噂の酒場
妖艶な美女がいると有名な酒場があった。
客はその女目当てに足繁く通うため、店はかなり潤っているようだ。
世界中を旅している俺はその噂を耳にした以上、行かないという選択肢はなかった。一日の疲れを酒とうまい飯で癒しているのだが、そこに美女が居れば元気百倍間違いない。
目を輝かせて扉をくぐると、店の中は客で溢れかえっていた。
普段なら、ここまでむさくるしい空気が充満しているところなぞさっさと後にして、次の憩いの場を求めているところだったが、今回は目的がある。
人を掻き分け、ステージに近いところを確保することができた。
熱気を帯びた空気が身体に纏わりついているので、ビールを一気に飲み干す。爽やかな炭酸とほろ苦さが喉を潤していく。
程なくして目当ての美女がステージに登場し、店内は更なる熱気に包まれた。魅惑的なボディーと瞳で男どもを虜にしていくのが手に取るようにわかる。音楽に合わせて踊り始める頃には、俺もすっかり心を奪われていた。
歓声とおひねりが飛び交う中、周囲の客から睨まれながらも俺は用を足すために席を外した。そしてそのまま外の空気を吸う。
あの異常な熱気に感心しつつ、元の席に戻ろうとするも他の客が占拠していた。
マスターに文句を言おうとカウンターの奥に入り込むと、異形の髑髏の前で祈りをささげているではないか。
まさかと思って様子を見ていると、例の美女がステージから戻ってきた。
と同時に、モンスターへと変身する。
俺は、腰に携えていた剣を手にして二人に飛びかかろうとしていた。
ショートショート集 山羊のシモン(旧fnro) @fnro
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