彼女と会う時はいつも雨.2

「えっと、その、あの……」

気持ちが急いて、なかなか言葉にできない。そんな少年の様子はお構いなしに、玲はさらに続ける。悪戯っぽい笑みを浮かべている。傍目から見れば、血のつながった姉弟きょうだいが談笑しているように見えただろう。

「実をいうと、図書館ここで何回か少年の姿を見ていてね。その度にそういう本ばかり借りていたから、少年の趣味はもう知っているんだ。……悪いことをしてしまったかい?」

何も言えないまま赤面する少年の顔を覗き込むようにして、玲は問いかけた。長いまつ毛、深い色の瞳。整った顔立ち。少年の顔は余計に赤くなるが、玲は気が付かない。

「何か言ってもらわないと、私がなんだか不審者みたいに見えてしまうじゃないか。あ、そうだ。少年に一つ面白いものを見せてあげよう」

言うが早いか、玲は自分の学生カバンスクールバッグから、伸縮式の警棒を取り出して、伸ばした。表面に複雑な幾何学模様が刻まれたその警棒の先端には、大きな丸いアメジストがはめ込まれている。持ち手側には、透明感の強い、緋色の六角形の宝石。魔法の杖だ。少年は、見た瞬間に確信した。玲はこれから、魔法を使うのだ。

「星よ、咲け」

そう呟いて、玲が杖を振り下ろすと。


「うわぁ……!」

少年は、感嘆の声を上げた。街の古い図書館のオンボロ書架に挟まれた通路。華やかさの微塵もない、二人のいた場所は超高画質で臨場感たっぷりの星空に早変わりした。見渡す限りの星々は、手を伸ばせば届きそうなほどで、二人の真上には大きな月が空に穴を開けたような姿で二人を見下ろしている。

「これで終わりじゃないよっ。森よ、聳え立て」

再び杖を振りかぶって、今度は横に薙ぐ。その途端に、星空は消え失せ、巨大な見渡す限りの原生林が現れた。幻覚にしてはよく出来すぎている。雨に濡れた土の匂いと、花の匂いが鼻孔をくすぐる。足元の植物に触れることができ、土を撫でることもできる。

「うむ、少年が笑顔になってくれて、嬉しいよ。改めて自己紹介だ。私の名前は玲。君の、トモダチにしてくれないかい?」

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