35.昼寝





 ちゃんと夜に寝ているはずなのに、私は昼に少しでも寝ないと体調不良になってしまう、そんな変な体質だった。

 病院に行ってもおかしな所は無く、全くの健康体。

 これといった病名が付くわけではなく、ただただ不思議が募るばかり。


 しかし死に至る病という事はなくなったので、親もとりあえず放置する事に決めたようだ。

 だから私は気兼ねなく、昼寝の時間をつくっている。





 ふわあ、今日も昼寝の時間を終えた私は、あくびをしながら次の授業の用意をする。


「今日もよく眠ってたわね。眠り姫さんは。」


 そんな私の後ろから、からかうように声がかけられた。


「そのあだ名で呼ぶの、やめてって言ったでしょ。」


 私は後ろを振り向き、しかめ面をする。

 そうすれば、ニヤニヤとした笑みを浮かべている駒田がいた。

 いつもの事だが、人を馬鹿にした感じがムカつく。


「えー。可愛いじゃない、姫。学園中が知ってて、名物になっているんだから受け入れなよ。」


 私が学校の昼休みの時間を利用して、寝ているといつの間にか周りが珍しいと騒いだ。

 そして本当に不本意なのだが、その内の誰かが『眠り姫』なんていうあだ名をつけた。


 まさか広まって、知らない人にもそう呼ばれるようになるなんて思わなかった。

 返事をしないと愛想が悪いとか、調子に乗っているとか言われるので、一応呼ばれたら答えている。


 それが余計に広まる原因だったと気づいた時には、もう手遅れだった。


「別に姫っていうがらじゃないし、嬉しくないの。特にあなたは、からかっているって言うのが分かるから、余計に嫌。」


 しかし寝るのを止めるという選択肢は、健康や精神上の理由から選べない。

 だから仕方ない部分もあるが、友達である駒田にまで、そのあだ名で呼ばれたくない。


「はいはい。分かった分かった。望姫みきちゃん。」


 眠り姫なんて呼ばれるようになった原因でもある、自分の名前もあまり好きじゃないけど、あだ名よりは随分マシだ。

 しかし何で駒田に言われると、こうもムカついてしまうのだろうか。


 あまり人を嫌いだと思わない方なので、とても不思議だ。

 何かあるのだろうかと、マジマジと駒田の顔を見つめた。


「そんなに熱い視線を送ってきて、私に惚れないでよ。」


 こういう性格だな。

 私は呆れてものが言えなかった。



 それにしても、昼休みの大半を睡眠に費やしたのだが、まだ眠い。

 休日ならまだしも、平日は学校があるからこれ以上は眠れない。

 しかし体調が悪くなるようだったら、少し考えてみるべきか。





 おかしい。

 最近は昼休みだけではなく、授業中も寝ないと足りなくなってしまった。

 先生にも怒られるし、他の人達には笑われるしさんざんである。


「本当に眠り姫らしくなってきたよね。」


 そんな私を、駒田はからかってくる。

 しかしおかしいのは、一番自覚しているので反論できなかった。



「ねむい、ねむい、ねむい。」


 怒られないために、眠らないようにも努力した。

 そう思ったのだが、1日で音を上げてしまった。


 そして30分で足りた睡眠が、1時間、2時間とどんどん増えていき、ついには大半の時間を昼寝しなければ辛い。


「大丈夫?望姫?」


 さすがの駒田も心配になるぐらい、私の今の状況はおかしいようだ。

 しかし病院に行った所で、特に問題は無いと言われる。


 それなら、どうして私はこんなに眠いのだろう。

 また眠気が襲い掛かってきて、耐えきれず横になった。





 今、私は起きているのだろうか。

 それとも眠っていて、夢を見ているのだろうか。


 分からない。

 それを確かめる術を、私は持っていないのだ。


「だいろうぶ?みきぃ?」


 机にふせている私の顔を覗き込んで、駒田はろれつの回っていない声で言う。

 やっぱり、ここは現実ではない。

 しかし、私の耳がおかしくなっている可能性が、まだある。



 もう分からない。

 だから眠ってしまおう。


 私は現実から逃れるように目を閉じた。

















 眠ってしまった望姫の頬を撫でて、私は自然と笑ってしまう。


「本当、眠り姫じゃん。」


 どんなに触っても起きないのを確認すると、慎重にその体を持ち上げる。

 その時、ポケットからプラスチックの容器が落ちてしまった。


 中身の錠剤が、ガラガラと音を立てながら転がっていく。

 しかしもう用は無いので、私は気にせず落とさないように気を遣った。


「次に目を覚ました時は、楽しいことしようね。色々、用意しておいたから。望姫の為なら、何でもしてあげる。」


 一方的に話しかけると、そのまま準備しておいた部屋へと彼女を運びこんだ。





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