彼女と会う時はいつも雨.12

下駄箱で、上履きを引っ張り出して、投げ置く。そのまま靴を投げ入れ、適当に履いて、走り出す。走る途中で上履きをきちんと履こうとして、足がもつれる。姿勢を直しながら、走る速度は落とさない。全力で、図書室へとにかく走る。

文化部の朝練を潜り抜け、階段を一段とばしで走り抜け、少年は図書室の前にたどり着いた。方で息をしながら、入口のドアに手をかける。鍵がかかっておらず、ドアはすんなり開いた。

「玲さん……?」

中に入りながらよびかけてみるが、返事はない。中に入って見渡してみるが、玲の姿はない。

「玲さん」

再度呼び掛けてみると、かすかな物音が聞こえた。入口からは死角になっている書棚の方向からだ。おそるおそる近づいてみると、果たしてそこに玲がいて、立って本を読んでいた。

「少年。初めて会った時に私が見せた魔法を覚えているね?人間が――全ての『命あるもの』が魔法を使う時には、二つの重要なことがある。分かるかい?」

玲は少年の方を見ないまま、語りだした。少年の目が玲の顔が青ざめていることに気がついて、視界がそのまま固まってしまったように動かない。

「ひとつ、失敗するときの条件を最低一つ決めること。呪文を唱える、というものが分かりやすいね。唱えきれなければ、失敗する。私の場合にはもっとシンプルで、『雨天でしか使えない』というものが条件だ」

本を閉じて、玲は本を書棚にしまった。髪が静かに揺れて、足音はせずに、本はするりと書棚に収まった。

「ふたつ、命や他人をどうにかしようとすればするほど、対価を大きくしなければならない。だから、魔法使いというものは鍛錬を積み、研鑽に励むのだが、にそんな悠長なことを言う余裕はなくてね、仕方がないから『雨の日にしか存在できない幽霊』になることで、自分の死の運命を壊したんだ」

玲が、まっすぐに少年を見つめる。玲の太ももから下は、かき消したかのように掠れ、薄れ、膝から下は存在していなかった。今までそんなことはなかった。

「私を生かし続ける魔法の失敗条件がまたどうしようもなくてね、『私の弱点が知られたら私は死ぬ』んだ。まさか、こんなに早く私の死がまた来てしまうとは、思っていなかったよ」

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