精巧な人形

 一生懸命お金を貯めて手に入れることができた。


 冴えない自分にはなかなか現実世界で彼女を作ることは難しく、頼りにしてくれる妹も居ない。

 最近の技術は本当に驚かされる。かなり高価ではあるが妹のような人形が売られているのだ。


 仕事で精神を削られている俺を癒してくれる妹は文句を言うこともない。

 昔付き合った彼女はいつも小言ばかりで疲れてしまい別れを切り出したのを思い出す。


 何かをしてくれるというわけではないのだが、ただそこに居てくれるだけで心が安らいでいるのを実感する。何気ない時間を過ごせることの大切さを噛みしめていた。

 値段は相場よりもかなり高かったのだが、それだけ精巧に作られているからだと納得して買った。欲を言えば家事なんかをこなしてくれるとより嬉しいのだが、多くは望むまい──


 妹が来てから1ヶ月が経った頃だろうか。仕事から帰宅すると何やら違和感を抱くようになった。具体的に何がと問われると困るのだが、どうにもしっくりこないのだ。

 部屋の配置が換わっているわけではないし、妹もいつものところに居る。原因を探しても見つかる気配がなかったので、疲れているのだろうと自分に言い聞かせていた。


 夜──たまたま眠りが浅かったのだろうか、物音で目を覚ましてしまった。

 台所で水を一杯飲もうと思って電気を点けたら、あまりのことに一瞬頭が真っ白になってしまう。部屋の中が荒らされていたのだ。驚きのあまり身動きがとれないでいると妹はこちらに目を向けた。

 目が合ったと思ったら部屋から一目散に逃げ出す。


 呆気にとられること数分。

 製造メーカーに問い合わせをしようと取扱説明書を取り出そうとしたが、見つからない。


  *


 ──逃げ出した妹がぽつり。

「人形に擬態して盗みを働こうと思ったのに、運が悪かった──」

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