チェックメイトにはまだ駒が足りない
陰鬱とした気持ちでロキの元に行くと、彼は珍しくディスプレイの方を見ず考え事をしているようだった。
「ロキ?」
声をかけると、彼はチラリと片桐を見た後
「今日、ちょっとボク外に出るから」
唐突な言葉に、片桐は目を丸くした。
「どうした、急に」
訝しんで問えば、ロキは顔を顰め苛立たし気に指で机を叩く。
「どうしてもハックできない場所がある。あそこは要になる場所なんだ」
「おいおい、大丈夫かよ。見つかったらヤバいんだろ?」
「髪型を変えて、白衣を脱いでいくよ。帽子もかぶる。カラコンは付けっぱなしの方がバレにくいかな。アースガルズの連中は地の目の色しか知らないから」
つらつらと語るロキに眉を寄せる片桐へ、少年は睨みつけるような鋭い目を向けてきた。
「これはね、いわばチェスなんだよ」
「チェス?」
「そう、チェス。どっちが早くキングを打ち取るかの単純なゲームさ。でも、ポーンやナイトの数は決められていない。向こうの方が多く手駒を持っているなら、ボクもそれなりに揃えないと押し負ける」
言いながら白衣を脱ぎ、服を着替え、ワックスで髪を弄った後帽子をかぶる。
「大丈夫、まずくなったら逃げるさ。オジサンはここで通信機でも握って待っててよ」
そう言ってスマートフォン型の通信機を放り投げられ、咄嗟に受け取る。それでも不安になってロキを見ると、しっかり支度を終えた彼はドアに手をかけているところだった。せめて行き先を聞いておこうと、片桐は声をかける。
「どこに行くんだ?」
「知らない方がいいよ、オジサン」
無毛もなく断れてしまったけれど、ここで引き下がってしまうと今までと同じだ。
「ここまできたら何しても一緒だろ」
開き直れば、ロキは渋い顔をした後ボソッと呟いた。
「チヨダの管理セキュリティ」
「おいおいマジかよ」
チヨダとは、警察庁警備局警備企画課に属しており、任務は全国で行われる協力者運営の管理と警視庁公安部・各道府県警察本部警備部に存在する直轄部隊(作業班などと呼ばれる)への指示と教育である。「チヨダ」という名前は一種のコードネームであり、現在でも正式な名称は不明。「裏理事官」と通称される警察庁キャリアの理事官によって統括されており、課員は警視庁・道府県警察本部から派遣される。公安調査庁には協力者運営の管理を行う組織として本庁総務部に工作推進室があり、参事官が室長を務める。
そこすら手中に治めようというのか、この少年は。
「っていうかどうやって行くつもりだよ、お前」
電車の乗り方すら知らない、もちろん車も運転できないしどうやら自転車の乗り方すら知らないであろうロキの交通手段はゼロに等しいはずだ。訝しんで問えば、彼は何でもないことのように肩を竦めた。
「タクシーを拾うよ」
あっさりと言われ、一瞬言葉を無くす。
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