さあ、行こう
ふと、外が騒がしいことにロキは気付いた。ここのドアはさほど厚みがない。子供であるロキには到底蹴破れやしないけれど、外の音を拾うのはたやすい。
誰かが、騒いでいる。
緩慢な動作でドアを見ていると、いきなりそれが外側から蹴破られた。突然のことに思考が停止する。
「ロキ! 無事か?!」
蹴破ったドアの向こうから入ってきた片桐の姿に、ロキは目を丸くした。何故? どうして彼がここにいる。混乱するロキの元に走ってきた片桐は、彼に無数に付いた痣を見つけ眦を決した。
「アイツらっ こんな子供に暴力をふるいやがったのかっ! これが終わったら暴行罪でしょっぴくぞ畜生がっ」
怒りながらロキの拘束を外す片桐を呆然と見る。ロキの視線に気付いた片桐は首を傾げた。
「オジサン、どうして、ここ」
「トールが──綾木警部補がな、お前を助けたいなら急げと住所を教えてくれた」
「そうじゃなくて」
力なく首を振る。そうじゃない。片桐がここに来る義理などないはずだ。ロキと関係を切れば、彼はこれ以上、上層部から睨まれることは無い。そんなことが分からない人ではないはずだ。
「なんで、ボクを助けに」
弱い声で呟くと、片桐は瞬いた後ロキの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「さっさとこの計画ぶち壊して、思いっきり遊ぶんだろ?! こんなとこで立ち止まってる場合じゃねぇだろうが!」
片桐の言葉に、ロキはキョトンと目を丸くした。言っている意味を理解するのに、数十秒かかる。意味を理解し、片桐がここに来た意味を理解し、込みあがってきた笑いを押さえきれない。ついには、お腹を抱え笑いだす。突然の爆笑に今度は片桐がキョトンと目を丸くした。何故助けに来たのに爆笑されているのだろうか。
思わず固まると、ロキは笑いすぎて涙が滲む目をこすりながら笑いの残る顔で片桐を見る。
「どうしてそう言うことしちゃうのかなぁ」
「あん?」
片眉を上げる片桐に笑いながら、ロキは彼を見上げた。
「オジサン、刑事さんなのに」
「悪いかよ」
笑われことが気に入らず不貞腐れながら言うと、少年は緩く首を振った。
「悪くないよ」
そう言ってロキは笑う。
心の底から嬉しそうな顔をして、ロキは笑う。
「悪くない」
初めて見た少年の少年らしい笑顔に、片桐もつられて小さく笑った。
「行くぞ、大将」
「ここまで来たら地獄まで付き合ってもらうからね」
二人でハイタッチして、不敵に笑う。そこにいたのは先ほどまでの迷子の少年ではない。『ロキ』だった。
警報が鳴る。赤色灯で赤く染まる廊下を片桐は走り抜けていた。
「どうでもいいけどな! 何で俺がお前のこと担がなきゃなんねぇんだっつーの!」
ロキの身体を俵担ぎしながら叫べば、彼は片桐の肩の上で悠々と、盗んできたノートパソコンを弄りながらあっけらかんと言った。
「ボク走るの嫌いなんだ。インドア派だから」
「黙れクソガキ! テメェの足で走れ!!」
「別にいいけど、追いつかれるよ、オジサン」
「ホラ、後ろ」と言われ肩越しに振り返ると、警備員が大挙しているところで、足を止めたら即追い付かれてしまいそうだ。
「クソがっ!」
悪態をつきながら、足に力を込め勢いを増す。デカは足で捜査しろとはよく言ったものだ。ランニングの成果と日々の聞き込みのおかげだなと内心で舌打ちをした。
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