『男女が二人で出かけたら、それはデートですか?』
普段、
今日も今日とて、ソファでゴロゴロしながら週間少年マ〇ジンを読んでいる美少女泥棒を横目に、ダイニングテーブルで詐欺に励んでいる神哉。
「はぁ~、今週もおもしろかった! 今のマガ〇ン連載作品、ホントはずれがないですね~。五つ子とかレンカノとか割と新しめの作品の面白さもさることながら、長年マガジンを支えてきたと言っても過言ではない生徒会下ネタ四コマも廃ること無くいつまでも笑えるんですよ!」
神哉に向かって熱烈なマ◯ジン愛を語る彼杵。対する神哉は興味無さげな生返事。
「ほーん。そうか、そりゃ良かったな」
「えー、なんですかそのうっすい反応ー。神哉くんも読んでみてくださいよ。きっとハマりますよ?」
「いやそんなことよりさ。マンガ雑誌買ってうちで読むのは構わないんだけど、そのままうちに放置するのやめてくんない? 物置部屋ほとんどがジ◯ンプとマガ◯ンで埋まってんだけど」
彼杵が神哉宅へやってくる頻度は、平均して週四日。その毎週毎週でマンガ雑誌を近場のコンビニで買って来ては、神哉宅で読み漁り、そのまま置いて帰るのだ。故に神哉が物置として使っている部屋の半分を占めるのがマンガ雑誌となってしまっている。
「別に捨ててくれて良かったのにー。あ、でも取ってあるなら好都合ですねっ。神哉くん、今すぐ過去のマ◯ジンとかジャ◯プ読みまくりましょう! そして私とマンガトークしましょう!」
「はぁ? なんでだよめんどくせぇ……。俺は見ての通り仕事中だ」
「仕事仕事って……神哉くん! 仕事と私、どっちが大切なんですかぁ!?」
「…………仕事?」
「うわぁ~ひどいひどいひどい~~! お腹空いたぁ~~! お昼ご飯食べたいですー!」
「はぁ……お前うち来たらそればっかりだな。ちょっと待ってろ」
神哉はため息交じりに椅子から立ち上がり、冷蔵庫の中を確認する。がそこで神哉は大きなミスを発見してしまった。
冷蔵庫の中身がほぼ無いに等しいほどスッカラカンだったのだ。
「今日のお昼はな〜っにっかっな〜! 楽しみだなぁ〜」
ソファに腰掛け、横に揺れながら満面の笑みで料理を待っている彼杵。しかしその期待に応えられる料理は作ることが出来ない。作ろうにも材料がないのだ。
「すまん、彼杵。材料がなくてなんも作れない」
「ええっ!? そ、そんなぁ〜……。あ、だったら何か食材買って来てくださいよ! 私、ここで待ってるので〜」
「彼杵、それが人に料理作ってもらってる人間の言葉か? お前も付いて来なさい」
「うわ、犯罪者にお説教くらっちゃった……。でも神哉くんだからいーや! そういう変にクソ真面目なとこも大好きです!」
「はいはい、じゃ着替えてくるから待ってて」
神哉はそう言うと、身支度をするべく2階へと上がっていった。
「チッ」
神哉が2階へ上がった後に、リビングにそんな音が小さく響いた。
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神哉宅が建っている高級住宅街から15分ほど歩くと、市内一の繁華街へ辿り着く。大型の商業施設がいくつもあり、この近辺に住む人間は買い物にだいたいここへ来るのだ。
神哉と彼杵の二人もスーパーのある大型商業施設へ入店。休日ともあって大量の人間でごった返していた。
「あー、寒みぃ……それに人多い。だから嫌いなんだよ買い物」
季節は一月下旬。まだまだ街並みは正月感が残り、北風も強い。
ポケットに手を突っ込みながら買い物カートを押す神哉に、彼杵は怪訝な顔を向ける。
「ホント人混み嫌いですよね神哉くん。いつも食材の買い出しどうやってるんですか?」
「いいか彼杵。今どきはネットで注文して家から一歩も出ずに買い物が出来る時代なんだよ」
「うわー、引きこもりも極めるとそこまでいっちゃうんですね」
若干引き気味で言う彼杵。しかし神哉はその目を気にすることなくカゴに食材を入れていく。
とそこで神哉がふと気付いた。自分の持つカゴにいつの間にやら数個のお菓子が入れられているのだ。
「彼杵……お菓子入れるなら一言言ってからにしろよ」
「えー、だって言っても神哉くんお金持ってるクセにケチだから買ってくれないじゃないですか!」
「あのな、俺は別にケチじゃない。貯金厨なだけだから」
「でもでも~、もしかしたらお金使わず死んじゃうかもしれませんよ? それは明日かもしれないし、今日かもしれません」
「つまり金は無駄に貯めまくるよりも、自分のために使っていった方がいいって言いたいのか?」
「はい! 私なんてこの間盗ってきたお金、全部使い切っちゃいましたもん」
神哉は彼杵の意見に一理あるかもしれないと思考を巡らせる。自分で貯金厨と言いはしたが、別に使うときはガッツリ使うし、事実家を一軒一括購入している。欲しい物がないから貯金という形になっているだけで、買いたい物があれば使うことを躊躇わない。
ただ確かに他人よりかは物欲や購入意欲が少ないのかもしれない……そういう結論に辿り着き、神哉は買い物の方へ思考をシフトさせた。
「なんか食べたいものある?」
「食べたいものですか……んー、あっ! カレー食べたいです!!」
「カレーか。俺ちょっと前にも作った気がするけど、まぁいいや。んじゃルー取ってきて」
「はーい!」
神哉の指示に元気よく返事をしてニコニコ笑顔で駆け出してゆく彼杵。その後ろ姿を見送り、ふと店の外に目をやると、そこに見知った顔をひとつ見つけた。
「カズ……横にいるのは……あぁ、新しい
和人の横にはめかし込んだ背の低い女性がひとり。ショートカットの似合う清楚な雰囲気の女性だが、果たしてどんな口説き文句をもらって落ちてしまったのだろうか。
「ナルシーの仕事してるとこ、初めて見たんですか?」
「ん、あぁ……そうだな。初めて見た」
いつの間にか戻ってきていた彼杵に問われ、答える神哉。結婚詐欺師だとは知っているが、仕事風景なんて見る機会なかった。
初めて見たが、意外にも――。
「結構男前なんだなアイツ」
「そうなんですよ。若干というかだいぶ腹立ちますよね。いつもベロベロに酔っ払ってて超絶鬱陶しいクセに」
心底嫌そうな顔をして彼杵はカレールーをカゴへ放り投げた。
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「いやー、それにしても人多いね。人混みとか大丈夫だっけ?」
「うん、大丈夫だよ。平気」
それにいち早く気付いた和人は、ニコッと微笑み。
「じゃはぐれないように手、繋いどくよ?」
「あっ、うん/// えへへ」
女性は手を繋いだことでさらに頰を赤くするが、嬉しそうな声を漏らした。
「さて、それじゃあ映画まで時間あるし、色々見て回ろっか」
「そうだね」
「どこか行きたい店とかある?」
「んー、洋服とか見たいかなぁ」
そんな会話を交わしながら、ショッピングモールを歩き始める和人とその
和人は恋人を起こしながら、ぶつかった男が倒れた拍子に落とした物を手に取る。
「はいこれ。落としまし、たよ……?」
「……すみません」
「はい……こちらこそ」
男がぶつかった拍子に黒のトートバッグから落とした物は、無線機だった。和人は手渡しする時に、マスクと帽子で隠しているようにも感じられる目をジッと覗く。その視線から逃れるかのごとく、男はそそくさと人混みに紛れていった。
「怪我してない?
「あ、うん。大丈夫。……あの人、なんかちょっと怖い感じだったね」
「……よし。菜奈実、映画は別の場所にしよう」
「えっ!? 和人くん、急にどうしたの? もうチケット買っちゃってるし……」
「んー、オレが奢るからさ! どうしてもここの映画館じゃなきゃダメ?」
和人が手を合わせながら腰を折ると、恋人――菜奈実は首を捻りながらも。
「いいよ、ここじゃなくても。でもなんで急にそんなこと言い出したの?」
「いやちょっとね~。もしかしたらここ今日にでも、もしかしそうだと思ってさ」
「??」
「気にしないで! ほら、行こう」
和人はイヤな予感を感じ取っていた。否、確定でこの後この大型商業施設で何かが起きる。そう確信したうえでこの場を離れることを決めたのである。
何故か――先ほど菜奈実にぶつかった男の目は、そういう目をしていたから。
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