第25話 あの夜の出来事


溌:「――いやぁ、しっかし、アイツらの店で酒を飲んでくるとはなぁ。つーか、イチゴミルクに酒混ぜて飲ませるなんざぁ、どんだけ下衆なんだよ、アイツら」


慶:「まあ、落ち着け溌。今はそんなことよりも、この状況をどうするか考えるのが先だろう」


溌:「はあ。そうだな……」


雅:「飲んでしまったものは仕方ないし、このまま眠ってしまったことも仕方がないよね。さて、どうしよっかー。このままお家まで送ってあげても良いけど、一人暮らしの女の子のお家に勝手に上がり込むのもねぇ……」


倖:「だったら、今日はウチに泊めてやった方がイイんじゃねえか?」


慶:「そうだな、それが良い。それじゃあ早速私の部屋に――」


雅:「殺すよ? 慶」


慶:「せめてイタリア語で罵ってくれ、兄さん!」


溌:「寝かすならこのままソファで寝てもらおう。オメーら、夜中にヘンなコトすんじゃねーぞ? のりピーに指一本触れるよーなコトがあれば、今後半年間無給で働いてもらうからな!」


雅:「溌ってホント、番犬みたいな性格してるよね」


倖:「溌兄だってまだ若えんだし、性欲とかねえのかな?」


雅:「そんなのゴリゴリにあるに決まってるじゃない! 僕の弟だよ?」


慶:「私達皆、兄さんの弟なんだが……」


雅:「だからゴリゴリでしょ?」


溌:「オイ! くだらねーコト言ってねーで、さっさと風呂にでも入って寝ろっ……!」


みのり:「んー……(モゾモゾ)んっ……」


慶:「……何だか苦しそうだな?」


雅:「ドレス、脱がしてあげようか……」


倖:「いやっ、さすがにそれはマズいんじゃねえのか?」


溌:「だがこのまま寝かせるのも忍びねーぞ? ここはオレが着替えさせるから、オメーら野獣共は外に出てろ」


慶:「はあああ? 何でお前一人で着替えさせるんだ!」


溌:「オメーら全員ケモノ以下の脳みそしかねーからだよ!」


雅:「ちょっと待ってよ、溌。慶と倖は分かるけど、僕までこの二人と同じ括りにされるのは納得いかないなぁ。こう見えても僕は紳士だよ? イタリアという国で伊達男の神髄を叩きこまれた僕だよ? 全ての女の子に優しく、特別な女の子はお姫さま扱いするのは当然じゃないか! ねえ、慶」


慶:「あ、ああ、そうだな(それが原因でマフィアのボスから恨みを買ったんだがな……)」


倖:「じゃ、じゃあ、雅兄が着替えさせるのか?」


雅:「逆に僕しかいないでしょ?」


溌:「はあ……んじゃ、着替えが必要だな。オイゆきんこ、オメーの観賞用ライブTシャツ持って来い。ヤローが既に着た服より、未使用の服を着させられる方がまだマシだろうからな」


倖:「お、おお。分かった、持ってくる……」


慶:「童貞には少しばかり刺激が強すぎるんじゃないか?」


溌:「今代でもサルにファーストキス奪われた奴がナニ言ってんだよ。オメーだって期待してんだろーが」


雅:「僕と溌で着替えさせるから、君は倖と外に出ててよ、慶」


慶:「いや! 兄さんだって変な気を起こさんとも限らんだろう! 溌だけじゃいざという時、兄さんを止められないからな! しっかり私が見張っていないとっ……!」


溌:「いや、オメーが一番暴走する危険性が高えーんだよ!」


倖:「持ってきたぞ、溌兄! BメタのライブTシャツ。未使用、だから……」


雅:「余分に買っておいて良かったね、倖」


倖:「一枚はテメーにヤられたけどな!」


溌:「それじゃー着替えさせるから、オメーら二人は出てけ」


倖:「お、おお……」


慶:「ぐぬぬ、納得いかんなぁ……」


雅:「よし、二人とも出て行ったね。それじゃあ着替えさせようか」


溌:「ああ。つっても、まずは脱がせねーとな。ドレスなんて脱がしたコトねーから、勝手がよく分かんねーな」


雅:「ココちゃんはどんな風に脱がせてたの?」


溌:「なっ! オメー、ナニどさくさに紛れて聞いてきてんだよ! 今関係ねーだろーがっ!」


雅:「えー? 関係あるよー? 女の子の服を脱がせるなんて、そんじょそこらの男じゃ出来ないんだからさー? 人生勝ち組男の境地でしょー? それに、そこまで平常心でいられるってことは、女の子の下着姿を見慣れてるってことじゃない。ねえ、どんな風に脱がせてたかお兄ちゃんに教えてよー? ねえねえはちゅううう!」


溌:「……(イラっ!)」


 ゴンっ!


雅:「痛っ! ええっ? どうして僕殴られたの?」


溌:「ウゼーからだよっ! はあ……。今どんな気持ちでいんのか知らねーけど、無理にテンション上げて自分を隠そうとすんなよな。オメーがのりピーの……姫サマの下着姿誰にも見られたくねーってんなら、オレも出とくし……」


雅:「溌……うん、ごめんね。でも僕、この状況で二人きりにされたら理性保てないから、君もここにいて?」


慶:「私もここにいるぞ、兄さん」


溌:「オメー、ナニドアの隙間から双眼鏡で覗き込んでやがんだよ、変態がっ! どんだけのりピーの下着姿が見たいんだよ!」


慶:「ああ、見たいさ! 寧ろ壁一枚隔てた向こう側で好きな娘が兄弟に脱がされているところを想像したらっ……いやぁー、堪りませんなっ!」


倖:「やめろよっ、慶兄っ! これ以上、俺の中のカッコイイ慶兄像を壊さないでくれっ!」


慶:「はっ! 倖……お前、そこまで私を慕って……」


倖:「あー……でも、兄貴の中じゃ、ダントツ最下位だけど……」


慶:「はあああ? どれだけ私が今までお前の面倒を見てきたと思っているんだ! 小学生のお前の運動会、学習発表会、卒業式、ほぼ全ての学校行事に参加してきた私だぞ!」


倖:「今思えばただのロリコンだろうが!」


みのり:「んー……(モゾモゾ)」


溌:「オイ! オメーら黙れっ! のりピーが起きちまうだろ!」


倖:「いや、もうむしろ起こして自分で着替えさせた方がイイんじゃね?」


雅:「いや、このまま僕達で着替えさせよう」


溌:「ああ。ほらオメーら、もう一度外に出てろ。入ってくんなよ。ぶっ殺すぞ」


倖:「お、おお……(なんで殺気だってんだろ、溌兄)」


溌:「……ナニしれっと座ってやがんだよ、慶りん。オメーも出てろっつっただろーが」


慶:「いや、やはり私はみのりの傍で兄さんを見張ることにする。兄さん自ら理性を保てないと公言したからには、次男として長男の暴走を止める義務があるからな」


雅:「しょうがないなぁ……。言い出したら聞かない性格だからね。分かったよ、でも君は傍にいるだけだよ? 彼女に触れたりしたら……分かるね?」


慶:「あ、ああ。心得ている……」


溌:「こえーな、長男……」


雅:「それじゃあ、脱がせるよ……。あ、ちょっと待って」


溌:「なんだよ?」


雅:「いや、上はTシャツで良いけど、下は? ズボンか何か穿かせてあげないと」


溌:「そ、そうだよな。つっても、ヤローが穿いてねーズボンなんてあったか?」


倖:「お、おれ、使ってないスウェットのパンツ持ってるけどっ……」


雅:「じゃあそれ、貸してくれる? 倖」


倖:「お、おお。持ってくる……」


慶:「……良いな、あいつばかり」


溌:「オイコラ。ナニ羨ましがってんだよ」


慶:「まあ、みのりのことだから、クリーニングに出して返すんだろうがな……」


溌:「オレはもう、ツッコまねーからな」


倖:「持ってきたぜ、溌兄。取りに来て、くれ……」


溌:「ああ。悪ぃーな、ゆきんこ。オメーが一番純粋な奴だ……って、オメー! これデニム生地のスウェットじゃねーか! ナニ高校生がカッコつけてやがんだ、バカヤロー! しかもD&Gのクソ高えヤツだと……? 高校生だろーが! また余計なモンに金使いやがって!」


倖:「いやだって限定品だったから……!」


溌:「ブランドの上限定品だと? それで箪笥の肥やしにしてやがったのか……?」


雅:「まあまあ溌、倖だって働きながら勉強してるんだし、それに見合う対価を得たって良いじゃない」


慶:「そうだぞ? 人生何かしらの潤いがないと、鬼も人間も生きてはいけないからな」


溌:「ったく、オレの気も知らねーで。……ま、今回役に立つならイイけどよ……」


雅:「それじゃあ、みのりちゃんにスウェット穿かせて……っと、後はドレスを脱がせて、Tシャツを着させてあげるだけだね」


溌:「オレがのりピーの体を支えておいてやるから、オメーがドレス脱がしてTシャツ着させろ」


雅:「うん。それじゃあみのりちゃん、ドレス脱がせるね。……慶、君は目を瞑ってて」


慶:「ぐぬぬ……仕方ないな」


雅:「いくよ、溌……アレ? おかしいな?」


慶:「ど、どうした、兄さん!」


雅:「いや、首のところで引っかかって……」


溌:「ああオイ、ちょっと待て。背中にホックがある。今外すからちょっと待ってろよ、……っと! よし、外れたぞ。このまま上に引っ張り上げろ」


雅:「うん。よいしょっと……ん? ンンンン?」


慶:「今度は何だ、兄さんっ!」


雅:「い、いや……!」


溌:「ミーボー?」

 

 バサっ……!


溌:「お、おいっ! 急にナニしやがんだっ、オメー! なんでオレにドレス被せてんだよ、ミーボーっ!」


雅:「な、なんでもないよ……!(意外とたわわだった……!)」


倖:「溌兄っ?」


雅:「今入って来たら夜眠れなくなっちゃうよ、倖っ!」


倖:「えっ! お、おお……?」


慶:「なっ! そんなに恍惚な光景が広がっているのかっ?」


雅:「今目ぇ開けたら目玉えぐり出すよ、慶!」


慶:「えええっ?」


溌:「はあ、死ぬかと思った……って、オイ、ミーボー! ナニテンパってやがんだよ!」


雅:「ハアハアハア……どうにかTシャツまで着せられた……。ごめんね、みんな。もう大丈夫だから」


慶:「目を開けても目玉えぐり出さないか?」


雅:「う、うん。ごめんね、慶。倖も入って来て良いよ」


倖:「お、おお……」


慶:「ああ、みのり……兄さんに下着姿見られてしまったのか」


溌:「オメーに見られるよりマシだろーよ」


倖:「コイツが俺の服着てる……うっ、鼻血出そうっ……」


慶:「ほらな、倖には刺激が強すぎなんだよ。その点私は鼻血なんてものは出さないぞ? 大人の男の余裕だな」


雅:「……カワイイ下着だったな(ボソリ)」


慶:「え? 何色だ? というか、大きさは? 見たんだろう? 兄さんっ……!」


溌:「大人の男の余裕はどこに行った?」


雅:「君に教える訳ないでしょ?」


慶:「じゃ、じゃあ、せめて柄だけでもっ……! 兄さんっ、いや、兄上えええ!」


雅:「ほら、もう寝るよ? リビングの電気消して?」


溌:「はい、おやすみ(コイツらぜってー今夜寝れねーだろーな……)」

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