スターゲイザー.9
†
その後もミオは時間稼ぎを繰り広げたが、マヒルに見抜かれてしまった。
後は現地で指示するから、さっさと行って片付けましょう。
その言葉に何も言い返せないまま、引きずられるように瞬間移動の術式を浴びて、ミオは糸術を張り巡らせる。
目的地は、ぼろぼろの大理石の石畳でできた一本道だった。広くなく、天井も壁もない。幾億の星々の瞬く中で、幅約2mの一本道がポツンと浮いている。ミオは端から端までの間隔を頭に叩き込んだ。三秒経過。よほどのことがない限りは生還できるという確信を得て、ミオは走る。今できることはそれしかなかった。まだ怪物は視界に映らないが、すぐに現れることだろう。
自分の限界は五分だと言ったが、本当は五分三十秒の間、糸術を使い続けることができる。鞭にするということを考えなければ更に二分。ミオよりも、本家の糸術使いの方が維持できる時間は長かったはずだ。しかし、いつでも五分半使えるミオと違って、本家の糸術使いは体力がない。五分半走ってその後に鞭を使うなどという芸当は絶対にできない。
眼前に敵が出現した。甲冑の大男で、右手に巨大なハンマーを持っている。それをまっすぐミオめがけて振り下ろすが、ミオは難なく躱した。躱し終わったタイミングで、大男は巨大な火柱に焼かれて炭化する。大男の死体を蹴り飛ばし、ミオは引き続き走る。まだ視界に天球儀は見えない。残り五分二十秒。
実際のところ糸術を全身に張り巡らせるだけなら痛みや不快感はない。ただ、兎に角響くのだ。糸術は、術者の神経系と循環系に強く結びつく。リッケルハイム家以外の人間が使えばたちまち心不全を起こす量の魔力を全身に流し続けるせいだ。その影響で、全身の感覚が鋭敏になり過ぎるのだ。ほんの少しでも傷を負えば、その痛みのせいで――本当にリッケルハイム家の長い歴史の中にはそういう術師もいるのだが――死んでしまいかねないほどに。
「来ます!直上!」
糸術にわずかな反応があった。空間の乱れだ。空気を裂く音と共に、ミオの脳天目掛けて何かが飛んでくる。
「見えてるわよ。走り続けなさい」
ミオにぶつかる前に、マヒルの防壁がミオの身を守る。肉がぶつかる音がして先ほどの大男と同じように炭化して消滅したことを考えると、鳥か何かだったのだろう。残り五分十五秒。
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