サイバー世界のカミサマ

「この先、左。セキュリティロックは解除してるから、そのまま突っ込んで」

「そしたら何があんだよ!」

「ヘリポート」

「は?!」

「いいから行って。早く」


 指示の通り角を左に曲がると、自動ドアが大きく口を開けていた。その向こうにはロキの言う通りヘリポートがあり、一台のヘリコプターが停まっていた。ドアが大きく開いたそこに駆け込むと、背後で自動ドアが閉まり、警備員の足止めをしている。自動ドアなのだから人が近づいたら開くはずなのに、開く気配はない。もしやと思いロキを見ると、ノートパソコンを持ちながら、彼はニヤリと笑った。やはりロキの仕業らしい。


 なんにせよ、好機だ。ロキをヘリコプターの中に押し込んでから自分も入ると、少年は操縦席に移動していた。片桐には良く分からない装置たちに光りが入り始める。操縦席でノートパソコンを弄るロキは悠々としており、プロペラが動き出したところで初めて片桐はロキに問いかけた。


「お前運転できんのかよ」


 しかし、問いに対する回答はにべもない。


「出来るわけないじゃん」

「はぁ?!」


 大声を上げる片桐を、ロキは呆れたように見る。


「いちいち驚かなきゃ気が済まないの? オジサン。このヘリにはね、オートパイロット機能が付いてるの。分かる? オートパイロット」


 ヘルメットを片桐に放り投げながら、彼は自分もヘルメットを装着して不敵に笑った。




「サイバー世界でボクに操れないものはないよ」




 ノートパソコンのエンターキーを叩くと、ブンと重い音を立て、ヘリコプターのプロペラが回りだす。ロキは一切操縦管に手を触れない。それなのに、ヘリコプターはゆっくりと高度を上げだした。ヘリポートがドンドン遠くなっていく。ロキのタイピング音が、聞こえるはずのないタイピング音が聞こえてくるようだ。ヘリコプターはグングンと高度を上げ、窓の外には夜景が広がる。こんな状況でさえなければ、美しいと思うことが出来ただろう。


 こんな状況でなければ。


 夜景には目もくれず、ロキはひたすらノートパソコンを弄る。その度にヘリコプターは右へ左へと方向を変えた。それにいちいち慌てながら、片桐はプロペラ音に負けないくらいの大きな声で呼びかけた。


「これから、どこ行くんだ?!」

「んー?」


 ノートパソコンから目を離さず、ロキは目の前を指す。


「学校」

「は?!」


 想定外の言葉に、声を更に大きくした。それに煩そうに顔を顰め、ロキが肩越しに振り返る。


「だから、いちいち驚かないと気が済まないわけ? オジサン」

「誰のせいで驚いてると思ってんだよ!」

「えー、それボクのせい~?」


 不服そうに唇を尖らせながら、ヘリコプターが高度を下げ始めた。下を見れば、夜の暗がりで灰色になっている、日中に見たら白いであろう校舎がどんどん近づいてくる。目指すのは、あの広い校庭だろうか。


「あんなとこ停めて、ことにならねぇのか?!」


 プロペラの音が煩い。自然と大きくなる声に、ロキは笑った。


「これくらい、もみ消すのは簡単だよ」

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