第7話 コータはコボウをゲットしました



--4日目 午後


 昼の仕事はニヤつきながらもできたが…。


「まさかイリスから『キモいです』て言われるなんて。すごい事言われたもんだぜ。だが悪くない!!」


 オレは遠くの空彼方を見つめ、ガッツポーズをする。

 この時、オレは自分自身にMなのか?と疑ってしまった。


 だが、今のコータにはそれ以上に考えていることがある。


「なんせもうすぐ今日の大本命の”特訓”があるからな」


 今回の特訓で確認したいこと、やりたいことが山ほどある。

 当然、表向きは武器や魔法の特訓をやるつもりだが、裏の方でもやらなくてはならないことがある。


 まあ、特訓だけではないんだけどな。例えば、今からすることとか。


「見られるわけにはいかないからな」


 数少ない特訓の時間を慎重に行わなくてはならない。

 すると、コータの斜め後ろから。


「何を見られたらいけないの?」


「ひぇっ!今軽く心臓止まるところだったよ」


「うふふっ。コータって女の子みたいな声出すのね」


「ま、サーラたん見てると心臓の鼓動が音速超えるからね。イヤんサーラたん、僕を早死にさせる気ー?」


「ごめん、何言ってるのか全く分かんない」


 全く会話にならないいつも通りのやりとりをする。


「で、何を見られて欲しいの?」


「あぁ、そうそうアレだよ……あれ、オレそんなこと言ってないよね」


「冗談よ冗談。ちょっとからかってみただけよ」


「サーラたんがジョークを!?熱でもあるのか!息子が上京するって言い出したときぐらいの驚きだぞ!息子いないけど」


「コータって私をなんだと思ってるんだろ」


 サーラはオレのミューズであり、天使であり、癒しであり、フィアンセであり、妻であり、ジュリエットであり、ってあれ、話が脱線してるような。


「まあ……オレの”全て”だな」


「そのセリフ相応の人間になってから言うのヨ。お前じゃお釣りが返ってくるのヨ」


「うまいこと言うじゃねえか、ツインロリ」


「もう精霊じゃなくなってるのヨ!」


「あ、お前精霊だっけ」


「ムキーーっ!ムカつくのヨ!!」


 リアは身体全体を使って憤慨するが、本心から怒ってはないという事は解る。

 結構、リアとオレはいいコンビなんじゃないかと思った。


「それに男の子には見られたくないものがあるんだよー。グヘヘヘ」


「え………。」


 オレの不適な笑いに少し2人は引き気味だった。

 やらかした。


「ウソウソ、ジョーダンジョーダン」


「じゃあ、なんなの?」


「それはこの後の特訓のお楽しみってことで」


「おサプライズってやつね!」


「そそ、随分とお上品なサプライズだけど、楽しみにしててくれ」


 サーラはワクワクドキドキとした笑顔で頷く。

 サーラの笑顔は無邪気で子供のような笑みだった。 


 それから少し、話をしてからサーラと別れた。


「さてっと、久し振りにいっちょ頑張ってみるか」


 そして、コータも走り出した。


※※※※※※※※※※※※※※※


 爽やかな風に揺らされるバルニアス邸の綺麗な花畑。

 この空間にいると時間の経過さえ疑ってしまう。


「───はぁはぁっ」


 花畑は通り過ぎていった人物が起こした風によって逆方向に揺らされる。

 花たちの揺られる音が大きくなり、まるでその異物に怒りを表しているように思える。


 ──その異物とは、まさしくこの男。

 梶馬康太だ。


「花たちの熱いエールがオレのハートに火をつけるぜ」


 動きやすいように着慣れたジャージを着用している。


「コータ君。バカみたいなこと言わないで早く走ってください。もう遅いと思いますが」


「何気に悪口言われてないかな。オレ」


 華麗な悪口を言った彼女。シャルティアはいつもの使用人服で、花畑を脇にし、片手に紅茶を持ちながら優雅にくつろいでいた。


「ダメよシャルティア、コータもコータなりに頑張ってるんだから。コータ頑張ってー」


「フォローになってないフォローをありがとう!」


 シャルティアの横で一生懸命に応援してくれる天然美少女、サーラだ。

 オレのヒロインだ。 (そう信じたい)


「シャルティア先生ー。いつまで走り込めばいいんですかー。そろそろオレの足が火をあげるよ」


「それはそれでいい攻撃手段になりますね」


「げっ!その手があったか!」


 そう、コータは今特訓の真っ最中なのだ。

 開始から20分程経っているが依然変わらないまま、走り込みなうだ。


「そういえば、イリスの姿が見えないんだが……もしかして、オレの特訓姿を見るのが恥ずかしいとかか!」


「確かにこんなコータ君を見てる方が恥ずかしくなってきますね」


「絶対に良い意味ではないよな!!」


 最近、時間が経つごとにシャルティアからの発言が活発になってきた。

 つい数日前までの事が嘘のようだ。


「イリスは今晩御飯の支度をしています。コータ君の特訓もあることだから、少し早い時間から支度に入ってもらってます」


「それは悪いことをしたな。後で、謝りにいっておくよ」


 本当に屋敷に来てからイリスには頭が上がらない。


「ではそろそろ、本格的に特訓しましょうか」


「よっ!待ってました!!ヒュー、キャーッ」


「…まだ元気が有り余ってるようなので走ってもらいましょうか」


「すいません。テンション上がっちゃっただけなんですよ。あれ、シャルティアさん、天使に見えてきましたよ?」


「まず最初にやることは───。」


「華麗にスルーするシャルティアさんマジイケメン。あ、スルーだけに!」


「「……………………」」


「…で、何やるんだっけ!!?」


 空気ブレイカーのコータは何事も無かったかのように進めようとする。

 そして、その意図を理解したシャルティアは。


「ではまず、コータさんの使っていただく武器を選んでいただきます」


 お前は世界一空気が読める女だぜ。


 シャルティアの背中から大きな箱が出してきた。どうやって隠してたのかは秘密だ。


 中には、剣や短剣、銃や弓、杖など多種多様の武器が詰まっていた。


「剣でも色んな種類があるんだな」


「はい、この中からこれから使っていく武器を選んで下さい」


「オレの相棒が決まるのか……」


 コータは珍しく険しい顔になっていた。


 ファンタジー好きなら誰もが憧れる剣。

 頭や野生の感でクールに射抜く弓。

 少しマニアックだが、鞭や鎌。


 等々、色んな武器を見てみたが、どれも無理だろうもいうのが結論だ。

 剣などどれだけ素振りに戦闘経験を重ねてもたかがしれている。

 弓も授業や部活見学でやったことはあるがセンスのかけらもなかった。

 当然、鞭なんて扱える自信がない、なにより鞭や鎌を使ってるオレの姿を考えると……やっぱ無理だ。


「お困りのようですね」


「そうなんだよなー。いざ決めろって言われてみても、どれにしたらいいかなんて解んないしな」


「じゃあ、コータがビビっときたものでいいんじゃない?」


 確かに、サーラが言っているように、オレ自身がビビっと来たものならもうそれでいいのかもしれない。


「そうと決まれば色んな武器みるしかないな!」


 オレは箱の奥をあさってみた。


「あ……オレこれにするわ」


 オレが取り出したのは一本の棒だ。

 長さは二の腕ぐらいで、野球バットより細く、警棒よりは太い。

 重さもそんなに重くなく、なんと言ってもこのおかしいぐらいのこの手のフィット感。


 まるで違和感がない。


「それは、先代バルニアス当主が趣味で作った棒ですね。当時、一番硬い鉱石を使って造ったそうです。ですが、それから使われることは在りませんでしたので正式な名前などは無いそうですよ」


「説明ありがとう。でもオレ、こいつに一目惚れだわ。ビビっときた!」


「コータが決めたんならそれでいいんじゃない?じゃあ、それプレゼントするわ」


「え!いいのか!?」


「別にいいよー。多分、この棒使うのコータぐらいだろうし」


 少し後半部分が気になったが、それ以上に自分のものになったのがとても嬉しい。


「その棒の簡単な説明をします。」


「待て、シャルティア。棒ではない」


「?…ではなんと?」


「コータ棒ならぬ、”コボウ”だ!」


「……コータの発想力、褒めようがないから困るのよね」


 と、サーラは困った顔で呟く。

 だが、決めたことはもう曲げない。

 少し、ハプニングがあったが結局、”コボウ”と名付ける事にした。


「では、そのボ…コボウの説明をします。まず、このコボウは二の腕程の長さしかありませんが、実はこれは携帯式なんです」


「なななんと!!」


「あ、コータいい反応」


 コータの過剰な反応にサーラが感心する。


 シャルティアは、コボウを素早く振り下げた。すると、さっきまで二の腕程の長さしかなかったコボウが1メートル少し程まで伸びた。


「おお!!すげぇ!」


「この様に、ボ…コボウの長さはここが最大ですが、長さを自由に調整することは可能です」


「ていうことは、短くしたり、長くしたりして戦う事が出来るということね」


「その通りです。サーラ様」


 確かに、戦闘中に武器が伸縮しながら戦えるということは、大きな利点かもしれない。


「ではせっかくコータ君の物になったんですから、《主器契約》を結びましょう」


「しゅき……なんだって?」


「《主器契約》です」


 今まで聞いたことのない単語だが、興味が出てきた。


「誰でもわかるように、噛み砕きまくって説明してくれ」


「《主器契約》とは、武器とその武器を使う主との契約です。他にも利点がありますが、大まかに言うと、武器の独占化ですね」


「?すまん、よくわからん」


 オレの横で説明を聞いていたサーラが前に出てきた。


「私が説明するわ。まあつまり、契約を結ぶとその持ち主だけの者になるの」


「ほほう、では持ち主以外の異物が触れられないことになってるのか」


「そうなの、主以外の人が触れるとその人のユマを吸収しちゃうの」


「え、すごい便利じゃん。これで盗まれる心配はねえな」


「コボウを盗む人なんているのかが疑問ですが」


 すると、今までサーラの肩で黙り込んでいたリアが口を開いた。


「でも、良い事ばかりでもないのヨ」


「どういうことだ、リア」


「やっと名前で呼んだのヨ。…確かに《主器契約》は武器を自分のものだけにすることができるけど、その逆のことも言えるのヨ」


「もっと解りやすく言え」


「武器は主のもの、逆に言えば主は武器のものでもあるのヨ。もし、主が主器とは別の武器を使った場合。契約は破棄され、契約者のユマを食い尽くすのヨ。」


 うわ、こえぇ。愛武器に殺されるのかよ。

 でもつまり、互いが互いを独占しあってる。裏切りマヂ許さん!ということだろう。


「結局はあれだろ。浮気しなきゃいんだろ?」


「浮気って…確かにそうだけど」


 オレの表現が可笑しかったのかサーラが微笑する。


「相思相愛なら任せろ。さあ、契約しようぜ」


「じゃ、始めるのヨ。あ、でも言っとくけど武器がお前を認めない事もあるのヨ」


「おう。それより、お前って属性調べたときもそうだけど、色々とできるんだな、ロリのくせに」


「お前は色々とムカつく奴なのヨ」


 リアはオレの手にコボウを握らせ、握った手の甲に乗り、真剣な顔つきになった。

 その顔に、オレは息を呑む。


 手の甲から光が発光し、魔法陣が浮かび上がっている。


 だが、やがて光は弱まり、光は消え、魔法陣も無くなった。


「終わったのヨ。これで《主器契約》は完了なのヨ」


「出来たのか!?やったぜーー!」


 オレは両手を挙げ成功したことを喜ぶ。


「お疲れ様です」

「おめでとうコータ!」


 2人も契約の成功喜ぶ。


 コボウは見た目さえも変わってはないが、今のコータの眼には、輝いて見える。


 そして、一段落ついたことを確認すると、シャルティアは口を開いた。


「では、コータ君。まず、私が組み手相手になります。防御だけに徹するのでどこからでも攻撃してきてください」


 シャルティアは腰に差していた細剣を抜き、構える。

 展開が早すぎないか、とは思ったが遅かれ早かれ結局は避けては通れぬ道!


「じゃあ、お構いなく!…うぉおお!!」


 コータは携帯していたコボウを最大までのばし、シャルティアに向かって真っ直ぐ走り出す。


 コボウを持っていた右手で、大きく振り抜く。が、その攻撃はあっさり細い剣によって止められた。


 右、左、右、上。色々な角度から攻撃を仕掛けるが、細い剣によって阻まれる。

 達人の目から見ると、素人同然で赤ん坊を相手にしているようなものだろう。

 それから、ずっと挑戦し続けていると。


「乱暴振れば良いってものじゃありません!もっとコンパクトに、もっと相手を見て頭を使ってください。足の動きが全然なってません!」


 シャルティアも指導に熱が入り、徹底指導してくれる。ここは、素直に好意に甘えておこう。


 それからコータは、何度も同じ指導を受けたが諦めずに特訓する。


 特訓の時間は結構取ってあったが、殆どをコボウの特訓に使った。だかシャルティアの熱い指導おかげということもあって、”見習いコボウ使い”程にはなった。


「コータ少し休憩にしたら?」


 始まってから、コータを見守っていたサーラが心配する。とても嬉しいのだが。


「大丈夫だ。足手まといにはなりたくないからな。欲を言うと、早くサーラの役に立ちたい」


「コータ……。」


 実際は、タイムリミットまで2日間しかないから焦っている。そこまでいくとなると、ゲームオーバーな気もするが、念には念をだ。


 コータは攻撃を再開する。

 何としてでも、ここで少しでも強くなる。オレの望みのためにも…


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