ペンダントの先に在るモノ

第1話 美少女がモーニングコールしてくれました

俺の誕生日は人生最悪の日になった。

 そして俺は、台所の机にあった料理を食べていた。


「――――おいしいのに、全然おいしくないよ」


 俺の大好きな唐揚げはおいしかった。

 本当においしいのだが今の康太には喉を通る何かの塊のように感じた。

 なんで大好きな唐揚げがこんなにもおいしく感じないのか、分かっているが分かっていてもおいしくはならなかった。

 康太はまた泣く。止まらない涙。止むことのない雨のようにずっと・・・


 泣き止んだ後すぐに、自宅に俺の家族が持っていたものが届いた。

 それは康太の誕生日プレゼントだった。箱は1つの小さめのサイズで、赤い紙で包装されている。

 その箱には少し赤が濃いところがあった。



――――血だ。



 だが康太はあえてそれを無視した。事件の事を想像してまた胸が苦しくなるからだ。


『康太へ』

「――――――――。」


 康太は少し躊躇ったが意を決して箱を開けた。

 中にはペンダントがあった。白く、半透明であったがどちらかというと透明寄りだった。


「・・・もうちょっとマシなペンダントなかったのかよ。フフ」


 声は震えていて、今にも泣きだしそうだったがあの電話が来て以来初めて康太は笑った。


「シンプルなくせにこの玉、すげえ輝いて見える・・・」


 もちろんライトアップ機能がついていたりはしていない。ただ、このビー玉みたいなのを見ていると何もかもが見透かせてしまいそうで、今の康太の心情とは対照的過ぎてまるでこのペンダントが生きているようにすら見える。


 今の康太の心には通り魔に対する怒りもあるが、後悔の方が多い。

 今まで俺は家族のために何をしてきたのか。家族以外の誰かに何かをしてあげてきたのか。何もしてこなかった。



 そう思って、ペンダントをポケットの中に入れた。

 就寝についたのはそれから1時間後の事だった___


※※※※※※※※※※※※


”異の世界の住民よ、我が世界を改変せよ”


【固有スキル:アヴニールアイを獲得しました】

【固有スキル:アヴニールアイを発動します】


――――――――青白い世界。


 現世の空の色より少し薄い色。


 意識はあるが感覚がない。体がなく意識だけが浮いている世界。


 康太と見知らぬ赤髪の少女が隣に並んで歩いている。

 今の俺たちが来ている服と同じだ。だがこの光景は記憶にない。


 俺の視点で言えば、右側に海岸、左側には森がありその間にある道を俺たちは通っていた。


 なんなんだこの世界は。夢か?


 すると、無邪気に走ってくる子供たちが来た。


「おい、遅いぞ。置いて行っちゃうぞ」


「待ってよお兄ちゃ~ん」


 そういって、すれ違っていく子供たちを、赤髪の少女は微笑ましく笑った。

 俺と少女は何かしゃべっているようだが遠すぎて聞こえない。

 すると突然少女は髪を揺らしながら華麗に俺に振り向き何かを言おうとしたその時


 パァンッ!


 銃声だ。

 この世界にも銃器があるんだなと感心していたその時。

 森から、牙が向き出ている狼のような怪物が2匹飛び出してきた。

 それにいち早く気づいた少女は腕を突き出し、氷の塊を出現させ狼に攻撃するが、1匹しか撃退できなくもう1匹の狼の牙の攻撃を首にもろにくらう。


「ぁぁあああああああっ!!」


 少女の断末魔が聞こえた。


 康太は今まで見たことがないほどの血が出ていることに目をそむこうとしたができない。


 それから狼は、少女の首根っこを噛んだ。

 それから少女の声が聞こえることはなかった。

 何なんだこれは…夢なら早く覚めてくれ。


 すると視界が光で覆われ始め、やがて目の前は真っ白になった・・・



※※※※※※※※※※※※



ザーッザーッ

 海の音?もしかして目覚まし時計が覚醒したのか?


「―――はよー」


 ん、知らない人の声が。てこれも、もしかして目覚まし時計が・・・


「あ、目が覚めたのね!おはよう!」


「・・・・・・」

「おはよう!!」


「え、あ、お、おはよう」


 目の前の光景に頭が処理しきれない。えっと、昨日俺は自分の部屋で寝たはずだよな・・・

 なのに俺は海辺で寝ているそして――――。


「起きたら目の前に美少女・・・整理できた!とりあえず・・・」

「―――お?」


「これは夢だ!なのでもう一度寝て現実世界に───」

「まだ寝ぼけてるの!?やー!」


美少女は掛け声をかけて俺にチョップをした。


―――痛い。……あれ、この女の子さっきの夢で……


 そして美少女は俺に、


「ここは夢じゃなくて現実だよ。寝ぼスケさん」


「え、夢じゃない!?そして俺は寝ぼスケじゃなくて梶馬康太という立派な名前がある!」


「カジマコータ?あまり聞かない名前ね。私はサーラ・バルニアスよ。よろしくカジマ」


「あ、康太が下の名前」


 ファンタジー世界では上の名前が下の名前としで呼ばれるんだったな。


「コータが下の名前なの!?え、でも・・まあ、いいわ」

「そこ納得しちゃうんかい!」


 サーラと名乗ったこの美少女。

 俺と同じぐらいの年で、俺より少し身長が低く、赤くきれいな髪を腰まで垂らしている。

 散歩をしていたのだろうか。派手過ぎず、地味過ぎずの普通の私服姿だ。

 そして程よい大きさのこの胸!!俺の理想だ!


「俺の眼福スカウターじゃ測れない!強敵現る!」

「それがなんなのかわかんないけどイヤなことっていうことはわかったわ」


 そう言い、頬を膨らませ「むぅ」と言わんばかりに怒っている。

 可愛いな。

 ここでひとつ重要なお知らせが俺この子ドォーストライィィィク!ですわ。

 一目惚れなんて初めてしたかもしんない。



「このまま、サーラたんとイチャイチャするのもいいけど。質問がある、ここはどこだ?」


「サーラたんってなに?」


「愛称みたいなもんだよ可愛いだろ?サーラたん」


 するとサーラは目を輝かせて首を縦に振った。

 まあ、恐らくそんなあだ名は今後呼ぶかは分からんが。(だって恥ずかしいし)

 そして「あ、質問だったよね」と前置きをし


「ここはアルグ王国。国土が世界で一番広い都市なのよ」


「へぇー」


 今頃思ったんだが、初対面の女の子にこんなにフレンドリーに話したことがない俺に疑問が浮かんだが、それ以上に最初から心全開のサーラもおかしいとふともう1人の俺が思った。


 俺の反応がおかしかったのかサーラは首を傾げて、


「コータって本当に何も知らないのね・・」


「おう!全っ然何っにもしらないぜ!ちなみにいうと天変地異の無知無能な俺だからよろしく!」


「そこ自信満々にいうところじゃないけど。――――いい?」


 サーラによるとこの世界は大きく分けて魔物と人間が存在するそうだ。


「てことは!魔法があるのか!」


「え、そうだけど。なんでそんなにテンション上がるの」


「魔法は夢見る男子の憧れだからだ!で、俺も使えるの?」


 俺の脳内では全属性の魔法を操る俺がいた。グヘヘヘ、夢が広がるなぁ。


「ええ、使えると思うけど。基本一人が使える魔法の属性は1つだけよ。2つ使える人もいるけど、3つ以上使ってる人はいるらしいけど見たことがないわ」


「1つだけかよ。じゃあさ!俺は何属性が使えるんだ!?」


「じゃあ、調べてみましょうか。リア。来て」


 すると、サーラの頭のすぐ隣に俺の手のひらぐらいの大きさの小さな女の子が出現した。

 浮いてる・・・。

 そして金髪のポニーテールで大事なところを布で覆っただけだ。

 ……露出狂なのか、この子?


「なんか危ない子が出てきたけど」


「失礼ネ!アタシは精霊リア様ヨ!」


「精霊ってみんなこのティ〇カーベルみたいなやつなのか?」

「精霊にもいろんな種類があって人型じゃない精霊もいるわ」


 いいなぁ、精霊。

 何がすごいのかわからないけど、俺も欲しいぜ。


「で、リア。コータの属性を調べてほしいの」


「え、なんで私がこんな奴の――――まぁ、サーラの頼みならやってあげるワ」


「おう、頼むぜロリっ子。俺の顔に免じて」


「なんかムカつく名前の呼ばれ方なのヨ。それに、お前の顔に何が免じられるのヨ」


 ご、ごもっともだぜこの野郎。

 いやいやながらも、リアはサーラの頼みを承諾した。そしてリアは俺の額に手を置いた。

 すると触れた手から光が発光し、少ししたら消えた。

 属性を調べる儀式みたいなものなのか?


「わかったのヨ。お前の属性は光属性なのヨ」


「お、おおう?すごいのか?」


「光属性は結構珍しいのよコータ。四大属性以外の属性を使える人はあまりいないの」


 サーラによると、四大属性の火、氷、風、土のほかに光属性と闇属性があるそうだ。

 普通は大抵四大属性を使う人が多いらしい。

 そして、魔法には下位魔法、上位魔法があるそうだ。村人などの一般人は魔法が使えないらしい。


「だが俺は異世界転移者!魔力の量も魔術の才能も――――」


「全然ないわネ」


「ええええええぇ!?」


 リア曰く、魔法は大気中にある魔力すなわち『ユマ』を取り込み、自分の体の中に溜まっているユマ使って魔法を行使するそうで、吸収速度も吸収量も内容量も個人差があり一定量以上のユマを取り込むことはできないそうだ。


「でもその全てにおいてお前は人並み程しかないのヨ。だからお前は下位魔法ぐらいしか使うことができないのヨ」


「…………光属性の下位魔法ってどんなことができるんすか」


「今のコータだとすごい光を出すラスタぐらいしか使えないかも」


「俺の異世界人生オワタ」


 わけのわからない異世界転移をされ魔力は村人より少し多い。・・・ダメダメじゃん!

 俺の落ち込みようが見るに堪えなかったのかサーラが


「そんなに落ち込まないでコータ。ラスタも使い方によっては役立つし、なにも魔法だけが全てじゃないから」


「でも俺剣道の授業でしか剣振ったことないし」


「剣は努力すればだれでも上達するわ」


 何しても凡人の俺が努力しても見えてるけどな。

 でも、少し気持ちが楽になってきた。

 それに励ましてくれたサーラが天使に見えてきて余計に好感度が上がった。


「それはいいけど俺まだ全然この世界のことわかってないや」


 そう。康太はまだこの世界の事に関しての知識は3歳児並みだ。

 もっとこの世界について知る必要がある。あと、さっきみたあの夢の意味。でも、考えても意味がないかなー、夢だし。


 ぐううううううっ


「吐いたからおなか減ったなぁ」


「フフッ、じゃあ私の家でご飯にしましょう!」


そしてサーラは「そうと決まれば早くいきましょう!」といい俺を案内してくれた。


俺たち2人は並んで道を歩いた。


「サーラの家族はどうしてるの?」


「お父様とお母様は遠いところまで働き行ってるらしいわ、小さい頃に出掛けてからもう会ってないけど」


 え。10年以上会わない親ってそれ親って言うのかよ。

 そんなこんなでサーラとの会話が弾んでいると・・・。


「おい、遅いぞ。置いて行っちゃうぞ」


「待ってよお兄ちゃ~ん」


 前から無邪気の走ってくる子供たちがきた。


 ――――えっ


 すれ違っていく子供たちを見て、サーラは微笑ましく笑っていた。

 これってさっきみた夢の・・・いや。そんなはずない!


 そう自分自身に言い聞かせ自己完結していた。


 俺の険しい顔を見て心配したのかサーラが華麗に振り向いて俺に。


「何か悩み事があるなら――――――――」


その瞬間。


パァンッ!


 銃声だ。

 サーラが俺に振り向いたときに銃声がした。


 間違いない!さっき見た夢と全く同じだ。


 ということは・・・

 その後に起こることを思い出した俺は血相を変えて


「危ないっ!」


「きゃっ」


 俺は両手でサーラを突き飛ばした。

 少し強すぎたか、後で謝ろう。だがこれで安心だ。


 と、俺は安堵していたが。


「「ヴォウッ!」」


 2匹狼は森から飛び出してきて俺はもろにくらった。


 俺は馬鹿だ。


 サーラを突き飛ばしたからといって2人とも助かるとは限らない。

 それにサーラがいた位置と俺が交代しただけのようなものだった。


「っぐぁ!ぁあああああ!!」


「コータぁ!」


熱い熱い熱い痛い痛い痛い熱い痛い熱い痛い。


 今まで感じたことのない痛みが康太を襲う。


 肉が食いちぎられ、血が飛び散る。


 体を強引に動かそうとするが狼の力で押さえつけられ噛まれる。


 噛まれ続ける康太は自分の体や周りがどうなっていることは分からない。


 ただ、叫ぶことしかできなかった。


 俺が狼に襲われていることに気づいたサーラが腕を突き出し。


「魔獣が・・・リア!」


「わかってるのヨ!」


「アイシクル!」

「フレイム!」


 サーラは氷の矢を、リアは火の玉を出現させる。


 2人の魔法は狼に直撃し、狼は絶命する。


「コータ!コータ!しっかりしてぇ!!」


 サーラが俺に向かって叫んでいるのが分かる。


 ――――何言ってんのかわかんねえよ。

 そして次第に目の前が暗くなり視界にサーラが消える。



 ――――世界が暗転する――――

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