつかないかもしれない。凍った死体は室温で溶けて血が流れだし、床を汚す。凍らせたなんてわからないだろう」

「しかし、ずいぶん大胆な犯行だ」

自棄やけになってたのかもな。死体を運んだ箱を処分できたかどうか。工場内から見つかるんじゃないかと思ってる」

「そうすると犯人はだいぶ絞られてくるな」

「液化窒素を日常的に使う部署の人だろうな。あれは気体になると体積が何百倍にもなるから、素人が大量に使うと窒息しかねない。解体にあまり苦労していないらしいところは料理の趣味でもあるのか――」

「警察に通報した方がいいのかな」

「ただの仮説だよ。証拠による裏付けがある訳でもないし。警察に任せてほっとけばいいさ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る