今を生きる僕達は

そんそん

第1話

街の中央に立つ、小高い山。その頂上に鎮座するのは、日光を浴びて輝く、白き学び舎。その名は、聖ヶ丘光高等学校。そのとある教室で、この学校の生徒の一人、黒河亜弥人は、やけに真剣な面持ちで、座っている友人の前に立っていた。


「紗玖、本当にすまないが...例の物を、貸してくれないか?」


ただならぬ雰囲気を纏いつつ、そう告げた亜弥人に、席に座っていた仲谷紗玖は顎に手を当て、少し思案した。そして何か思い当たったのか、彼は椅子から立ち上がる。そして目の前の友人の肩に手を乗せ、しっかりとした声色でこう応えた。


「任せろ。」


紗玖はゆっくりとした足取りで、自らのロッカーに向かい、亜弥人の言う「例の物」を取り出した。そして取り出した物を手に、依然、深刻な表情を湛えた亜弥人の元まで戻ってくる。手に持ったものを友人の胸元に押し付け、微笑みながら言った。


「幸運を。」


紗玖のその言葉に、亜弥人はコクっと頷く。そして重々しい口調で応える。


「ありがとう。この恩は、いつか、必ず。」


颯爽と教室を去る亜弥人。そのピンと伸びた背筋を眺め、紗玖は満足げに頷いた。ゆったりと彼が席に着くのを横目に、側にいて、彼らの一部始終を見ていた平山歩が、呆れたように溜息を吐いた。


「───ただ古文の教科書借りに来ただけじゃないですか、大袈裟ですね全く...。」


午前8時20分。晴れやかな青空が窓から覗く授業開始10分前。柔らかな日差しが彼らを照らす中、彼らの平凡な日常は、今日も紡がれていく───。

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今を生きる僕達は そんそん @aimee1229

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