第8話 コータの魔法は糞でした


--4日目


 午後の大半はコボウの特訓だった。


「次に魔法の特訓に入りたいと思います。厳しくいきますよ」


「はい!先生ー!」


 コータはやる気満々なのだが、意外にもシャルティアの方が熱が入っている。


「コータ君と呼びにくくて、しんどくなってきました」


「そこから厳しくいっちゃうの!?」


 あまりの衝撃発言に、オレは驚きを隠せなかった。数日前から、”コータ君”になったが、呼びにくいのが理由で返られるとは。


「いや、これはシャルティアの照れ隠しか…てことはさりげなく、呼び方のランクアップなのか!?」


「──コ…タコですね」


「何故だろう。凄く不快な呼び名なのに嬉しい自分がいる…Mじゃねえよな!信じたくねえよ、オレ!」


 オレの新しい属性(性癖)が開花したのかと、疑ってしまった。

 確かめなければ。

 そしてオレは、真剣な表情でサーラに向いた。


「サーラ」


「…はい」


 サーラはコータの真剣な表情を見て、なにか大事なことだと察した。


「…オレに、ビンタしてくれ」


「ええ!解ったわ!」


 サーラは迷わず手をあげ、キレイな放物線を描くようにコータの頬をブッた。


 パチーンッ


「おっふ!この容赦なさのビンタに快感!……はっ!オ、オレは…」


 遂に、内なるコータを覚醒させてしまった。

 オレは膝をついて、四つん這いになって落ち込む。

 なにか、別の分野でランクアップした気がするのは気のせいだろうか。


「それでコータどうかしたの?」


「いや、なんでもない。いいビンタだったぜ!」


「えっと…ありがと?」


 喜んでもいいのか解らない反応をするサーラだった。


「美少女にブたれて快感を覚えるとは、とんだタコ野郎ですね」


「あれ、オレに合わせてどんどんS化してる!?」


 最近シャルティアには、驚かされることばかりだ。キャラ的に。

 どれが、本物の彼女なのか判らなくなってくる。


「特訓の時間が勿体ないのでさっさとしますよ、タコ」


「コータはもう、そこについて言及することを諦めたのだった」


「誰に言ってるの?」


 ナレーションのセリフのようなことを吐く。

 なんやかんやで全く前に進まない特訓に進まない。


「シャルティア先生ー!早くやりましょーよー」


「そうですね、特訓の時間は限られてますし。じゃないとタコさんが悪足掻きすら出来なくなってしまいますから」


「後半部分に必要以上の悪口をおっしゃられていたような気がしたのですが、気のせいかな」


「さあ、いつもフルボケていますから」


「今のは明らかに愚痴だったよね!」


 今までのシャルティアはすべて嘘でこれが本物なのだろう。


「あれ、なんかうまくいっていけるか心配になってきた」


 今回の計画すらも揺らいでしまったのではないのか。なにせ、少しでも踏み間違えれば命を失うかもしれないのだから。

 何か話題を振って、これからの接し方を考えた方がいいのかもしれない。

 コータは、屋敷に目覚めてからずっと気になっていたことを告げる。


「あのさ、シャル───」


「雑談が過ぎましたね。特訓を再会します。何か言いましたか、タコ?」


「…いや、なんでもない。本当にタコ呼ばわりされるのか」


 ずっと肌に離さず着けている黄金色のイヤリングのことを聞こうとしたが、聞きそびれてしまった。

 特訓が終わった後にでも聞いてみることにしよう。


「魔法は体内にあるユマを使って行使します」


 そこは大体、想像がついている。


「まず今から、体の中にあるユマを感じ取ってみましょう」


「はい!先生ー!…ってどうやんの?」


 小学校の先生のような説明に、陽気に応えるが感じ取るという部分がイメージがつかない。


「自分の中にあるユマをイメージしてください。魔法は想像力が大切です」


「おう!妄想なら得意だぜ!」


「そこ得意に思うとこ!?」


 なんせ、想像と妄想が紙一重な男なのだから。

 コータは体の中にあるユマを想像(妄想)した。


「オーケー。イメージできたぜ」


「では、手を突きだしユマを掌から排出してみてください」


「唐揚げ唐揚げ唐揚げ唐揚げ唐揚げ唐揚げ唐揚げ───」


 自分の大好物の唐揚げを連想する。


 そうだ。ユマは唐揚げだ。

 唐揚げを手から出せばいいんだ。


「唐揚げ唐揚げ─────。キタ!!」


 何か見えない力のようなものが身体の中心から掌に向かって流れ込んでいく感覚がする。

 そして、それが頂点にまで達した時、流れていた力が一気に放出される。


 ピカッ!!


 掌から、閃光手榴弾並みの光が発光する。

 とても光っているのに眩しくない。それどころか、さっきまでと変わらない向こうの景色すらも見える。

 横目でサーラを見たが、彼女は手で目を覆い、これでもかというほどのリアクションだ。


 その光が消えたのは、1秒ほどの時間だった。

 すると、身体から何かがごっそり抜けたような感覚になり、身体の力が抜けその場で倒れ込んだ。


「あれ、力が入らないや」


「あぁ、眩しぃよぉおー」


 サーラは目を開けられずに、今尚おどおどしている。


 そして、オレの発言に応えたのはシャルティアだった。


「これが光魔法”ラスタ”です。身体に力が入らないのはユマの使ったからでしょう」


「オレのユマってラスタ一発うつだけで倒れるレベルなの!?」


 オレは地面に這い蹲った状態で吐く。


「確かにタコのユマは多くはありません。ただ、ユマの放出量が必要以上だったからでしょう」


「解説ありがとう。ただ、この状態何とかしてくれません?周りから見たら女子に尻ひかれてる男っていう絵図なんですけど!」


「?」 


「なに”そうじゃないんですか?”みたいな顔してんだよ!!」


 コータは在って無いような男のプライドを傷つけられ顔で盛大に憤慨する。


「ユマ切れは少し休んだら治ります。治療も踏まえ、休憩にしましょう」


「解ったからまずこの状態何とかしてくれる!?」


 シャルティアは未だ倒れたままのコータを素通りし、カップに紅茶を入れ、休息に入った。


 やっと目が復帰したサーラに助けてもらったのは、それから10分後のことだ。

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