第14話 兄妹が死別しました その④
「クシシシッ………アヒャ!アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
歪んだ口元から、堪え切れなくなった嗤いが溢れ出てくる。
兄は、刀身を握って抜こうとするが、空中で浮いているということもあって、暴れることしかできない。
「グ、グゥ………」
「フゥフゥ……ナイフを投げるとこまでは、上出来だぁ。…そこまではな。そっから先は全くの0点だ」
兄は、ザクスの顔を睨みつける。刀身からは握っている兄の手の血が滴る。
ザクスは兄を睨むように観察する。
ハァッと苛立ったため息をつく。
「…チッ。お前の”鳴き”は詰まんねえなぁ」
「……ゴフゥッ!…うる………せぇ…よ……」
「お兄ちゃん!!!」
ザクスはシャルティアに下から上まで、舐め回すような視線を浴びせると、卑劣な笑みを浮かべる。
「そういやぁ、お前もいたなぁ……クシシシッ」
ザクスは刀を兄の胴体から勢いよく抜く。
兄は、そのまま倒れ込む。
「クシシシッ…兄貴は殺さないでやるよ。コイツは伸び代がある。時に、憎しみは自分の限界以上の力を発揮するしなぁ。それに………」
「……シャル……ティ…ア……にげ…ろ」
「お兄ちゃ───」
「お前の”鳴き”は何色だぁ!!?アヒャヒャヒャ!!!」
ザクスは目をカッと見開いて、シャルティアとの距離を一気に詰める。
シャルティアは恐怖のあまり、目を瞑る。
「キャッ」
「クシシッ!!」
ザクッ
「………おに、い…ちゃ…ん…?」
そこには、シャルティアを覆う形で庇う、兄の姿があった。
だが、兄の胸には刀が生えており、小さな心臓を貫いていた。
「……………………………………」
兄の目は、優しく、愛情に満ち溢れた眼差しでシャルティアを見ていた。
兄は何も応えない。
否、応えないのではなく、応えられない。
兄は大の字で立ったまま、絶命していた。
ザクスは、乱暴に刀を抜く。
それでもなお、立ち尽くしている兄に苛立ち、蹴り倒す。
「チッ。思いつきの計画が台無しじゃねえかよぉ。……クシッ!だが、今までで一番の物見させてもらったぜ。それに関しちゃぁ、感謝するぜぇ、クシシシッ」
ペタペタペタッ
シャルティアは兄の亡骸をペタペタと触る。
嘘だ。お兄ちゃんが死ぬわけ……。
呪いのような言葉が頭中を埋め尽くす。
嘘だ………。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
こんなの…………嘘だ。
その様子を見たザクスは、ニィッと笑みを浮かべて
「お前の兄貴はなぁ、”死んだんだよぉ”!!」
「!!っいやぁぁああああああああああああああああ!!!おにぃちゃぁああああああああん!!!!」
「ああ!!やっぱり!やっばりだぁ!!最初見たときから、お前はいい声で”鳴く”と思ったんだよぉ!!アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
信じたくない。信じたくない。
お兄ちゃんが死んだなんて。
やがて、シャルティアは無表情で何も言葉を発さず、ペタリと座り込むだけだった。
「ハァッハァッ……お前ら兄妹、今までで最高の鳴きだぁ。殺すの勿体ねえくれえだぁ、まぁ殺すけどなぁ」
どうして、お兄ちゃんが死ぬの
「兄貴のほうを生かして、目の前でお前を殺すつもりだったんだけどなぁ…これはこれでいいなぁ、クシッ!」
どうして、私達の仲は壊されたの
「兄貴が戦っている間、お前は何もしていない、今もこうして呆けている。何の力もない、何の力も求めない奴に生かすつもりはねぇからなぁ。…お前は死ね」
全部こいつが悪い。
こいつが、お兄ちゃんを殺した。
こいつが、私達の仲を壊した、引き裂いた。
こいつが…………悪い……。
こいつが、こいつがこいつがこいつがこいつがこいつがこいつがこいつがこいつがこいつがこいつがこいつがこいつが……………こいつが、全部悪い!
「じゃあなぁ。あの世でよろしく逝っとけや」
こいつが!
キッ!とシャルティアは全力でザクスを睨む。
ザクスの刀がシャルティアを襲う。
だが、それより速かったのはシャルティアの掌だ。
「っ!何!?」
「エアレイドぉ!!!」
シャルティアの掌から全力の”風の刃”が放たれる。
ザクスは、目を見開いて驚愕する。
ザクスは至近距離から放たれた魔法を、身を捻ってぎりぎり回避する。
完全に回避したわけではなく、頬から血が滴る。
ザクスは頬から出た血に触れ、出血していることを確認すると。
「クシッ!クシシシッ!こりゃあ、逸材だぜぇ!!」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!ザクスぅ!!」
シャルティアは、風の刃を全力で連続行使する。
「ああ、ああ!その目だ!!復讐心に執着したその目ぇ!計画変更だぁ!!」
ザクスは魔法を華麗な動きで躱す。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!…うぅ…」
シャルティアの掌が止まる。……ユマ切れだ。
ザクスはシャルティアに急接近して、鳩尾を打つ。
「うぅ!!……」
意識が!……まだ、終わってないのに!
「次会うときは、もっと、俺を楽しませてみろぉ。クシシシッ!!」
意識が朦朧とし、視界が暗くなっていく中、ザクスはそう言い残した。
私がいつか、殺してやる。ただでは、殺さない。
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