スターゲイザー.10

テレポートしてから四十秒。ミオは立ち止まることなく走り続けていた。敵は出現してから平均一秒で全部炭か塵になっている。このままひたすら全力疾走するだけで終わってほしいと、ミオは願ったが。

「正面。分岐路。対応を」

まだしばらく先であるが、先が丁字路になっている。どちらも道は真っ直ぐで、合流するようには見えない。

「大丈夫。どっちでも好きな方に行きなさい。

「なぜ?」

どう行っても確実に着く、となればこの空間の性質が分かるかもしれない。最悪の可能性を常に考える、というのがリッケルハイムの家訓だ。

「そこは『果て』だもの。極点に向かってさえいれば、必ず着けるでしょう?」

「『星々の果て』……」

魔術師に長くから伝わる噂話ゴシップだ。この宇宙全ての果て。これ以上先には「何もない」場所。魔術師がやがて到達する墓場のような場所だと聞いていたが、確かに言われてみれば背景の星々は供花に見えなくもない。

「別に、大したところじゃないわよ。そこら辺の魔術による空間と全部一緒。まぁ、魔法の道具を落っことしたりしたら世間の常識がひっくり返ったりするけど、特に関係ないじゃない」

右に曲がって、更に話を続ける。丁字路が見えてきた辺りから今まで、敵襲はなかった。

「こんなところに天球儀が落っこちて来た理由って、分からないんですか?」

先ほど聞いたかもしれない質問だが、マヒルは答えた。

「残念だけど送り主に訊いてみないことには分からないわ。私もムカつくから送り主を一回しばいておこうと思ったんだけど、とっくの昔に死んでるみたいだし、行くのも大変なのよ」

「待ってください死後の世界に行けるんですか!?」

魔術師が決して生きたまま到達できない魔術で構成された空間だ。

「ミオ!気を抜かない!!」

後ろから高速で飛来する大きな虫を爆散させながら、マヒルが叱責する。足がもつれたが、ミオはそのまま走り出した。ここから出たらなんとしてもありったけ質問してやると決意して、ミオは再び走る。残り四分。微かに、天球儀が見えた。

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