第一話 3

「犯人は工場長に恨みを持った内部の人間だと思うね。を受けていたのかもしれないぜ」

 と松任谷は言った。

「バラバラにするほどの恨みって、俺にはちょっと想像つかないけどな」

「しかし推定死亡時間が深夜? にしてもえらくリスキーじゃないか? 多少の権限を持つリーダーなら現場の顔認証の部屋にも入れるはずだ。その場で解体してしまうのは危険だぜ。誰が入ってくるかもわからない」

 と俺は疑問を投げかける。

「だからそういうシフトのこと知ってる内部の犯行なんだよ。人の動きが大体わかってれば、誰もやってこないと確信できる時間帯を狙えるだろ」

「前もって相当準備してたように聞こえるぞ。それだけの計画性があったなら、そもそも工場内で殺すなんて割に合わない方法を選ぶかな。帰宅途中に襲って川にでも流した方がよっぽど見つかりにくいぜ。顔認識錠の問題はどうする」

「前にお前が言ったじゃないか。被害者に開けさせて一緒に入ったんだよ」

「まとめてみよう。犯人と被害者は部屋の外で会い、一緒に部屋に入る。室内で被害者を殺した犯人はそれだけでは飽き足らず、死体をバラバラに損壊する。その後、犯人は逃げる」

「その通り」

「服は?」

「――何だって?」

「殺すだけならともかく、バラバラにしたら大量の血が出るだろう。犯人にも相当量の血が付着してると想定するべきだ。現場にはそんな服は落ちてないらしい。とすると、どこかに血まみれの服がなくちゃならないな」

「えーと、重要な証拠だから警察も発表してないんだろう」

「それがもしあったら、被害者の血と犯人自身の汗や毛髪のDNA鑑定で犯行を確定できる第一級の証拠だぜ。それだけの計画性を持った犯人が残していくとも思えない」

「ちょっと待て。現場は工場だ、着ているのは作業着だろ。私服、または汚れることを想定して予備の作業着を置いてあることだってあるかもしれない。着替えちまえばいいじゃないか」

「着替えを取りにロッカールームまで血だらけの服で行くのか? それとも全裸で? どうもなんだよな。犯人の動きと思考が」

「殺人を犯してバラバラにするようなやつだぜ、行動が一貫してなくて当然の気もするぞ」

「いや、はずなんだ。

「お前の言ってることがわからんな。行動の理由が他人に理解できないならその行動はデタラメに映るはずだろう」

「理解できないとは言ってない。納得できないかもしれないと言ったんだ。例えばな、最近日本でもハロウィンが流行ってるだろ。ジジババからすれば、あんな仮装して外を練り歩くのは奇妙に見えるだろうさ。ハロウィンというものがあるんだと教えてやれば理解はできるだろうが、それをなぜ日本でやらなきゃならんのかという程度に納得はできないかもしれない」

「ああ、犯人には一貫した論理ロジックがあるはずだ、ただそれがまだわかってないから奇妙に見えるだけ――お前の言うに見える、ということか」

「そういうことだ。まあ仮説はあるが」

「ほう」

 松任谷はニヤリと笑って、言った。

「聞かせてもらおうじゃないか」


「これは殺人が目的じゃなくて、に過ぎない――としたら」

「バラバラ殺人が主たる目的じゃない、だって?」

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