彼女と会う時はいつも雨.10

本を手に取って、ページをめくる。途中で、ルーズリーフが一枚折りたたまれて、挟まっていた。広げてみると、玲の字が書かれていた。ボールペンで書かれているようだった。

『君の学校の、図書室においで。日にちは、いつでもいいから。でも、いくつか大事な約束事がある。このメモのことを、誰にも言ってはいけない。誰かに、私と会う時に役立ちそうな「武器」を貰ってはいけない。誰かに探られても、「私のことは諦めることにした」というウソをつかなければならない。少年が信じるかどうかはわからないが、

追記、と書かれて、数行空けたところに更に一文書かれていた。

『つまり、Kという少年を、これ以上頼ってはダメだよ。でないと、私に本当に会えなくなる』

追記の部分に触れると、かすかに指についた。見てみると、ルーズリーフにもインクがついている。あたかも、今まさに書かれたかのような真新しさを示している。少年の背筋に寒気が走った。


今すぐ会いに行こうかとも考えたが、学校の校門はもう閉じている時間だ。今行っても無駄足だろう。行くとすれば明日以降になる。寝床の中で、少年は考え続けた。

「でも、時間をかけすぎるわけにはいかないんだ」

約束事には「Kを頼るな」と明言されているが、「Kに感づかれる前に会いに来い」という意味でもあるだろう。武器の部分や、探られてもウソをつけの部分は、そうとしか思えない。今日こんなことがあったばかりだ。Kにウソをついたら、すぐに見抜かれてしまう。どうすればいいのか。

一人で会いに行ったら失敗するかもしれない、という恐怖が、なかなか少年を寝かせてくれない。いっそ会いに行かなければよいのではないか。「諦めた」というウソを本当にしてしまえばいいのではないか。何度もそんな考えが頭をよぎるたびに、

「好きになってしまったんだ。その気持ちには、どれだけ頑張っても、ウソがつけないんだ」

誰も頼ってはいけない。けれど、自分の勇気と決意は頼ることができる。少年は、ひたすら早く朝が来ることを祈っていた。

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