変わり始めた日常
『ミョルニルを返してください』
反射的にそのまま返信すれば、『その通り』とだけ返ってくる。
『片桐刑事は、ワタシの都市伝説についてご存じないのですね』
『都市伝説?』
あいにく、オカルトの類はほとんど知らない。せいぜいが口裂け女くらいだ。特に最近の都市伝説と言われると、皆無と言っていいほどだ。
『ご存じないのにここにたどり着けたのは幸運と言えますね』
そう打ち込まれた後。
『まぁ、それは些事ですので詳しく説明するのはやめましょう。本条奏汰さんの居場所の話ですね』
些事と捨てていいのか分からないが、とにかく今は情報が欲しい。無言で先を促すと、Lはある座標を張り付けてきた。マップで検索すると、原宿のあるアパートが表示された。ここに本条奏汰がいるというのか。
『彼には、もうすぐ助けが来ると伝えてあります。行くならお急ぎください』
『謝礼金は』
情報屋と言うのは情報を提示する代わりに謝礼金を求めるものだ。ここまで詳しく情報を出してきたのだ、かなりの額を要求されると身構えていると、Lは『いりませんよ』と返してきた。
『ワタシはミョルニルを返すだけです。そこに謝礼金は必要ありません』
「なんだと」
思わず呟く。Lは謝礼金はいらないと言う。そんなことがあっていいのだろうか。返信をためらっていると、相手は片桐の躊躇を察したのか、こう続けてきた。
『ワタシは謝礼金目当てで行っているわけではありませんから。さぁ、早く。彼を助けてあげてください』
Lの言葉に、一瞬迷う。ここで本当に相手の言葉を信じていいのか分からない。けれど、迷っている余裕はない。本条奏汰が救いの手を差し伸べていると言うのなら、それを救うのは自分の使命だ。
『礼を言う』
ひと言残し、ジャケットを羽織る。急がなければ、Lの好意が無駄になってしまう。
『ここにたどり着いたのが、貴方で良かった』
「……え?」
発言の真意を問うより早く、『それでは失礼します』という文字が流れ、もう一度何者か質問しようと文字を打とうとすると、送信エラーになった。代わりに、画面には『404 Not Found』が表示される。思わず「は?」と間の抜けた声が出た。ノットファウンド。サイトごと消えた? 何度ファンクション五を押しても、それ以上画面は変わらない。消えた。このためだけにサイトを立ち上げたというのか、Lという人物は。どこまでも正体を掴ませないつもりなのかと背筋が凍る。この人物は何なのだ。あまりの正体の掴めなさに、興味が湧いた。この人物が何なのか、興味が湧いた。こうなったら正体を掴んでやる。変わらない画面に向かって片桐は不敵な笑みを浮かべた。
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