作戦、開始

「前々から思ってたんだけど、お前どうやって収入得てるんだ?」


 まさか違法な手段ではあるまいなと眉を寄せると、心外とばかりにロキは眉を上げた。


「株に決まってるじゃん」


 株。


 勿論、木の切り株のことではあるまい。


 株式売却益が収入ということか。


 また、大層なものに手を出している。いや、実にこの少年らしいのだが、年相応という言葉をそろそろ覚えた方がいいのではないかと、片桐は頭を抱えた。


「というわけで、ボク出かけるから」


 決心の固い目に、ため息を零す。もはや引き留めても無駄だろう。これがロキなりの戦い方だというのなら口出しは出来ない。それでも心配な気持ちは抑えようがなく、返事を迷う。


「オジサン」


 それが顔に出ていたのだろう、ロキは困ったように苦笑した。


「ボクなら大丈夫だからさ」


 本当にそうだろうか。ロキの「大丈夫」を素直に受け止められず、渋い顔をする。けれど、引き留める上手い言葉は出てこない。


「絶対、帰って来いよ」


 結局、出てきたのはありきたりの言葉で、ロキは小さく笑うとノートパソコンの入ったリュックサックを担ぎ、ドアを開けて外へ出て行った。あんなに頑なに外に出ることを嫌がっていた少年が、自ら外に出る。それはとても喜ばしいことのはずなのに、片桐の頭からは不安がぬぐい切れない。これではまるで戦地に我が子を送る親のようだ。笑ってしまいたかったけれど、あながちそれは間違いではない事実を前に、渡された通信機を固く握りしめた。


『オジサン、聞こえる?』


 ふいに通信機から聞こえてきたロキの声に、グルグル回り出した思考を元に戻し片桐は通信機を口に当てる。


「聞こえてるぞ」

『良かった。作ったはいいけど使えない、なんてことになってたらどうしようかと思ってた』

「これ、お前が作ったのか?」


 意外な言葉に、目を丸くした。


『SIMレスも考えたんだけどね。足が付くの嫌だったから』


 なんともロキらしい返答に改めて項垂れる。この少年はどこまで有能なのだろう。足が付きたくないがために、通信機までお手製とは。


「とりあえず、行き先は?」

『まずは警視庁の近くまで行くよ。適当な路地裏で、もう一度チヨダ内部に入れないか確認してから、中に入る』

「中に?!」

『仕方ないでしょ。他に手がないんだから。中に入って、子供っぽく迷子になったフリでもしてみるよ』


 あまりにも行き当たりばったりな作戦に、頭が痛くなってくる。用意周到かと思っていたが、意外とアバウトなところもあるらしい。しかし、警視庁内なら自分の出番だと、記憶を手繰る。


「チヨダは公安と密接な関係にある。言うまでもないが警視庁の隣は警察庁だ。行くなら六本木通りにしておけ。さらに付け加えておくと、外務省上交差点でおりることを薦める。警視庁についたら、警察参考室を探してるふりをしろ。内部公開ツアーの一部に組み込まれているところだから、見つかった時の言いわけになる」

『さすが、詳しいね』

「職場だからな。でも、入り口には警備員がいるぞ。どうするつもりだ?」

『そこは考えてあるから大丈夫』

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