第6話 バルニアス邸攻略します その③


--4日目 昼食後


 昼食後はイリスと屋敷内の掃除だ。


「と、その前にだ」


 まだもう少し時間がある。


 仕事をする前にやらなきゃいけないことがある。

 今回の攻略にもとても大切なことだし、まあ別の意味も当然あるのだが。


それは………


「サーラたーーーん!愛してるーーー!」


「この前、別の愛称があった気がするけど……。まあいいや、どうしたの?」


 目的人であるサーラを発見したので叫ぶほどの距離ではなかったが叫びたかったので良しとする。


 でもまぁ、突っ込みどころをスルーされるほど寂しいことはないな。



「屋敷の中で騒ぐんじゃないのヨ。うるさすぎて何処にいても聞こえるのヨ」


「スマンな。ツインロリ」


「ムキーーッ!何時までも生意気で、不快すぎて腹が立つのヨ」


 小さい身体で手足を精一杯に動かし憤慨する。


 サーラは私服姿で異世界転移初日の時の衣装とは違ってどちらかというとパジャマみたいな姿で長い赤髪を一つにくくっている。

 そんなサーラに堪能し腕を組んで頷いていると。


「こらっリア。それがコータの良いところなんだから」


「ん、あれ、オレ褒められてる?」


 サーラは素直で天然でとても優しい子だがその性格なだけに痛い言葉をずかずか言ってくれる。


「フッ。攻略しがいがあるってもんよ」


 ゲームってものは相手が強ければ強いほど面白いものだ。

 女の子に関してはゲーム感覚で接することなど何回転生しても無理だろうが。


「それで、どうしたの?コータ」


「あぁそうそう、イリティアさんの事について聞きたいことがあるんだ」


「イリティアさん?そんな人いたっけ」


 サーラが頬に指を当て困ったように首を傾げる。


 (可愛い。好きだぁ!)


 オレは煩悩を頭を振って祓わせる。


「イリスとシャルティアを混ぜてイリティアさん!どう、オレのネーミングセンス?」


「えぇと……い、良いんじゃないかな」


「今絶対思ってないときの反応だったよね!?」


 本気でこの名前には少し自信があったつもりだった。

 もう一度言おう。サーラは素直で嘘をつけない子だ。

 良いと思ったら良いと言い、悪いと思ったら悪いと言う。とても良い事だか逆にとても罪なものなのだ。


「フッなんせオレは自信だけには定評がある人間だからな」


「それ格好付けて言うところじゃないと思うんだけど」


 オレの無理矢理格好付けた自己評価にサーラは不思議そうに言った。


「そろそろ本題にはいるのヨ。さっきから全然話が進んでないのヨ」


「ちぇーっ、もうちょっとサーラたんとの結婚について語り合いたかったのに」


「え、そんな話だった!?」


 そしてオレは「ごっほん」と咳払いをしてから。


「イリティアの昔のこととか、出逢ったときのこととか、好きなものとか教えてくれないかな?」


「2人の昔のことはほとんど知らないの、それにあまり聞かないようにしてるの」


「え!あのサーラたんが気遣いを!?何か不吉な事が起こる前兆か!?」


「コータ今すごく失礼なこと言ってる気がするんだけど」


「まぁまぁまぁ、そんな気がするだけだよ。ささ、話の続きを!」


 陽気な口調で言ったコータにまだサーラは何か言いたげな顔をしたが諦めたように溜め息混じりの吐息をした。

 するとサーラは「ただ」と前置きをし、一拍置いてから。


「知ってるとしたら…2人とも大切な人をムーンライトに殺されたぐらいかな」


「!?…」


 サーラは少し言いにくそうな口調で言った。


 シャルティアの昔のことについては本人の発言で薄々気づいていたが、予想外だったのはまさかイリスも。ということがだった。


 他にも2人の過去のことを聞いてみたが有益な情報は特に出なかった。

 何年の付き合いでもってその前のことは知らないらしい。

 これ以上聞いていても拉致があかないので次の質問にしてみる。


「じゃあ、サーラたんが2人と会ったときのことを教えてくれる?」


「ええ。私が最初に会ったのはシャルティアで確か…私が7歳の頃だったかな」


「幼少時代のサーラたんのことがとてもとーっても気になるけど、必死に我慢するオレを褒めてくれ」


「はいはい、えらいねー」


「棒読み感パなくてすげぇ寂しいよ!!」


「自画自賛なのヨ」


 このやりとりが終了したのを見計らいサーラは話を続ける。


「あの日は雨がすごかった日で、シャルティアは王都の街の路地裏にずぶ濡れでぶっ倒れてたの」


「ぶっ倒れたって、またずいぶんと思い切った表現だね」


 サーラは少し不思議そうに首を傾げたが話を続行させる。


「それで私がお父様にシャルティアを使用人として雇ってもらえるように頼んだの」


「今の一文でサーラたんが心から優しいことと、まだ親がいたという重要なことが解っちゃった」


「コータって褒めてるのかよくわからないこと言うのね」


「褒めてるに決まってるじゃん。オレの可愛い照れ隠しってやつだよ。サーラたん天使だね」


「え!あ、そう?えへへっ」


 サーラは頬を少し赤らめて恥ずかしげに言う。

 あぁ、可愛いなぁ。


 すると、別の疑問が頭をよぎった。


(あれ、案外オレのメインヒロインチョロい?)


 と一瞬思ったが頭を振って否定した。

 サーラは今単純に嬉しいと思っているだけだろうからな。


「結局雇ってもらったんだけど、最初はめちゃくちゃ大変だったの。」


「あんなにできる人なのに?」


「雇ったときから物覚えがよくはなかった子だけどとても頑張り屋さんなの、でもあまり心を開いてくれなかったの。やっと開いてくれるまで2年かかったんだから」


「え!?2年!!それまでよく持ったな!それに、あのシャルティアが物覚え悪いだなんて」


「あの頃の娘は特にヒドすぎたのヨ」


 シャルティアの意外なことが発見できた。

 だが、少し引っかかることがあった。


「シャルティアが来てから2年後ってことはーー。」


「そうなの、イリスが来てやっと心開いてくれて、そこでついでに私もって感じかな。それからシャルティアは、表情には出さなかったけど少し明るくなったような気がする」


「あぁ、何となくわかる気がする」


 確かに。 

 最近コータはシャルティアは表情は顔には出ないが、どんなことを思っているかおおよそ予想できるようになったと自覚している。

 シャルティアがイリスと出逢って何があったのかは知らないそうなので、今度本人に聞く機会があればと思う。


「そうだ、サーラたんはどんなのが好きなの?」


「肉!!」


「迷い無しに即答だな!それ以外になんかない?」


「えぇと、甘いもの?かな。こんな感じに答えていいの?」


「マジ!?シャルティアの言うとおりだったぜ!」


 シャルティアの言っていたサーラの好物の確認をし、今度はイリスのことについて聞こうとした。


「…あのさーー。」


「コータこんな時間だけどお仕事大丈夫なの?」


「ああ!まだ大丈……げぇ!やべぇ!この遅刻気味は母さんに怒られるレベルだ!!」


 もう少し話をしたかったが時間が来てしまっては仕方ない。

 早く行かなくてはイリスが待ってる。コータは仕事場に全力疾走する。


 と、思ったが。

 コータは半回転してサーラのそばまで戻ってきた。


 コータは最後に。


「今日の特訓…見に来てくれないか?」


 サーラは少し驚いた顔をしたが、すぐ明るい顔になって。


「うん、わかった。だからお仕事頑張ってね」


「おっす!ちょっくらいってくるわ。流石に待たせすぎるとイリスでも怒るからな」


 コータの言葉にサーラは微笑し頷いた。


「昼にいいご褒美もらっちゃったぜ」


 無意識にニヤニヤする。


ーーーその後仕事場に遅れて行ったコータはイリスに怒られたがその最中ニヤけが止まらなかった────。

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