第13話 兄妹が死別しました その③



 パチパチパチッ─────。


 一瞬、何の音かわからなかった。


 それが拍手だと気付いたとき、シャルティアと兄の頭の中に、疑念が浮かぶ。


 その主であろう人物が、草の茂みから生えてくるように立つ。


「クシシシッ。まさか避けるなんてなぁ。俺の奇襲食らって生きてるの、お前が初めてだなぁ。クシシシッ」


 歯を擦ったような嗤い方は、不快で狂気に感じる。。二人は男の姿を捉えようとを凝視するが、夜の光が気に遮られていて、影しか見えない。


 それ故、二人は焦りと恐怖に駆られる。



「…けっ!ナイフ投げつけてきた、相手に賞賛されても微塵も嬉しくねえんだよ。嬉しがられたかったら、俺の妹に生まれ直してこいや。あんた、相当頭イカれてるんじゃないのか?」 


「妹なら、ナイフ投げつけられても良いとか言うお前にだけは言われたくねえなぁ。クシシッ」


 兄は頭の思考回路を、最大限に覚醒させる。


 だが、直後。兄の思考が止まる。


 月の光が傾き、男の陰を射した時だった。


「……俺が知ってる人間だったら。そんなにひでぇ見た目はしてねえと思うんだけどよ」


「世間様は広いってことだろぉ」


 男は青年で、質の悪いチリチリの白髪、常に挑発めいた口調だ。


 だが、青年と言うには、言い難い容姿だった。



 一言で言うと、火傷が酷い。 



 右腕は他の肌と見間違えるほど酷い。だが特に、右の頬が一番酷い。


 火傷によって右頬の肉が焼け落ち、歯がむき出しの状態になっており、気味の悪さが倍増する。こんなに若い青年が、一体何があったらこんな容姿になるのか。


 兄は、肩に刺さっていたナイフを抜き、そのまま構える。抜いた傷口からは血が結構な量がでているので、応急処置を施す。


「あんた、何がしたい。何が目的で、こんなことしやがってんだ」


 青年は、一瞬その質問にキョトンとするが、質問の意味を理解した時、クシッと笑って。


「理由……かぁ。あるとすれば、目の前にお前達が居たから」


「とんだサイコキラーだな、てめぇ。名高い医者に見てもらうことをお勧めするぜ。…特に、頭の方をな」


「クシシシッ。ガキのくせに、口だけは達者だなぁ」


「顔もひでぇけど、その右目も胸糞わりぃ」


「クシシシッ。誉めても何もあげねぇぞぉ」


 青年の右目の瞳には、輝きどころか生気もない。火傷の傷を見れば、察するが。


 青年の嗤う時の口元は、まるで三日月のような狂気的な嗤い方だ。


 シャルティアにはキツいなこれ。


 兄は考える。


 どうする。見た目はどこにでもいるような普通の青年。自慢じゃないが、俺ぐらいの力が在れば、手加減しても大人には勝てる。


 だが、何かが引っかかる。


 どこにでもいるような青年。特に、強そうなオーラを纏っているわけでもない。心の中ではいけると思っていても、体が動かない。

 俺の本能が、体全体に警告のサイレンを慣らしているからだ。


 倒すことは、今は考えなくて良い。


 シャルティアを、逃がすことに今俺が出来ることだけを考えろ。


 兄は、青年には聞こえない、小さな声で、服の裾を掴むシャルティアに語り掛けた。


「……シャルティア。今から、王都に向かって全力で走れ。俺が時間を稼ぐ」


 シャルティアは即答した。


「嫌っ」


「バっ!おまっ!この状況がどういうことか解ってんのか!?」


「じゃあ、お兄ちゃんはどうするの?」


 むぐっ。


「シャルティア。頼む。ちょっと、足止めしたら直ぐに、追いかけ『いいねぇ。これこそ、兄妹愛ってやつかぁ?』……ちっ!」


 俺の願いは、青年によって阻まれた。


「互いのことを思い合う、兄妹ぃ。……………クシシシッ………………壊し甲斐があるってなぁ!!」


 兄は、青年に睨みをきかす。そこで、あることに気付いた。


 それは、背中に背負った刀。



 ま、まさか────



「………あんた。あの…”『鈍斬り』ザクス”だな」


「…へぇ、俺のこと知ってんのかぁ」


 ”『鈍斬り』ザクス”。

 本人の性格と異常な殺害方法から付けられた異名だ。しかし、本人についての情報は限りなく少ない。


 解っていることとすれば、老若男女関係なく殺害する、快楽殺人者。

それ以上に酷いのは、その異常なまでの殺害方法だ。被害者に共通する人間の遺体には、鈍くら刀の傷が無数にあった。


 被害者は100は優に超えている。そこまで被害者がいて、名前や特徴だけなど、極めて情報に乏しいのは疑問には思うが、簡単なことだ。




 目標も目撃者も、皆殺しにされた。




「世界中で多額の賞金首になってるやつを知らないわけねぇだろ」


「なんで、解ったか聞きたいところだなぁ」


「…なぁに、簡単なことさ。錆びまくった刀背負った殺人者なんて一人しかいねえだろ。それに、ザクスと思ったら納得できるしな」


「クシシシッ。嫌な納得されたもんだなぁ」


 背中に背負った、鈍くら刀。鞘に納めることなく、刀身をさらけ出している。



「……それで、こんだけ時間やったんだからよぉ。そろそろ、打ち切りだなぁ、クシシシッ。」


「!?……ややこしいこと考えても、性に合わねえ」


 兄は、側にいるシャルティアの頭を撫でる。


「…一気にいかせてもらうぜ!!」


 兄は、ザクスに向かって走り出す。ザクスは、それに反応せず、ただ立ち尽くしているだけだ。


「こんな茂った草の中じゃあ、見つけるのは難しいんじゃねえか?…………お返しだぁ!!」


 兄は、小柄な体を使って草の中を疾走する。



 ヒュンッ



 血の付いたナイフが、ザクスを襲う。が、ザクスは当然のように、顔を少し動かすだけで、避けて見せた。



 ちっ!…だが、まだだ!!



 兄は、わざとザクスの前に姿を晒けだす。そして、ザクスが兄を視界に捕らえたのを確認すると同時に。


「ラスタぁ!!」


 ただの初級魔法のラスタだ。


 と、思うだろ?今は夜。暗闇の中で急に照らされるほど眩しいことはないからな!!


 兄は、ラスタを行使した直後、足を急発達させて、ザクスとの距離を一気に詰める。



 いける!!



 兄は、ナイフがザクスの首を目掛けて襲う。そして、首を欠き斬る……………………はずだった。



 ニマァッ



 ザクスの口が裂けた笑み。その後……



「……ゴフぅ!!?」


 兄は、口から大量の血を吐き出す。



 兄の胴体から、錆びた刀が生えていた。

後書き編集

次でシャルティア編いったんラストです

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