彼女と会う時はいつも雨.1

彼女と会うときには、いつも雨が降っていたように思う。

初めて会った時には梅雨入り前の雨で、そう不思議には思わなかった。

その後も、梅雨の中での出来事だったので、さほど雨が気になるということはなかった。――梅雨明けまでは。

「やぁ、少年。元気だったかい?」

「……こんにちは、レイさん」

七月。梅雨明けして、夏が始まったころ。暑さにうだりながらいつもの集合場所――街の図書館の、談話コーナーの一番端の机――に向かっていたところ、段々と空が曇り、図書館につく頃にはポツポツと雨が降り出した。心が穏やかになる、静かな温い雨だ。図書館の前で少年を待っていた玲を見て――いつものように儚げにほほ笑むその美しさを堪能しながら――少年は気が付いてしまった。

「玲さんと会うときには、いつもこういう雨が降るんですね」

口は災いの元。言わなければ、そのまま少年は先々月に出会った玲に抱いた淡い恋心を消さずに済んだのに。


玲は中学生の少年よりも、何歳か年上のように見えた。真っ黒なセーラー服に身を包み――いつも冬服を着ていた――透き通るような白い真っ直ぐな白い髪を揺らして歩く。誰もが振り向きそうな美貌の持ち主でありながら、談話コーナーでも図書館の外でも、誰も彼女に目を向ける者はいなかった。

その疑念と期待が、少年の好奇心をむくむくと膨らませていった。少年は、不可思議なものが好きだった。幽霊、妖怪、悪魔に天使。それらに「カッコよさ」や「イカした魅力」を感じ、学校の蔵書は全て読みつくしてしまった。そのため、街の図書館に通ってそういうものについての本を読み漁る。そんな少年の毎日に、玲は風のように現れた。

「少年も、そういうものが好きなのかい?」

玲に話しかけられたときに、少年は自らの目を疑った。夢に描いた通りの、不可思議な物。そうとしか思えない人物が、にっこり笑って彼の後ろに立っているのだ。

「私はレイ。少年の愛するものに目がなくてね」

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