接触する方法について

 彼の言葉に頷く。尻尾を掴ませない情報屋など聞いたことがない。必ずどこかに綻びが出るはずだ。そこまで頑なに逃げる必要が何処にあるのだろうか。まさか犯罪者なのだろうか。クラッカーと言えば確かにインターネット上の脅威だが、事件にならない程度だ、大したことはやっていないだろう。せいぜいが日常を掻き回すくらいが関の山に違いない。違いないのだが、だがしかし、ここまでくると疑わずにはいられない。


 しばらく二人で首を傾げていたが、結局答えには至らず結局田代とはそこで分かれた。





 もどかしい思いで家に帰ると、寝ずに待っていたのか本条は起きて洗濯物を畳んでいた。お前はお前の嫁かと突っこみたくなるのを堪える。そうさせてるのは自分だ。至らなさに顔を手で覆った。


「どうしました? 疲れているんなら寝ますか?」

「いや、平気だ。それよりお前は平気なのか?」

「すっかり夜型になってしまいました」


 困ったように苦笑し、本条が弁当を温めに行こうとするのを止める。そこまでさすがに世話をかけるわけにはいかない。まがいなりにも自分の方が成人を過ぎて久しいのだから。


 二人分の弁当を温め戻ると、綺麗になった部屋で、こたつテーブルに二人座り、遅くなりすぎた夕飯を食べる。今日のリクエストは幕の内弁当だったので、本条は幕の内弁当の鮭を丁寧に頬張っており、それが微笑ましく思いながら片桐は自分の唐揚げ弁当に手を付け始めた。


 ふと、本条はまだLと交流があるのかが気になった。あれから随分と経つが、Lは本条を見放していないのだろうか。


「そう言えば、Lは最近はどうだ。連絡はまだ取れてるのか?」

「Lさん、ですか?」


 本条は首を傾げた。


「まだメッセージをくださってますが」

「そうか」


 やはり、まだ連絡を取り合っているらしい。尻尾を掴ませないわりに面倒見は良いようだ。それとも、本条は自分のことを詮索しないから続けているのだろうか。弁当を咀嚼しながら難しい顔をしていると、本条が心配そうにこちらを見ていた。取り繕うように笑うが、自分でも分かるほどそれは歪だった。


「どうかしましたか?」


 本当に心配そうに眉を下げる本条に、後頭部を掻く。


「Lのことを、考えててな」

「どうして?」


 米を箸で突っつきながら、肘をついた。行儀が悪い事は分かっているが、ひとまず今は放っておいて欲しい。


「アイツがな、なかなかどんな奴か分からなくてな」


 片桐の言葉に、本条も箸をおき少し考えた。


「そうですね……気さくな、気のいい方のようですが、確かにご自身の話はあまりされないですね」


「んー」と考え込み、閃いたのか彼は人差し指を立てる。


「本人に聞いたらどうですか?」

「は?」


 突然の提案に、食べようと持ち上げていた唐揚げを落とした。


「いや、」


 手を振り、


「いやいやいや無理だろ」

「どうしてですか?」

「いや、だって」


 どうしても何もない。尻尾を掴ませない人間相手に、「アナタは誰ですか?」と聞いて答えてくれるわけがない。

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